社会調査入門|北星学園大学 2026年度後期

第13回 観察法の方法と調査事例

非参与観察・参与観察・フィールドノート

社会調査入門
北星学園大学 2026年度後期
小野原 彩香

小野原 彩香
社会調査入門|北星学園大学 2026年度後期

本日の目標

  1. 観察法(observation)の特徴と他の調査方法との違いを説明できる
  2. 非参与観察と参与観察の長所・短所を比較できる
  3. フィールドノートの基本的な書き方を理解する
  4. 観察調査における倫理的問題を考察できる
小野原 彩香
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1. なぜ「観察」するのか

人々は自分の行動を正確に言語化できない

  • 「毎日どのくらいスマホを見ますか?」→ 実際と申告値はしばしば乖離する
  • 習慣的・無意識的な行動は、インタビューでは捉えにくい
  • 「見ること」で初めて見える社会的現実がある

「行動は言葉よりも多くを語る」
(Actions speak louder than words)

観察法(observation method) とは、研究者が調査対象の行動・相互作用・環境を直接目撃・記録する方法である。

小野原 彩香
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観察法が適している場面

場面 理由
日常的・習慣的行動の研究 本人も意識していない
子ども・動物など言語化困難な対象 インタビュー不可
集団内の相互作用の分析 言語データでは再現不可
「言動の不一致」の検証 意識と行動のズレを捉える
場所・環境の影響を調べる研究 文脈ごと記録できる
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言語データとの違い

インタビュー・質問紙 の限界

  • 社会的望ましさバイアス(本音を隠す)
  • 回想バイアス(記憶の誤り)
  • 意識化されていないことは答えられない

観察法 の強み

  • 実際の行動をリアルタイムで記録
  • 言語化されない「当たり前」を可視化
  • 非言語コミュニケーション(表情・距離感・視線)も捉える
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2. 非参与観察(Non-participant Observation)

定義: 観察者は調査対象のグループや活動に参加せず、外部から観察・記録する方法

調査者  →  観察のみ  ←  対象集団
 (外部)                        (参加しない)

事例

  • 交通量調査・歩行者の動線調査
  • 公共空間(駅・公園・広場)での行動観察
  • 幼稚園の観察窓ガラス越しの児童行動記録
  • 店舗での顧客行動分析(マーケティング調査)
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非参与観察の長所と短所

長所

  • 調査者の存在が対象に及ぼす影響が比較的小さい
  • 体系的・構造化された記録がしやすい
  • 複数の調査者で同時並行できる
  • 感情移入による主観混入が少ない

短所

  • 行動の「意味」や「文脈」が理解しにくい
  • 観察者効果(Hawthorne effect):気づかれると行動が変わる
  • アクセスの問題:入れない場所・タイミングがある
  • 表面的な行動しか見えず、内面・動機が不明
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3. 参与観察(Participant Observation)

定義: 調査者が対象となる集団・活動に実際に参加しながら、内部から観察・記録する方法

調査者  →  集団に参加  +  観察・記録
 (内部)          ↕
            集団の一員として関わる

事例

  • 路上生活者コミュニティに参加して生活する
  • 工場に就職しながら労働環境を調査する
  • 地域コミュニティの祭りに参加しながら記録する
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公然 vs 隠れた参与観察

種別 説明 倫理的評価
公然の参与観察(overt) 調査者であることを対象者に知らせて参加 倫理的に問題が少ない
隠れた参与観察(covert) 調査者であることを隠して参加 深刻な倫理的問題あり

隠れた参与観察の事例(倫理議論の出発点)

  • Laud Humphreys『公衆便所での出会い』(1970)
    • 同性愛者の行動を隠れて観察・記録
    • 研究倫理の観点から現在でも激しく議論される
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参与観察の長所と短所

長所

  • 行動の意味・文脈・背景を深く理解できる
  • 言語化されない「暗黙知」にアクセスできる
  • 集団の内側の論理・価値観を体感できる
  • 長期観察で変化・プロセスを追える

短所

  • 主観性・感情移入:「行き過ぎた同一化(over-rapport)」
  • 客観的視点の喪失:「目が慣れる」問題
  • 時間と労力が膨大
  • 記録の困難さ(参加しながらノートを取れない)
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4. フィールドノート(Field Notes)の取り方

