統計学Ⅱ 2026 第3回

第3回 確率論の基礎(2)

ベイズの定理 ―― データで信念を更新する

統計学Ⅱ 2026後期 北星学園大学
小野原 彩香

統計学Ⅱ 2026 第3回

今日のゴール

  1. ベイズの定理:
  2. 事前・尤度・事後の役割
  3. 基準率の誤謬 と 陽性的中率
  4. 逐次更新(今日の事後=明日の事前)=学習
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前回の答案から

冒頭で確認する3つ

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第2回の結果

学生17名提出 / 記述は13名が満点

減点4名と小テストの誤答に、共通する型が3つ


どれも今日のベイズの定理に直接ひびく

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① 分母をどこに取るか(小テスト A1)

学生100人:アルバイト30人、一人暮らし20人、両方12人

答え 何の確率か 計算
0.12 ― 100人のうち両方
0.60 ― 一人暮らし20人のうち
0.40 ― アルバイト30人のうち

同じ12人を、3つの違う分母で割っている

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今日やるのは、この分母の取り替え

ベイズの定理


分母を に取り替えることで
向きが逆になる

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② 条件の名前で、求めた確率を呼ぶ

✗ 「少なくとも1人は女」という確率は 1/3

字義どおりなら 少なくとも人は女
だが実際は


○ 「少なくとも1人は女」という条件のもとで
「2人とも女」である確率が 1/3

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今日いちばん危ない言い間違い

今日の検査の例でいえば


✗ 「陽性の確率は50%」

○ 「陽性という条件のもとで、病気である確率が50%」


陽性になる確率そのものは 約2%

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③ 記号の書き方・事象の立て方

書かれていたこと 直し方
と書いた 。縦棒は割り算ではない
=「授業をとっている人(100人)」 ・ は出来事。人の集まりではない
「それぞれ1/4」を書かなかった 4通りが等確率だからこそ 1/3 になる
「従属だから因果がある」 従属は確率が変わるだけ。原因は問わない
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今日につながること

主題は 病気陽性 と 陽性病気 の取り違え


①の「分母をどこに取るか」
②の「条件の名前で呼んでしまう」

どちらもこの取り違えと同じ構造

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直感クイズ

検査が陽性、あなたは病気か?

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クイズ

検査の性能:

  • 感度 陽性病気 = 99%
  • 特異度 陰性健康 = 99%

病気は 100人に1人(有病率1%)。あなたは 陽性。


本当に病気の確率は?

「99%の精度だから99%」?

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答え:99%ではなく 約50%

(有病率1%のもとでの値)

100万人を検査すると…

人数 うち陽性
病気(1%) 10,000 9,900 真陽性
健康(99%) 990,000 9,900 偽陽性

病気陽性

病気が稀 → 偽陽性が真陽性と同じだけ出る

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最重要:条件付き確率の「向き」

直感は取り違える:

陽性病気病気陽性


第2回の「 と は一般には等しいとは限らない」そのもの
検査の精度 と 陽性的中率 は別の数字

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記号の対応 ―― この回でずっと使う

  • … 仮説。この例では「病気である」
  • … その否定。「健康である」
  • … 観測されたデータ。この例では「検査が陽性」
検査の用語 記号 値
感度 0.99
特異度 0.99
偽陽性率 特異度 0.01

特異度は「健康な人を陰性と正しく言える確率」
→ 健康な人が陽性になる確率はその余事象で

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ベイズの定理

事後尤度事前

要素 検査の例
事前 有病率 1%
尤度 感度 99%
事後 陽性的中率 50%

データで信念を更新する計算

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数字を入れてみる

式の部品 表のどこか 値
事前 病気 10,000 ÷ 100万 0.01
尤度 病気で陽性 9,900 ÷ 10,000 0.99
分母 陽性 19,800 ÷ 100万 0.0198

0.0099 ÷ 0.0198 は 9,900人 ÷ 19,800人 と同じ割り算

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基準率を動かすと激変する

有病率 陽性的中率
0.1% 9.0%
1% 50.0%
10% 91.7%
50% 99.0%

検査の性能は同じ。 珍しい病気ほど的中率は低い

→ 基準率の誤謬(base rate fallacy)
迷惑メール判定・顔認証・不正検知…全部同じ罠

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逐次更新 = 学習

今日の事後を、明日の事前として使う

  • 真の のコインを投げ続ける
  • 事前 → 観測 → 事後

回数が増えるほど、信念は 0.7 の周りに締まっていく

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ただし「毎回かならず近づく」のではない

Colab の乱数での事後平均

投げた回数 事後平均
5回 0.714
20回 0.773
100回 0.696

20回後のほうが、5回後より真値 0.7 から遠い

計算の誤りではない。標本のばらつきである


言えるのは

このモデルが正しく、データが十分にあれば、真値の付近を絞り込める

「観測を増やすたびに必ず近づく」ではない
(一様な事前も「無知の唯一の表現」ではなく、今回置いた設定)

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何回でも掛けていいのか ―― 条件付き独立

検査2回とも陽性なら尤度比をもう一度掛けられる。その根拠は

「病気かどうかが決まっていれば、1回目の結果は2回目の出方に影響しない」


と そのものは独立ではない

1回目が陽性なら病気の可能性が上がり、2回目も陽性になりやすい
()。独立なのは を固定したときだけ


同じ検体を同じ方法で二度測れば、1回目に誤らせた原因(検体の取り方、試薬の癖)が
2回目にも効く → を固定しても連動する → この掛け算はできない

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まちがいは「依存データでは更新できない」ではない


もとは1つの情報を、独立した別々の証拠だと思って

重複して数えてしまうこと


2回の検査で尤度比を2回掛けられたのは、条件付き独立だったから

同じ噂を10人から聞いても、尤度比を10回掛けてはいけない


第12〜13回:みんなが互いを真似て同じ情報ばかり見ると、
集団の信念が間違った方向に固まる(情報カスケード)

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今日の課題

陽性的中率の計算(自動採点)

+「なぜ基準率を無視する/ベイズ更新とは」(記述)

次回:二項分布・ポアソン分布

「10回投げて7回表。イカサマ?」独立試行 n 回の分布