コンテンツにスキップ

第14回 まとめと最終発表

この回の資料


配慮事項(神経多様性)
この回は発表セッションが含まれます。口頭発表が困難な場合は、事前録画動画の再生・スライド+テキスト説明・書面レポートのみ、など複数の発表形式を認めています。詳細は本資料の「発表形式の選択肢」セクション、および期末プロジェクト説明書を参照してください。不安な場合はメールで小野原まで相談してください。


授業の目標

この最終回で達成すること:

  1. 14回の授業を通じて学んだ内容を体系的に振り返る
  2. 期末プロジェクトの要件と評価基準を正確に理解する
  3. 発表・報告を通じて自分の学びと考察を他者と共有する
  4. 授業全体を通じて音声処理・認識の技術と社会的意義を統合的に理解する

タイムライン(90分授業の例)

以下は、口頭発表2件をそれぞれ20分+質疑5分で扱う場合の例です。実際の進行表は、人数と発表形式に合わせて事前に案内します。

時間 内容
00〜10分 授業全体の振り返り(概念マップ)
10〜20分 期末プロジェクト・レポートの提出要件の最終確認と質疑
20〜70分 最終発表セッション(20分の発表+質疑5分を2件)
70〜80分 フィードバックと全体質疑
80〜90分 授業アンケートの案内・クロージング

説明書の口頭発表は20〜25分+質疑5分です。25分の発表や録画・テキスト・書面形式を組み込む場合は、必要な時間と人数に合わせて、担当者が進行・視聴方法を事前に案内します。


進化の視点:発話・聴覚から学ぶ工学と、その違い

この授業では、発話と聴覚のしくみ、デジタル化、特徴量、統計・大規模モデル、評価、UX、言語・認知、社会的影響を学んできた。

音声技術には発話・聴覚の知見を参照した部分があるが、人間の仕組み全体の再現ではない。 次の点を分けて振り返る。

比較するもの 何を参照し、何を区別するか
ソース・フィルタモデル 音源と声道によるフィルタリングを分ける近似。発話器官全体や相互作用を完全に再現するモデルではない(第2回)
メル尺度 音の高さの知覚に関する心理尺度を参照する。聴覚の周波数分解能や臨界帯域をそのまま表す尺度ではない1
学習経験 モデルの音声学習時間と、人間の言語・視覚・社会的な経験は、そのまま同じ単位で比較できない
評価 WER/CERは文字列の誤りを測る。意味理解・意図の推定・人間の知覚体験は別に測る必要がある(第9・12回)

人間が常に意味だけを聞くわけでも、工学の評価が文字列だけに限られるわけでもない。比較対象と課題をそろえて、得られた結果の範囲を示す。

最終発表への問い:あなたのテーマでは、発話・聴覚について何を仮定し、どの性質を測っているか。その仮定で説明できることと、説明できないことは何か。


講義の構成


1. この授業で学んだことの地図

音声処理と認識 — 実際の14回の学習内容

回 内容 主な接続
1 ガイダンス/音声技術の応用紹介 音声技術の目的と授業全体
2 発話・聴覚メカニズムの基礎 発声、声道、聴覚、F0・フォルマント
3 音声信号とデジタル化 サンプリング・量子化
4 スペクトログラムの理解と可視化 STFT、窓長、時間・周波数
5 音響特徴量(MFCC)の原理と実装 メルフィルタ、対数、DCT
6 ピッチ・エネルギー・ゼロ交差などの前処理 特徴の推定、信号の区間・条件
7 音声と統計モデル+自己教師あり表現学習 HMM・GMM、wav2vec 2.0等
8 大規模End-to-End音声認識 Conformer、Whisper等
9 音声認識システムと評価指標 WER・CER・SLUE
10 音声インタフェースとUX設計 利用場面・対話・誤りからの回復
11 自然言語処理との接続 NLUと音声、意図・意味の処理
12 音声処理と認知科学・言語学 発達・知覚・神経多様性・人間との比較
13 応用事例と社会的インパクト 生成音声、偽造検出、バイアス、規制・倫理
14 まとめと最終発表 学びを自分の問いへつなぐ

