統計学Ⅰ(B)2026 第2回

第2回 代表値の性質と、その嘘

「平均的な人」は実在するか

統計学Ⅰ(B) 北星学園大学
小野原 彩香

統計学Ⅰ(B)2026 第2回

今日のゴール

  1. 平均・中央値・最頻値の性質の違い
  2. 平均が「順位上の真ん中」「最も多い値」を表すとは限らない
  3. 外れ値は消していいのかを判断できる

到達目標 G1(記述統計)

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第1回の復習

そして、実際にあった間違い

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第1回で確認したこと

  • 直感は「なんとなく」ではなく、一定の向きに裏切る
  • モンティ・ホールの答えは、条件を整理すれば 計算だけで出せる
  • 地図:記述統計(第2〜3回)→ 推測統計(第6回以降)

今日はその入口、記述統計の1回目

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第1回の課題:パートAの誤答(83名中6名)

設問 人数 間違いの中身
A4(回数とばらつき) 3名 回数を増やすと何が変わるかの取り違え
A1(ドアを変えるか) 2名 「変えない」を選んだ
A3(誕生日) 1名 「23人だから約23%」(正しくは約51%)
A2(勝率) 1名 ―

足すと7になるのは、A1とA2の両方を誤った人が1名いるため

記号は正答でも、本文に 別の数字を書いた答案も1名
(「(ウ) 約67%」を選んで「約90%」と記述)

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つまずき① 「理論値=1万回のときの値」

理論値 2/3 は 計算で出る値。試行回数とは無関係


なぜ起きる?

Colab の画面では、理論値と1万回の実測値が
同じ場所に並んで現れる

→ 「1万回で出た数字が理論値」とつながってしまう

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つまずき② 「回数を増やすと当たる確率が上がる」

上がるのは 確率ではなく、推定の精度
「変える」の勝率は 1回目からずっと 2/3


なぜ起きる?

グラフの線が 2/3 に「上がっていく」ように見える
動いているのは 観測された割合 なのに、
確率そのものが動いたと読んでしまう

→ 2つを同じ言葉で呼んでいるのが原因

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つまずき③ 回数を1つしか試していない(約15名)

設問は「回数を変えるとどうなるか」

1つだけでは、比べるものがない


なぜ起きる?

1万回で理論値にぴたり合うと「確かめられた」と感じる
でも 少ない回数でずれることを見ないと、
回数が効いているのかは分からない

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この3つは、今日そのまま出てくる

第1回のつまずき 今日どこに現れるか
① 理論値と実測値を同一視 「平均」は計算で出る値。典型的な人ではない
② 2つを同じ言葉で呼ぶ 平均・中央値・最頻値を**ぜんぶ「真ん中」**と呼ぶ
③ 1つしか試さず結論 代表値1つでは分布の形は分からない

とくに② ―― 日常語の「真ん中」でまとめると、今日の話は全部ぼやける

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3つの代表値

代表値 定義 ひとことで
平均値 全部足して個数で割る 等しく分けたら一人いくら
中央値 順に並べた真ん中 ちょうど真ん中の人
最頻値 最も多い値 いちばんありがちな値

どれも「代表」。でも別物。

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式の読み方 ―― ∑\sum に慣れる

xˉ  =  1n∑i=1nxi\bar{x} \;=\; \frac{1}{n}\sum_{i=1}^{n} x_i

記号 指しているもの
xix_i ii 番目のデータ(ii は番号を入れる箱)
nn データの個数(霊長類なら 265)
∑i=1n\sum_{i=1}^{n} x1+x2+⋯+xnx_1+x_2+\cdots+x_n の略記。新しい計算ではない
xˉ\bar{x} 平均。横棒は「平均をとった」という印

✗ よくある誤り:∑\sum をかけ算と思う/「xx を nn 倍」と読む

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中央値と最頻値には、この式がない


  • 中央値 … 順番に並べる 手順
  • 最頻値 … 数えて一番多いものを選ぶ 手順

1本の式で書けるかどうかも、
3つの代表値の 違いのひとつ

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クイズ

ニュース:「日本人の平均貯蓄額は◯◯万円」


あなたの実感より、高くない?

