社会調査入門|北星学園大学 2026年度後期

第12回 インタビュー調査の方法と調査例

社会調査入門

2026年度後期

小野原 彩香
社会調査入門|北星学園大学 2026年度後期

前回の課題を振り返る

第11回課題:関心テーマについてアンケート調査票の骨格(設問5問程度)を設計する

いくつかの例を紹介します。

  • 設計した質問文に、ダブルバーレルや誘導はありませんでしたか?
  • リッカート尺度の選択肢は対称でしたか?

今日学ぶインタビュー調査と比較しながら、「どちらの方法がより自分の問いに合っているか」を考えてみましょう。

小野原 彩香
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本日の学習目標

  1. インタビュー調査の特徴を質問紙調査と比較して説明できる
  2. 3種類のインタビューの違いと使いどころを理解する
  3. インタビューガイドの骨格を自分で作れる
  4. ラポール形成と積極的傾聴の技術を知る
  5. 逐語録の意義と倫理的配慮を説明できる
  6. 模擬インタビューを通じて実践的なスキルを体験する
小野原 彩香
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1. インタビュー調査とは何か

インタビュー調査(聴き取り調査)とは、調査者が対象者と直接対話することを通じて、意味・経験・解釈を収集する調査方法。

量的調査との比較

アンケート調査 インタビュー調査
問いの性質 「どのくらい?」「どちら?」 「なぜ?」「どのように?」
データ 数値・カテゴリ 言葉・語り
対象者数 多い(数百〜数千) 少ない(数人〜数十人)
深さ 広く浅く 狭く深く
事前仮説 必要(検証型) 不要でもよい(探索型)
小野原 彩香
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インタビューが適している場面

  • 対象者の主観的経験・解釈・意味を理解したい場合
  • 調査テーマについて既存知識が少なく、何を聞けばよいか未確定な場合
  • 複雑な社会過程(例:意思決定、移行期の経験)をプロセスとして理解したい場合
  • 調査票では聞きにくいデリケートなテーマ(病気・家族関係・差別経験など)
  • 既存調査の結果をなぜそうなのかという観点から深掘りしたい場合

:「大学進学を機に北海道外から来た学生が、北星学園大学への所属感を形成する過程」

小野原 彩香
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2. インタビューの3種類

構造化インタビュー(structured interview)

  • あらかじめ決めた質問を全員に同じ順序・言葉で尋ねる
  • 調査員による揺らぎを最小化し、回答の比較が容易
  • 面接調査形式のアンケートに近い
  • 例:就職面接、センサスの聴き取り

半構造化インタビュー(semi-structured interview)

  • **大まかなガイド(インタビューガイド)**を用意するが、対話の流れに合わせて柔軟に変更する
  • 社会科学の質的調査で最も広く使われる形式
  • 例:生活史調査、職業経験調査

非構造化インタビュー(unstructured interview)

  • 事前に決めた質問はほぼなく、会話の流れに委ねる
  • 深いラポールと高い技術が必要
  • 例:エスノグラフィー、ライフヒストリー研究
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3. インタビューガイドの作成

インタビューガイド(interview guide):半構造化インタビューで使用する質問の見取り図

作成の手順

  1. 研究目的を確認する:最終的に何を明らかにしたいのか
  2. トピックリストを作る:必ず聞きたいテーマを列挙する
  3. 大まかな質問を書く:各トピックに2〜3問の主要質問を準備する
  4. プローブを用意する:もっと深掘りするための追加質問
  5. 順序を整える:安心感のある話題から始め、徐々に核心に近づく

目安

  • 60〜90分のインタビューで、主要質問は5〜8問程度
  • ガイドはあくまで「地図」。対話の流れを優先すること
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インタビューガイドの例

テーマ:「就職活動の経験と職業アイデンティティの形成」(北星学園大学4年生対象)

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オープニング(ウォームアップ)

  • 現在の就職活動の状況を聞かせてください。

本題(1)就活開始のきっかけ

  • 就職活動を意識し始めたのはいつごろですか?何かきっかけはありましたか?
    • (プローブ)その時どんな気持ちでしたか?