テーマは授業トップの一覧と対応する。TTSや声質変換は主に第13回で扱った関連技術であり、第8・9回の主題ではない。


2. 技術の仕組みと、利用への広がり

仕組みを異なる粒度で説明する

粒度 例
信号 波形サンプル、周波数、振幅
表現 スペクトログラム、MFCC、学習された特徴
モデル HMM、CNN、RNN、Attention、Transformer
システム 音声の入力から文字列や応答を得る処理全体
サービス APIやアプリで、誰が何をできるようにするか

すべてのシステムがこの順で独立した部品を持つわけではない。End-to-End学習では複数の処理を一緒に最適化する場合もある。

利用への広がりを考える

認識・生成・対話という課題、個人の操作と社会的な利用、技術的な性能と倫理的な影響を結びつける。これらは互いに対立する一つの軸ではなく、同じシステムを評価する複数の観点である。


3. キーコンセプトの整理

振り返りたい10のキーワード

# キーワード 説明
1 MFCC メル帯域のエネルギー等に対数を取り、DCTで得る代表的な音響特徴。次元数や設定を明示する
2 HMM 隠れ状態の遷移と観測を確率的に表すモデル。GMMやDNNとの組合せもある
3 CTC フレームと出力ラベルの対応が未指定でも、複数の整列を足し合わせて系列を学習する方法
4 Attention/Transformer Attentionは情報を重みづけて集約する仕組み。Transformerはそれを使うモデル構造
5 Whisper 大量の音声・テキスト対で学習した多言語ASRモデル群。性能は言語・条件で異なる
6 TTS/Voice Conversion テキストからの音声合成/発話内容を保ちながら音声特性を変える課題
7 GAN・拡散・フローマッチング 音声生成にも使われる学習・生成の方式。TTS・VCという課題の分類とは別
8 話者照合(ASV) 入力音声が、登録された対象話者のものかを判定する課題。声の類似だけで本人確認全体は保証しない
9 バイアス 集団や利用条件により生じる偏りを検証する論点。データ・モデル・評価・利用を調べる
10 Deepfake/ASVspoof 本物らしい生成・加工音声など/偽造検出・話者照合を共通条件で評価する枠組み

MFCCの計算とCTCは原資料、Whisper・ASVspoofは原論文・公式評価計画も確認する。2345


4. 音声処理と認識の「大きな問い」

この授業を通じて提示してきた問い:

技術的な問い - どうすれば音声を正確に認識・生成できるのか? - 少ないデータでも頑健に機能するモデルをどう作るか? - リアルタイム処理と精度のトレードオフをどう扱うか?

社会的な問い - 音声AIは誰のために作られているのか? - 誰が恩恵を受け、誰が排除されているのか? - 悪用を防ぎながら技術を発展させるにはどうすればよいか?

個人的な問い - あなたはどんな技術を、誰のために作りたいか? - 技術者として直面する倫理的ジレンマにどう向き合うか?

期末プロジェクトでは、これらの問いのどれかに対するあなた自身の答えを示してください。


5. 期末プロジェクト・レポートの概要

目的

  • 授業で学んだ知識・スキルを統合的に活用する
  • 自分で選んだテーマを深く探究する
  • 技術的内容と社会的・倫理的考察の両方を含める

テーマ選択肢(詳細は後述、および期末プロジェクト説明書参照)

テーマ タイトル
A 音声特徴量分析レポート
B Whisperを使った多言語音声認識の精度比較
C 音声インタフェースのUX提案書
D 音声Deepfake検出の調査報告(技術+倫理)
E 自由テーマ(音声処理・認識に関連するもの)

提出締め切り:[授業担当者が別途連絡]
詳細:期末プロジェクト説明書を参照。成績評価は期末プロジェクト70%・小課題と演習30%です。以下のテーマ説明は、最終提出に向けた確認です。


6. テーマA — 音声特徴量分析レポート

概要

自分で収録した音声(または許可を得た音声)をMFCC等の特徴量で分析し、分析結果とその解釈を報告する。

内容の例

  • 自分の声・友人の声・異なる感情で発話した音声を比較
  • 日本語の母音・子音のスペクトル特性の分析
  • 同じ音声に雑音を加えたときの特徴量の変化(認識精度まで比較する場合はテーマBの評価方法も参照)

使用ツール(推奨)

