社会調査入門|北星学園大学 2026年度後期

第05回 公的統計の利用

――政府統計・国勢調査・世論調査・e-Stat――

北星学園大学 2026年度後期
小野原 彩香

小野原 彩香
社会調査入門|北星学園大学 2026年度後期

本日の学習目標

  1. 1次データと2次データを区別し、今日使うのがどちらかを言える
  2. 公的統計の定義と種類(基幹統計・一般統計・業務統計)を説明できる
  3. 日本の統計機構が分散型であることと、それが統計の探し方に与える影響を説明できる
  4. 国勢調査の目的・方法・活用方法を理解する
  5. 政府・報道機関の世論調査の違いと限界を把握する
  6. e-Stat を操作して、関心のある統計データを検索・ダウンロードできる
  7. 2次データを使う前に確認すべき4点を挙げられる

前回の復習:横断的調査・縦断的調査の違いとは?

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まず用語 ―― 1次データと2次データ

今日使うのは、全部2次データ

定義 例
1次データ 調査目的を決めたうえで、その目的に合うように自分で集めたデータ 第11回のアンケート、第12回のインタビュー
2次データ 調査目的を決めたとき、すでに公開されていたデータ 国勢調査、家計調査、各省庁の統計

2次データは、他人が別の目的で集めたもの
→ ここが落とし穴の出どころになる

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「二次分析」から考える

2次データを使って分析することを 二次分析(secondary analysis)という


お金も時間もない調査では、まず二次分析で足りないかを考える

すでに国が全数で調べているものを、学生が100人に聞いて確かめ直す意味はあまりない


自分で集める(1次データ)のは、既存のデータでは答えられない問いのとき

第4回「目的に方法を合わせる」は、ここにもかかっている

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1. 公的統計とは何か

統計法(平成19年法律第53号)第2条の定義:

「行政機関等が作成する統計」

  • 国・地方公共団体・独立行政法人等が作成
  • 公共の利益のために整備・公開される
  • 品質確保のため統計法が規律

私的統計との違い:
民間企業の市場調査・メディアのアンケートは統計法の対象外。
目的・品質管理・公開義務が異なる。

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2. 統計の種類(統計法による分類)

種類 定義 例
基幹統計 国の重要政策の基礎。総務大臣が指定 国勢統計、国民経済計算、経済センサス
一般統計 行政機関が作成するその他の統計 学校基本調査、賃金構造基本統計
業務統計 行政事務の副産物として作成 人口動態統計(届出情報を集計)

令和7年(2025年)1月21日現在、基幹統計は54統計
(総務省「基幹統計一覧」)

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日本の統計機構は「分散型」である

制度の話に見えて、統計の探し方に直接ひびく

仕組み 例
分散型 中心となる統計機関と、各府省がそれぞれ所管分野の統計を作る 日本
集中型 ひとつの統計機関が集中して作る カナダ(カナダ統計局)、オーストラリア(ABS)など

総務省の説明

我が国の統計機構は、総務省統計局が国勢の基本に関する統計を作成し、各府省が所管行政と密接に関連する統計を作成する分散型統計機構です。
分散型統計機構においては、各行政機関が作成する統計を横断的に調整する機関が必要となり、その機能は**総務省政策統括官(統計制度担当)**が担っています。

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だから e-Stat が必要になる

分散型だと、統計が作っている省庁ごとにばらばらの場所に置かれる
(労働=厚生労働省、農業=農林水産省、貿易=財務省 …)

探すとき 「どの省庁の仕事か」を考えないと見つからない → それを一箇所にまとめたのが e-Stat
比べるとき 省庁が違えば、調査時期・集計単位・用語の定義が違うことがある
だから調整が必要 政策統括官が、統計関係法令・基本計画・各府省の調査の審査承認・日本標準産業分類などの統計基準を担う

「世帯」「失業者」「事業所」の定義が統計によって違うのは、この構造の帰結

どちらが良いという話ではなく、日本の統計はこういう形で作られている

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基幹統計の例

  • 国勢統計:5年ごとの全数調査(次回は2030年)
  • 国民経済計算(GDP統計):内閣府、四半期ごと
  • 経済センサス:事業所・企業の全数調査
  • 労働力調査:月次・就業状態を把握
  • 家計調査:月次・消費支出を把握
  • 学校基本調査:文部科学省・毎年、学校数・在籍者数等

いずれも e-Stat でデータを取得できる

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3. 国勢調査(Census)とは

  • 正式名称:国勢統計(国勢調査によって作成される基幹統計)
  • 根拠法:統計法・国勢調査令
  • 実施機関:総務省統計局
  • 周期:5年ごと(大規模:西暦末尾0・5年、簡易:それ以外)
  • 対象:日本国内に住むすべての人・世帯(外国人を含む)