本題(2)業界・職種の探索

  • どのように業界・職種を絞っていきましたか?
    • (プローブ)悩んだり迷ったりした点はありましたか?

本題(3)意思決定の過程

  • 内定先(または志望先)を最終的に決めた理由を教えてください。

クロージング

  • 振り返って、就職活動を通じて自分の中で変わったことはありますか?
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4. ラポール(rapport)の形成

ラポール:調査者と被調査者の間に築かれる信頼・安心感の関係

ラポール形成が重要な理由

  • 信頼関係がないと、表面的な答えしか得られない
  • デリケートな話題に踏み込むには、安心感が不可欠
  • 良いラポールがあれば、対象者が自発的に語り始める

ラポール形成の方法

  • 自己紹介と調査目的の説明:誰が・なぜ・何のために調査するか
  • インフォーマルな会話:インタビュー前に雑談をして緊張をほぐす
  • 非審判的な態度:正しい/間違いの評価をしない
  • 共感の表明:「なるほど」「それは大変だったんですね」等のうなずき
  • 外見・服装:対象者コミュニティになじむ配慮
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5. 聴く技術(1):積極的傾聴

積極的傾聴(active listening):ただ聞くのではなく、理解を深めるために能動的に関わること

主な技術

言い換え(paraphrasing)

「つまり、最初は不安だったけれど、だんだん慣れてきたということですか?」

要約(summarizing)

「今おっしゃったのは、A→B→Cという流れですか?」

感情の反映(reflecting feelings)

「その時はとても嬉しかったんですね」

沈黙(silence)の活用

回答後に5〜10秒待つことで、対象者がさらに語り始める

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5. 聴く技術(2):プローブの使い方

プローブ(probe):回答を深めるための追加的な問いかけ

プローブの種類

種類 目的
詳述プローブ もっと詳しく語ってもらう 「もう少し詳しく教えていただけますか?」
具体化プローブ 具体例を求める 「例えばどのような状況でしたか?」
対比プローブ 比較・対比を引き出す 「以前と比べてどう変わりましたか?」
感情プローブ 感情的側面を掘り下げる 「その時どんな気持ちでしたか?」

注意:プローブは中立的に使うこと。誘導にならないよう注意。

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6. 記録方法

録音

  • 最も正確に言葉を残せる
  • 必ず事前に同意を得ること
  • ノイズ・機器トラブルに備えてメモも並行して

メモ(フィールドノーツ)

  • キーワード・数値・印象的な発言をメモ
  • 録音の補完として使う
  • インタビュー直後に「覚えている間に」詳しく書き起こす

記憶(録音もメモもしない場合)

  • グループワークや非公式な場での聴き取りに限定
  • インタビュー終了直後に全て書き出す
  • 記憶の再構成バイアスに注意
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7. 逐語録(トランスクリプト)の作成

逐語録(transcript):録音した音声を文字に起こしたもの

なぜ逐語録が必要か

  • 分析の際に言葉をそのまま参照できる
  • 「言ったこと・言わなかったこと」を正確に記録できる
  • 他の研究者による追検証が可能になる

逐語録作成のルール

  • 言葉を要約・修正せず、言ったとおりに書き起こす
  • 「えー」「あの」などの言いよどみも記録する
  • 非言語情報(笑い・沈黙・声のトーン)も記号で記録する
    • 例:「(笑)」「(4秒の沈黙)」「(声が小さくなる)」

時間の目安:1時間の録音の逐語録作成に、6〜10時間かかることもある

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8. 倫理的配慮

調査参加者が、調査の目的・方法・リスク・利益を十分に理解した上で、自由な意思で同意すること

確認事項

  • [ ] 調査の目的と利用方法を説明したか
  • [ ] 録音・掲載の可否について確認したか
  • [ ] 途中でやめる権利があることを伝えたか
  • [ ] 個人情報の管理方法を説明したか
  • [ ] 研究成果の公開方法(論文・発表等)を伝えたか

