社会調査入門|北星学園大学 2026年度後期

社会調査入門

第10回 全数調査と標本調査

―なぜ一部を調べるだけで全体がわかるのか―

2026年度後期 小野原 彩香

小野原 彩香
社会調査入門|北星学園大学 2026年度後期

本日の内容

  1. 母集団と標本の概念
  2. 全数調査(census)
  3. 標本調査(sample survey)の論理
  4. 無作為抽出(probability sampling)の種類
  5. 有意抽出(non-probability sampling)
  6. 標本誤差と標本の大きさ
  7. 選択バイアスの問題
  8. 実例:内閣府世論調査の標本設計を読む
  9. 演習:標本設計を考える
  10. 本日の課題
小野原 彩香
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母集団(Population)とは

調査で明らかにしたい対象全体の集合

  • 「日本の有権者全体の意識」を知りたい → 母集団:日本の有権者(約1億人)
  • 「北海道の高校生の学習時間」を知りたい → 母集団:北海道の高校生全員
  • 「ある会社の顧客満足度」を知りたい → 母集団:その会社の全顧客

ポイント

  • 母集団は調査の目的によって定義される
  • 母集団の定義が曖昧だと、調査結果の解釈も曖昧になる
小野原 彩香
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標本(Sample)とは

母集団から実際に取り出して調査する一部の集合

母集団(Population)
        ↓  抽出(sampling)
    標本(Sample)
        ↓  調査・分析
  標本統計量を算出
        ↓  推測(inference)
  母集団のパラメータを推定

なぜ一部で全体がわかるのか?
→ 適切な方法で標本を選べば、標本の特性は母集団を**代表(represent)**する

小野原 彩香
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全数調査とは

母集団の全員を対象に実施する調査

代表的な例

  • 国勢調査(令和7年:2025年):日本に住む全員が対象
  • 学校基本調査:全ての学校が対象
  • 企業の全社員へのアンケート
  • 学校の全生徒への意識調査
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全数調査のメリット・デメリット

メリット

  • 母集団の全員のデータが得られる
  • 標本誤差がない(抽出のランダム性に由来する誤差が生じない)
  • 小集団(地域・部署 等)ごとの分析が可能

デメリット

  • コスト・時間・労力が膨大になる
  • 母集団が大きいほど実施が困難
  • 全員に調査することで回答者の負担が大きくなる
  • 完全な全数達成は難しい(国勢調査でも未回答世帯は存在する)
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国勢調査(令和7年)を読む

実施主体:総務省統計局
調査時点:2025年10月1日現在
対象:日本に住む全ての人と世帯
調査項目:氏名・生年月日・国籍・住所・職業・世帯構成 等
回答方法:インターネット回答・調査票郵送・調査員による配布回収

考えてみよう

  • 「すべての人を調査する」はなぜ難しいのか?
  • 住所不定・外国籍・無回答の人はどう扱われるのか?
小野原 彩香
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なぜ標本調査が可能なのか

母集団からランダムに標本を選べば、
標本の特性は母集団の特性を(確率的に)反映する。

直感的な例

  • お味噌汁の味見:鍋全部を飲まなくても一口で味がわかる
    →(ただし)鍋がよくかき混ぜられていることが前提!

「かき混ぜる」=無作為抽出(random sampling)

→ 無作為に選ばれた標本は、母集団を代表する可能性が高い

小野原 彩香
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①単純無作為抽出(Simple Random Sampling)

母集団の全員に等しい確率で当選するチャンスを与え、
くじ引き・乱数表等で選ぶ方法

:全校生徒1,000人から100人を乱数表で選ぶ

長所:偏りが最も少ない理想的な方法
短所:母集団全員のリスト(サンプリング台帳)が必要

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②系統抽出(Systematic Sampling)

名簿などのリストを並べ、一定間隔おきに選ぶ方法

:1,000人のリストから100人を選ぶ場合
→ 最初の1〜10番から1人をランダムに選ぶ(例:7番)
→ 以後、7→17→27→37…と10人おきに選ぶ

長所:手続きが簡単・コスト低
短所:リストに周期的なパターンがあると偏りが生じる可能性

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③層化抽出(Stratified Sampling)

母集団をあらかじめいくつかの層(グループ)に分け、
各層から一定数または比例的に抽出する方法

:都市部・地方の人口比率に応じて標本数を配分

長所:各層の特性を確実にカバーできる/精度が上がる
短所:層の区分けと各層の情報が必要

比例配分と最適配分

  • 比例配分:各層の人口比に応じて標本数を割り当てる
  • 最適配分:調査コストや分散を考慮して割り当てる
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④クラスター抽出(Cluster Sampling)

母集団を「クラスター(集落)」に分け、
クラスターごとランダムに選び、選ばれたクラスター内の全員(または一部)を調査する

:全国の市区町村の中からいくつかを抽出し、
   選ばれた市区町村の住民を調査

長所:リストが不完全でも実施可能・コスト低
短所:単純無作為抽出より標本誤差が大きくなりやすい

多段抽出法:クラスター抽出を2段階以上繰り返す
(例:①都道府県を抽出 → ②市区町村を抽出 → ③個人を抽出)