フィールドノートとは、観察中・観察後に研究者が記録するすべての文書の総称

3種類のノート(Emerson et al., 1995)

種類 内容
記述ノート(descriptive notes) 見たこと・聞いたことをできるだけ客観的に記述
省察ノート(reflective notes) 調査者自身の感情・疑問・解釈を記録
方法論ノート(methodological notes) 調査のプロセス・判断・変更点を記録
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フィールドノートの実践

記述ノートの書き方のコツ

  • 「評価語」を避け、具体的行動を記録する
    • ×「男性が怒っていた」
    • ○「男性は声を荒げ、テーブルを手で叩いた」
  • 日時・場所・人物(匿名化)・天気・状況を記す
  • できる限り早く(現場を離れたらすぐ)書く
  • 記憶ではなく事実を書く

省察ノートの意義

  • 調査者の「バイアスの在処」を可視化する
  • 感情的な反応を記録することで後の分析に活かせる
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5. 観察法における倫理的問題

インフォームドコンセントと隠れた観察の緊張

  • 公共空間での観察:明示的な同意は必要か?
  • 準公共空間(カフェ・病院待合室):グレーゾーン
  • 私的空間・閉じた集団:同意なしの観察は原則不可

ゲートキーパー(gatekeeper)問題

  • フィールドへの入口を守る「門番」(管理者・リーダー等)
  • ゲートキーパーの許可だけでは不十分な場合もある
  • 参加者それぞれへの説明が必要
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6. 観察調査の実例

学校現場の観察研究

  • 伊藤哲司(1993):小学校における「いじめ」の観察
  • 教師・児童双方の視点から相互作用を記録

医療現場の観察研究

  • 医師と患者のコミュニケーション観察
  • インフォームドコンセントの実際の場面を記録

街頭・公共空間の観察

  • ウィリアム・H・ホワイト『都市という空間』(1980)
  • ニューヨークの広場における人々の行動パターンを観察
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7. ディスカッション(15分)

グループで考えてみよう

テーマA:観察調査に適したテーマを探す

  • あなたの身近な社会現象の中で、インタビューや質問紙より観察が向いているものはどれか?なぜ?

テーマB:倫理的課題を考える

  • カフェで一人で座っている人を観察してフィールドノートを作成することは倫理的に問題があるか?条件は何か?

各グループ5分ほど話し合い、代表者が発表してください。

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8. 本日の課題

公共空間での非参与観察(フィールドノート作成)

課題内容:
カフェ・駅・公園・図書館など、あなたが選んだ公共空間で 30分間の非参与観察 を行い、フィールドノートを作成してください。

提出物(300〜500字):

  1. 観察場所・日時・天候など場の概要(50字程度)
  2. 記述ノート:観察した行動・出来事を具体的に記述(150〜200字)
  3. 省察ノート:観察しながら感じたこと・疑問・気づき(100〜150字)
  4. 振り返り:この観察を通じて気づいた「観察法の難しさ」(50〜100字)

提出期限: 次回授業(第14回)開始前まで
提出方法: manaba のレポート提出から

注意:他者のプライバシーに配慮し、個人が特定されないよう記述すること。

小野原 彩香
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本日のまとめ

  • 観察法は「行動を直接見る」ことで、言語化されない社会的現実にアクセスする
  • 非参与観察:外部から記録する/参与観察:内部から体験しながら記録する
  • フィールドノートには記述・省察・方法論の3種類がある
  • 「隠れた観察」は深刻な倫理問題を引き起こす
  • 観察者効果・感情移入・客観性の確保が主要な課題

次回(第14回)予告: エスノグラフィとは何か?観察法を発展させた質的研究の方法論を学びます。

小野原 彩香
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参考文献(本日使用)

  • 大谷信介ほか編(2013)『新・社会調査へのアプローチ』ミネルヴァ書房
  • Emerson, R.M., Fretz, R.I., & Shaw, L.L. (1995). Writing Ethnographic Fieldnotes. University of Chicago Press.
  • Humphreys, L. (1970). Tearoom Trade: Impersonal Sex in Public Places. Aldine.
  • Whyte, W.H. (1980). The Social Life of Small Urban Spaces. Conservation Foundation.
小野原 彩香