その違和感、正しいかもしれない。

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霊長類 265種の体重

代表値 値
平均値 5,881 g
中央値 3,006 g
最大値 149,325 g(ヒガシゴリラ)← 犯人
最小値 31 g(ネズミキツネザル)

**平均は中央値のほぼ2倍。**最大と最小は4,800倍ちがう

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なぜズレる?

右に裾を引く → 平均(赤)が山より右へ引っ張られる

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外れ値を除くと…

平均 中央値
全265種 5,881 g 3,006 g
ヒト科7種を除く 4,127 g 2,797 g

  • 平均は1,754g も動く(外れ値に弱い)
  • 中央値は209g しか動かない(頑健 robust) → 動いた量は 8.4倍 違う
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外れ値は消していい?

→ 理由を言えるかどうか

  • 入力ミス(身長1710cm)→ 訂正・除外OK
  • 本物の富裕層 → 勝手に消すのは改ざん(結果を歪める不適切な処理)
  • 「平均を下げたいから消す」→ 禁じ手

迷ったら「中央値で報告」or「両方示す」

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対称に近いと、平均と中央値は近づく

妊娠期間日:平均164.4日 / 中央値165.5日(歪度 −0.06)→ ほぼ同じ

最頻値まで一致するとは限らない(例:1,1,2,3,4,5,5 は平均=中央値=3、最頻値は1と5)


体重では、少数の大きな値が平均を押し上げ、中央値との差が大きくなった。
一方この妊娠期間では、平均と中央値が近かった。
だから――まず分布の形(ヒストグラム)を見る。

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発展

平均と中央値は「同じ問い」への2つの答え

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代表値を「決め方」から逆に考える

データを 1つの数 cc で代表させる。
cc が代表として どれだけ下手か を点数にして、
その点数がいちばん小さい cc を探す。


下手さの測り方を変えると、出てくる答えが変わる

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データが 1, 2, 6 だけのとき

候補 cc ズレを二乗して合計 ズレの絶対値を合計
1 26 6
2 17 5 ← 最小
3 14 ← 最小 6
4 17 7
6 41 9

同じデータなのに 最小の場所が違う
二乗 → c=3c=3 = 平均 / 絶対値 → c=2c=2 = 中央値

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なぜ二乗や絶対値? ―― 符号を消すため

c=3c=3 のとき、ズレは −2, −1, +3-2,\ -1,\ +3


そのまま足すと 00。打ち消してしまう


符号の消し方は2つ ―― 二乗する か 絶対値をとる か

この選択が、平均と中央値の分かれ目

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絶対値のほうは「引っ越し先」の問題

数直線上に何人か住んでいる。全員が集まる場所を決めたい
A(c)A(c) = 全員が歩く距離の合計

候補地を 右に1歩 動かすと…

  • cc より左の人 … 1歩分 遠くなる(損)
  • cc より右の人 … 1歩分 近くなる(得)

→ 得か損かは 左右どちらに人が多いか だけで決まる
→ 釣り合う場所=中央値

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だから中央値は外れ値に強い

候補 cc 左 右 右に動かすと
1.5 1個 2個 得
2 1個 1個 釣り合い ← 中央値
3 2個 1個 損

「誰がどれだけ遠くに住んでいるか」は一度も使っていない
使ったのは 人数(順位)だけ

→ ゴリラが149kgでも1,490kgでも、順位が同じなら中央値は動かない

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まとめ

代表値の選択は中立ではない

どれを選ぶかは、すでに一つの「主張」

数字を見たら、まず分布の形を疑え

次回:ばらつきを測る(分散・標準偏差)