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有意抽出とは

無作為抽出によらず、調査者の判断や便宜に基づいて
標本を選ぶ方法

主な種類

種類 概要
便宜的抽出(convenience sampling) 手近な人・集まりやすい人を選ぶ(例:授業受講者)
スノーボールサンプリング(snowball sampling) 最初の調査対象者に次の対象者を紹介してもらい、次々と広げていく
割り当て法(quota sampling) 性別・年齢等の割合を事前に決めて、それを満たすよう選ぶ
理論的サンプリング(theoretical sampling) 質的研究で理論の飽和を目指して選ぶ(グラウンデッド・セオリー等)
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有意抽出の限界と質的研究での活用

限界

  • 標本が母集団を代表しない可能性がある
  • 確率的な推測・一般化には適さない

質的研究での活用

  • 質的研究では「代表性」よりも「典型性・情報の豊かさ」が重要
  • スノーボールサンプリングは、接触困難な集団の調査に有効
    (例:当事者コミュニティ・ホームレス経験者・薬物依存者 等)
  • あくまで「この事例から何が言えるか」という問いに応える
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標本誤差と標本の大きさ

標本誤差:標本の特性と母集団の特性との間に生じるランダムな誤差

  • 標本誤差は標本が大きいほど小さくなる(SE = σ / √n)
  • 完全になくすことはできない(全数調査でない限り)

目安(比率の場合・95%信頼水準)

標本数 標本誤差の目安
n = 100 ± 9.8%
n = 400 ± 4.9%
n = 1,000 ± 3.1%
n = 2,500 ± 2.0%

必要な標本数は「母集団の大きさ」ではなく「必要な精度」で決まる
→ テレビ視聴率(ビデオリサーチ社):約2,700世帯で日本全体を推計

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選択バイアス(Selection Bias)とは

標本の選ばれ方に系統的な偏りが生じること

インターネット調査の偏りの例

  • インターネットを利用しない層が除外される(高齢者・低所得層等)
  • 回答意欲の高い人が過剰に集まる
  • パネル調査では登録者の特性に偏りがある

歴史的な失敗例:Literary Digestの1936年米大統領選予測

  • 約230万人に調査を実施
  • 電話帳・自動車登録者を使って抽出 → 豊かな層に偏った
  • 結果:大外れ(実際はルーズベルトが圧勝)

→ 標本の大きさより、標本の選ばれ方(代表性)が重要

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実例:内閣府世論調査の標本設計を読む

調査概要(例:「社会意識に関する世論調査」)

項目 内容
調査対象 全国18歳以上の日本国籍を持つ者
標本数 3,000人(回収目標:約1,800人)
抽出方法 層化2段抽出法(地域×都市規模で層化→地点抽出→個人抽出)
調査方法 調査員による個別面接聴取法
実施時期 毎年1〜2月頃

考えてみよう

  • なぜ「層化2段抽出法」を使っているのか?
  • 面接調査にはどのような長所・短所があるか?
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演習(10分):標本設計を考える

テーマ:「北海道の大学生のアルバイト状況に関する調査」を実施したい

グループで以下を検討してください

  1. 母集団をどう定義するか?
  2. 全数調査標本調査のどちらが現実的か?その理由は?
  3. 標本調査を行う場合、どのような抽出方法を使うか?
    • 利用可能なサンプリング台帳は何か?
    • 何人を対象にするか?
  4. どのような選択バイアスが生じる可能性があるか?

各グループの検討結果を発表してもらいます。

小野原 彩香
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本日のまとめ

  • 母集団:調査で明らかにしたい対象全体
  • 全数調査:全員を調査→精度高いがコスト大
  • 標本調査:適切な抽出で母集団を代表できる
  • 無作為抽出の4種類:単純無作為・系統・層化・クラスター
  • 有意抽出:代表性より典型性・接触可能性を優先(質的研究で多用)
  • 標本誤差:標本が大きいほど小さくなる
  • 選択バイアス:大きさより選ばれ方(代表性)が重要
  • 実際の調査では複数の抽出方法を組み合わせる(多段抽出)
小野原 彩香
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本日の課題

提出先:LMS(〆切:次回授業前日 23:59)

課題内容

以下のいずれかの調査(または自分で見つけた調査)を取り上げ、その標本設計について論じてください。

  • 内閣府「社会意識に関する世論調査」(最新版、内閣府ウェブサイト公開)
  • NHK「日本人の意識」調査
  • 自分で選んだ学術論文・報告書中の調査

記述する内容

  1. 調査の名称・実施機関・調査時期
  2. 母集団と標本の設計(対象・抽出方法・標本数)
  3. 標本設計の妥当性に関するあなたの評価:何が適切か、どのような限界・問題があるか

分量の目安:300〜500字

小野原 彩香
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参考文献・次回予告

参考文献(本日)
→ 配布資料「第10回 参考文献リスト」を参照

次回(第11回)予告
「アンケート調査の方法と調査例」
→ 質問紙はどのように設計するのか?
→ 事前学習:内閣府世論調査の調査票を一度見ておくこと

小野原 彩香
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ご質問は?

LMSのメッセージ機能または授業後に声をかけてください

次回: 第11回「アンケート調査の方法と調査例」

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