目的:
人口・世帯の実態を明らかにし、各種行政施策・選挙区割りの基礎資料とする

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国勢調査の歴史

年 できごと
1920年 第1回国勢調査実施(大正9年)
1945年 第二次世界大戦の影響で簡易調査
2000年代 調査員の確保困難・回収率低下が課題に
2015年 初めてインターネット回答を導入
2020年 オンライン回答を全国標準化
2025年 第21回(最新)調査実施
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国勢調査の調査事項

人に関する項目(2020年調査):

  • 氏名・男女の別・出生年月・国籍
  • 就業状態・従業地または通学地
  • 教育(在学・卒業の別) など

世帯に関する項目:

  • 世帯の種類・世帯人員
  • 住居の種類・建て方・床面積

秘密の保護:統計法第41条・43条により、個人情報は統計目的以外に使用されない

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国勢調査データの活用方法

  • 選挙区の画定:衆議院小選挙区の定数配分(アダムズ方式)の基礎
  • 過疎・過密対策:地域別人口変動を把握し財政調整に反映
  • 公共施設の整備計画:学校・医療機関の需要予測
  • 学術研究:人口社会学・地域社会学・都市計画学

研究者向けデータ:
e-Stat から集計表ダウンロード可能。
匿名データ(サンプリング)はSSJDA(東大社研)経由で申請可能。

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4. 世論調査の仕組み

内閣府世論調査

  • 実施機関:内閣府政府広報室
  • 方法:個人面接聴取法(調査員が訪問)→ 近年は郵送・オンライン併用
  • 標本:住民基本台帳からの層化二段無作為抽出
  • 主な調査:「社会意識に関する世論調査」「国民生活に関する世論調査」等

政府施策への評価・社会意識の把握が主目的

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内閣府 vs. NHK・新聞社の世論調査

項目 内閣府 NHK・新聞社
目的 政策評価・社会意識把握 政権支持率・選挙予測等
実施頻度 年1〜数回(テーマ別) 月次・随時
方法 訪問面接・郵送 RDD(電話無作為抽出)
標本規模 3,000〜5,000人程度 1,000〜2,000人程度
データ公開 全集計表・調査票公開 主要設問のみ公開
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世論調査の限界と批判

  1. 無回答バイアス(Non-response Bias)

    • 電話RDDの回答率は近年20〜40%台に低下
    • 回答しない人の意見が反映されない
  2. 質問文・選択肢の影響

    • ワーディング(言葉の選び方)で回答が変わる
    • 順序効果・キャリーオーバー効果
  3. 社会的望ましさバイアス

    • 調査員の前で「本音」を言えない
  4. オンラインパネルの代表性問題

    • 登録モニターはネット利用層に偏る
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5. e-Stat(政府統計の総合窓口)

URL:https://www.e-stat.go.jp/

  • 総務省統計局が整備し、独立行政法人統計センターが運用管理
  • 2008年から本運用。府省横断で公的統計を一元的に提供
  • 各府省の統計データ(CSV・Excel形式)
  • 統計ダッシュボード(グラフ・地図表示)
  • API提供(プログラムによる自動取得)

社会調査の二次分析の第一歩

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e-Stat の基本操作(1):データ検索

  1. トップページ上部の検索ボックスにキーワードを入力
    • 例:「国勢調査」「労働力調査」「少子化」
  2. 「統計データを探す」→ 「統計分野から探す」でカテゴリ絞り込みも可能
  3. ヒットした統計一覧から、調査名・年次・提供機関を確認
  4. 「データベース」または「ファイル」をクリックしてダウンロード

ポイント:最初は「国勢調査」「都道府県別」「2020年」など具体的なキーワードで絞るとヒットしやすい

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e-Stat の基本操作(2):統計ダッシュボード

URL:https://dashboard.e-stat.go.jp/

  • 17の主要指標(人口・経済・雇用・社会保障など)をグラフ・地図で可視化
  • 地域別・時系列比較が直感的に操作できる
  • データのCSVエクスポートも可能

活用例:

  • 北海道の年齢別人口ピラミッドを時系列で確認
  • 都道府県別の有効求人倍率の変化を地図で可視化
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地域で見るなら ―― RESAS

URL:https://resas.go.jp/ (地域経済分析システム)

  • 2015年4月提供開始。経済産業省と内閣官房・内閣府が提供
  • 人口動態・産業構造・人の流れなどを地図やグラフで可視化
  • 人口マップ、産業構造マップ、まちづくりマップ など

旧システムは2025年3月6日に運用終了、翌3月7日から新システム(2026年6月にも更新)