匿名性の保持

  • 報告書では仮名・記号を使う(例:「Aさん(20代・女性)」)
  • 地名・職場名など特定につながる情報は変えるか削除する
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9. 分析方法の概観

KJ法(川喜田二郎、1967)

  • 逐語録からキーフレーズを抽出し、親和性のあるものをグループ化
  • 帰納的に概念・カテゴリを生成する
  • 初学者でも比較的取り組みやすい

グラウンデッド・セオリー(Glaser & Strauss, 1967)

  • データから体系的に理論を生成する手続き(コーディング→カテゴリ化→理論生成)
  • 反復的なデータ収集と分析を組み合わせる(理論的サンプリング)

ナラティブ分析(narrative analysis)

  • 語り(ストーリー)の構造・意味・語り方そのものを分析する
  • 「人々はどのように経験を意味づけるか」に注目する

ここでは概観にとどめる。実際の分析は、最終課題(第14回)で自分のテーマに引きつけて考えてみてほしい。

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10. 実際のインタビュー調査事例を読む

事例:岸政彦(2015)『断片的なものの社会学』朝日出版社

  • 大阪の被差別部落出身者・沖縄出身者への生活史インタビュー
  • 「証言」ではなく「語り」として記録・提示
  • 研究者自身の解釈・反省(リフレクシビティ)も含む

読み方のポイント

  1. どのような問いを立てているか?
  2. 語りのどの部分が「データ」として使われているか?
  3. 研究者はどのように分析・解釈しているか?
  4. 倫理的配慮はどのようになされているか?

調査入門書だけでなく、実際の研究成果を読むことで「目指す形」がわかります。

小野原 彩香
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11. ロールプレイ演習:模擬インタビュー

進め方(25分)

ペアに分かれ、インタビュアーとインタビュイーの役割を交代する

テーマ:「大学生活における学びの経験と将来への見通し」

小野原 彩香
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インタビュアーへの指示(10分)

  • 事前に3〜5問の質問をメモしておく
  • 積極的傾聴を意識する(うなずき・言い換え・沈黙の活用)
  • プローブを少なくとも1回使う

インタビュイーへの指示

  • 自分の本当の経験を話してよい
  • 答えにくい質問はその旨を伝えてよい

振り返り(5分)

  • うまくいった点・難しかった点を互いに共有する
小野原 彩香
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本日のまとめ

  • インタビュー調査は深さと意味を重視する質的アプローチ
  • 構造化・半構造化・非構造化の3種類。目的によって使い分ける
  • インタビューガイドは「地図」であり、会話の流れを妨げない
  • ラポール形成積極的傾聴が質の高いデータにつながる
  • 録音→逐語録の作成が分析の基礎
  • インフォームドコンセント・匿名性の保持は研究倫理の根幹
  • 分析手法(KJ法・GTM・ナラティブ)は次回以降に詳しく学ぶ
小野原 彩香
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本日の課題

課題:インタビューガイドの作成と分析方向性の検討

あなたが関心を持つ社会的テーマについて、インタビュー調査を実施することを想定し、以下を作成してください。

  1. テーマと問い(2〜3行):何をどのような問いとして調査するか
  2. 対象者(1〜2行):どのような人に話を聞くか、その理由
  3. インタビューガイド(主要質問4〜6問、プローブを各1問以上)
  4. 想定される回答の一例(1問について100〜150字程度で想像して記述)
  5. 分析の方向性(2〜3行):得られたデータをどのように分析するか(KJ法・GTM等の手法を参照してよい)

提出字数:300〜500字程度(ガイドの記述を含む)
提出期限:次回授業開始前

小野原 彩香
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次回予告:第13回

量的データの集計と記述統計

  • 度数分布表・ヒストグラムの作成
  • 代表値(平均・中央値・最頻値)と散布度
  • クロス集計と独立性の検定の基礎
  • Excelを使ったデータ処理の実習

事前準備:第11回で設計した調査票のデータをExcelで入力するワークシートを用意します。

小野原 彩香