社会調査入門|北星学園大学 2026年度後期

社会調査入門

第9回 質的研究と量的研究

―アプローチの違いを理解する―

2026年度後期 小野原 彩香

小野原 彩香
社会調査入門|北星学園大学 2026年度後期

本日の内容

  1. 量的研究(quantitative research)とは
  2. 質的研究(qualitative research)とは
  3. 量的研究と質的研究の比較
  4. 混合研究法(mixed methods research)
  5. 「どちらが優れているか」ではなく「研究問いに応じた選択」
  6. 具体的な研究事例での比較
  7. ディスカッション
  8. 本日の課題
小野原 彩香
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量的研究(quantitative research)

数値データを収集し、統計的手法を用いて
社会現象を分析・説明しようとする研究アプローチ。

特徴

  • データは数値として表現される(人数・割合・点数・金額 等)
  • 多くの対象から情報を集め、一般化を目指す
  • 測定可能な変数を操作し、因果関係を検証する
  • 手続きを明示することで再現性が担保される

典型的な手法:アンケート調査・実験・官庁統計の二次分析

小野原 彩香
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量的研究の論理:仮説演繹法(deductive approach)

理論・先行研究
      ↓
  仮説を立てる
      ↓
  データを収集する
      ↓
  仮説を検証する
      ↓
  理論を修正・精緻化する

「〇〇ではないか」という仮説を先に立て、
データでそれを確かめるスタイル

小野原 彩香
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量的研究のキーコンセプト

概念 説明
変数(variable) 測定対象となる特性(年齢・収入・態度点数 等)
独立変数(IV) 原因として想定される変数(例:学歴)
従属変数(DV) 結果として想定される変数(例:年収)
操作化(operationalization) 抽象的概念を測定可能な指標に変換すること
信頼性(reliability) 同じ測定を繰り返したとき同じ結果が得られるか
妥当性(validity) 測定したいものを本当に測定できているか
小野原 彩香
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量的研究の長所と短所

長所

  • 大きな標本から一般化しやすい
  • 手続きが明示的で再現性が高い
  • 変数間の関係性・傾向を統計的に示せる
  • 比較・経時変化の検討に適している

短所

  • 数値化が難しい現象(意味・感情・文脈)を捉えにくい
  • 「何が起きているか(What)」は示せても**「なぜ(Why)」が説明しにくい**
  • 測定の設計が不適切だと、重要なものを見落とす
小野原 彩香
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質的研究(qualitative research)

言語・行動・意味を素材として、
社会現象の文脈・解釈・プロセスを探求するアプローチ。

特徴

  • データは言葉・映像・観察記録などの「非数値」
  • 少数事例を深く掘り下げ、文脈の理解を目指す
  • 当事者の視点・意味世界を重視する
  • 研究の過程で問いが洗練されていく

典型的な手法:インタビュー・参与観察・エスノグラフィ・テキスト分析

小野原 彩香
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質的研究の論理:仮説帰納法(inductive approach)

フィールドに入る
      ↓
  データを収集する
      ↓
  パターン・テーマを見出す
      ↓
  解釈・理論を生成する
      ↓
  概念化・理論化

データの積み上げから意味を導く
「何が起きているのか」を先入観なく探るスタイル

小野原 彩香
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「厚い記述」(Thick Description)

クリフォード・ギアーツ(Clifford Geertz, 1926–2006)
文化人類学者/著作:The Interpretation of Cultures(1973)

  • 行動の表面的な記述(thin description)ではなく、
    その行動が意味するもの・文脈・解釈まで記述すること
  • 例:「男性がまぶたを収縮させた」
     → 薄い記述:「まばたきした」
     → 厚い記述:「仲間に合図を送るウィンクだった。その場の状況では…」

質的研究が目指すのは、こうした意味の層を掘り起こすこと

小野原 彩香
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質的研究の長所と短所

長所

  • 数値化できない意味・感情・プロセスを捉えられる
  • 現象の文脈を深く理解できる
  • 新たな仮説生成や理論構築に向いている
  • 当事者の視点を生かしやすい

短所

  • 標本が小さく一般化が難しい
  • 研究者の主観・解釈が入り込みやすい
  • 時間・労力がかかり再現性の確保が困難
  • 倫理的な配慮がより複雑になることがある
小野原 彩香
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比較表:量的研究 vs 質的研究

量的研究 質的研究
データの性質 数値 言語・映像・記録
研究の論理 演繹的(仮説検証) 帰納的(仮説生成)
サンプル規模 大(数十〜数万) 小(数人〜数十)
目的 一般化・傾向把握 文脈理解・意味解釈
典型手法 質問紙・統計 インタビュー・観察
長所 再現性・一般化可能性 深さ・文脈・意味
短所 「なぜ」の説明が弱い 一般化の難しさ
小野原 彩香
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混合研究法(Mixed Methods Research)とは

量的研究と質的研究を意図的に組み合わせるアプローチ

なぜ混合するのか?