地域を単位にした問いなら、表を探す前に地図を見ると早い

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統計サイトは数年で終わる

今日いちばん実用的な注意点

サービス 何が起きたか
V-RESAS コロナ禍の地域経済を見るために作られたが、2024年3月1日にサイト公開終了。RAIDA に移行
RESAS API 2024年10月1日に新規登録停止、サービス終了
RESAS 本体 2025年3月6日に旧システム運用終了、翌日から新システム

2022年ごろの解説をそのまま信じると、存在しないサイトを探すことになる
(V-RESAS は現在ドメイン自体が引けない)

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統計サイトを引くときの3つ

  1. 自分でアクセスして、生きているか確かめる
  2. アクセスした日付を書く(「2026年10月27日閲覧」)
  3. 解説ページではなく、提供元の公式ページを典拠にする

→ 第8回(資料・文献調査)でもう一度扱います

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6. 公的統計を使う際の注意点

定義・概念の変更

  • 「完全失業率」の計算方式・「世帯」の定義が過去に変更されることがある
  • 時系列比較では調査票・定義の変更履歴を必ず確認

比較可能性の問題

  • 調査時期・対象年齢・地域区分が異なる統計を単純比較しない
  • 国際比較では各国の定義の違いに注意(例:ILO基準の失業率)

集計単位・カテゴリの確認

  • 「人口」→ 常住人口か現在人口か
  • 「世帯」→ 一般世帯か施設等の世帯か
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2次データを使う前に確認する4点

2次データは他人が別の目的で集めたもの
→ 自分の問いに合うかどうかは保証されていない

確認すること なぜ
① 収集時期 いつ時点のデータか。最新公表が3年前は普通にある
② 収集方法 全数か標本か、誰にどう聞いたか(→ 第10回・第11回)
③ 調査主体 誰が作ったか。省庁・業界団体・企業で目的も中立性も違う
④ 利用の可否と範囲 利用規約・出典表示の条件。ゼミ発表と公開レポートで条件が違うことがある
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「完璧に合うデータ」は存在しないのが普通

自分の問いにぴったり合う2次データは、たいてい見つからない

取れる道は3つ

  1. 問いを、あるデータで答えられる形に調整する
  2. 近いデータで答え、ずれを明記する ← これが誠実な書き方
  3. 自分で集める(1次データ。ただし時間とお金がかかる)

「データがなかったので推測しました」は、3つのどれでもない

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7. 演習:e-Stat でデータを探してみよう

PC(スマホでも可)でアクセス:https://www.e-stat.go.jp/

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演習手順

  1. e-Stat にアクセス
  2. 「統計データを探す」→「統計分野から探す」
  3. 「人口・世帯」 または 「労働・賃金」 を選択
  4. 関心のある統計を1つ選んでクリック
  5. 最新年次のデータ表を開いて、何が読み取れるかメモする

発表(希望者2〜3名):どの統計を選んだか・何が分かったか

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まとめ

  • 1次データは自分で集めたもの、2次データはすでに公開されていたもの。今日は全部2次データ
  • 既存データで答えられる問いは、まず二次分析を考える
  • 公的統計は統計法に基づき、基幹統計・一般統計・業務統計に分類される(基幹統計は54統計)
  • 日本の統計機構は分散型。だから**政策統括官(統計制度担当)**があり、だから e-Stat が必要になる
  • 国勢調査は5年周期の全数調査で、政策・研究の基盤データ
  • 世論調査には政府実施と報道機関実施があり、目的・方法・公開水準が異なる
  • 2次データは ①収集時期 ②収集方法 ③調査主体 ④利用の可否と範囲 を確認してから使う
  • 統計を使う際は定義の変更・比較可能性・集計単位・府省による定義の違いに注意する
  • 統計サイトは数年で終了・移行する。自分でアクセスし、閲覧日を書く
小野原 彩香
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本日の課題

提出期限:次回授業開始前まで(Moodle 提出)
分量:300〜500字程度

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課題内容

e-Stat(https://www.e-stat.go.jp/)にアクセスし、**自分が関心を持つ社会的テーマに関連する統計データを1つ見つけ**、以下の点を述べてください。

  1. 統計名・実施機関・最新の調査年
  2. その統計が何を明らかにしようとしているか(目的・調査対象の説明)
  3. データを実際に見て、気づいたこと・読み取れた傾向を1〜2点
  4. この統計データを用いてどのような研究・分析が可能か、あなた自身のアイデアを述べること

スクリーンショットや図表の添付は任意。初めてe-Statを使った場合は、操作してみた感想も一言添えること。

**1では「実施機関」を必ず書くこと。**日本の統計は分散型なので、同じテーマでも作っている省庁が違えば定義や集計単位が違います。
URLとアクセス日(「2026年10月27日閲覧」など)も添えてください。

小野原 彩香