  • それぞれの弱点を補い合うことができる
  • 複雑な社会現象は、一方の方法だけでは捉えきれないことが多い
  • データの三角測量(triangulation):複数の視点から一つの現象を検証する

主なデザイン

デザイン 概要
収斂デザイン(convergent) 量的・質的を並行して実施し、結果を統合する
説明的順次デザイン(explanatory sequential) 量的調査の後、質的調査で「なぜ」を掘り下げる
探索的順次デザイン(exploratory sequential) 質的調査で仮説を生成し、量的調査で検証する
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「どちらが優れているか」という問いは意味がない

  • 量的研究と質的研究は優劣の関係ではない
  • どちらが適切かは、**研究問い(research question)**によって決まる

量的研究が向いている問い(例)

  • 「大学生の〇〇に関する意識は、年齢・性別によって異なるか?」
  • 「〇〇政策の実施前後で貧困率はどう変化したか?」

質的研究が向いている問い(例)

  • 「外国人住民は地域コミュニティでどのような経験をしているか?」
  • 「ひとり親家庭の当事者は、支援制度をどのように意味づけているか?」
小野原 彩香
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具体的な比較事例:「若者の投票参加」を研究する

同じテーマでも、アプローチが違うと何が違うか?

量的研究のアプローチ 質的研究のアプローチ
問い 年齢・学歴・政治関心は投票行動に影響するか? 若者は「選挙に行かない」という選択をどのように意味づけているか?
データ 1,000人への質問紙調査 10〜15人へのインタビュー
分析 回帰分析で影響要因を特定 テーマ分析で意味世界を解釈
結論 「政治関心の高い人ほど投票率が高い(β=.42)」 「"どうせ変わらない"という諦め感と"自分には関係ない"という疎外感が複合している」
小野原 彩香
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ディスカッション(10分)

問い

あなたが関心を持っている社会テーマ(例:SNSと人間関係、格差問題、移住・UIターン 等)について、
量的研究・質的研究のそれぞれではどのような研究ができそうか?
どちらのアプローチがより適していると思うか?その理由は?

グループで共有してみましょう(1人2〜3分)。

ヒント

  • 「何を明らかにしたいのか」から考える
  • 「数えたい」のか「意味を知りたい」のかを問い直す
小野原 彩香
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本日のまとめ

  • 量的研究:数値データ×統計分析→一般化・因果関係の検証
  • 質的研究:言語・意味×解釈→文脈理解・仮説生成
  • 両者は優劣ではなく、研究問いへの適合性で選ぶ
  • 混合研究法:両アプローチを組み合わせ、互いの弱点を補う
  • ギアーツの「厚い記述」:質的研究が目指す意味の深さ
  • 同じテーマでも方法が違えば、異なる問い・異なる知識が生まれる
小野原 彩香
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本日の課題

提出先:LMS(〆切:次回授業前日 23:59)

課題内容

あなたが関心を持っている社会問題・テーマを1つ取り上げ、以下の2点を論じてください。

  1. 量的研究のアプローチ:どのような仮説を立て、どのようなデータをどのように収集・分析するか。何が明らかになると期待されるか。
  2. 質的研究のアプローチ:どのような問いを立て、誰に・どのような方法でアプローチするか。何が明らかになると期待されるか。
  3. (任意)あなたが取り上げたテーマには、量的・質的どちらのアプローチがより適していると考えるか。その理由を述べてください。

分量の目安:300〜500字(3点書く場合は500字程度)

小野原 彩香
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参考文献・次回予告

参考文献(本日)
→ 配布資料「第09回 参考文献リスト」を参照

次回(第10回)予告
「全数調査と標本調査」
→ なぜ一部の人を調べるだけで全体のことがわかるのか?
→ 事前学習:国勢調査とは何か、どのような調査か調べておく

小野原 彩香
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ご質問は?

LMSのメッセージ機能または授業後に声をかけてください

次回: 第10回「全数調査と標本調査」

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