  • Python(librosa, numpy, matplotlib)
  • Praat(音声分析ソフトウェア、無料)
  • Google Colab(GPU不要の演習で使用した環境)

成果物の例

  • 分析コード + 結果のグラフ
  • レポート(4,000〜6,000字程度)
  • 発表用スライド(10〜15枚を目安)

難易度目安:★★★☆☆(中程度)
プログラミングが必要:はい(基礎レベル)


7. テーマB — Whisperを使った多言語音声認識の精度比較

概要

OpenAI の Whisper を使って、複数の言語・方言・話者属性(性別・年齢等)での音声認識精度を比較する。

比較の切り口例

  • 言語別(英語 vs. 日本語 vs. スペイン語 vs. アラビア語等)
  • 方言別(標準語 vs. 関西弁 vs. 東北方言等)
  • 話者属性別(年齢・ジェンダー等)。属性の記録方法を示し、声から本人の属性を推測して割り当てない
  • 音声品質別(クリーン音声・雑音付加・帯域制限・コーデック圧縮)。サンプルレートと圧縮方式を区別する

考察のポイント

  • 精度差について、データ・モデル・語彙・録音・評価条件のどの仮説を検証できるか?
  • バイアスの視点から、観察されたことと原因の推測をどう区別できるか?
  • どのような改善が考えられるか?

使用ツール

  • Python(openai-whisper ライブラリ)
  • Google Colab(GPU使用可)
  • 使用条件を確認した公開音声データセット(例:Common Voice、英語朗読のLibriSpeech)。言語・録音方式の異なるデータを比べる場合は、その違いも示す

難易度目安:★★★★☆(やや高め)
プログラミングが必要:はい(中級レベル)


8. テーマC — 音声インタフェースのUX提案書

概要

特定のユーザー・用途・環境を想定し、音声インタフェースのデザイン案とプロトタイプ(またはモックアップ)を作成する。

提案のフレームワーク例

  1. 誰のための設計か(ユーザーペルソナ)
  2. 例:視覚障害者のための家電操作、高齢者の日常サポート、子供の学習支援

  3. どんな場面で使うか(ユースケース・シナリオ)

  4. 音声インタフェースの設計原則
  5. エラー時の対応、方言・アクセントへの対応、プライバシー配慮
  6. 倫理的・インクルーシブデザインの視点
  7. プロトタイプ(モックアップ・フロー図・音声サンプル等)

成果物の例

  • 提案書(5,000〜8,000字を目安)
  • ユーザーフロー図・UI設計図
  • 発表スライド(12〜18枚を目安)

難易度目安:★★★☆☆(中程度)
プログラミングが必要:任意(プロトタイプを実装する場合)


9. テーマD — 音声Deepfake検出の調査報告(技術+倫理)

概要

音声Deepfakeの生成技術・検出技術を調査し、技術的な仕組みと倫理的・社会的問題の両面から包括的に報告する。

構成例

  1. TTS・VCという課題と、GAN・拡散・フローマッチング等の生成方式を区別した説明
  2. 検出技術の現状(ASVspoof・機械学習ベース検出器)
  3. 社会的インパクトの事例(詐欺・政治的操作等)
  4. 規制・倫理ガイドラインの動向(EU AI Act等)
  5. 自分の見解と技術者として考えること

調査方法

  • 学術論文(arXiv・IEEE・ACM Digital Library)
  • 事件の公的な発表・調査報告、出所を確かめた報道。発生年・金額の通貨・推測と確認事項を区別する
  • ASVspoof公式サイト・ベンチマーク結果。版・タスク・指標・評価条件を記載する

難易度目安:★★★☆☆(中程度)
プログラミングが必要:任意(検出システムを実装する場合は高め)


10. テーマE — 自由テーマ

概要

音声処理・音声認識に関連するテーマを自由に設定し、調査・分析・実装・提案のいずれかの形で報告する。

自由テーマの条件

  1. 音声処理・音声認識の技術的内容が含まれていること
  2. 単なる既存記事の要約ではなく、自分の分析・考察・見解があること
  3. テーマを事前に担当者に報告し、承認を得ること(事前確認締め切り:[担当者が設定])

自由テーマのアイデア例

  • 音楽情報処理(楽器音の認識・楽曲生成)
  • 野鳥の鳴き声識別(生物音響学)
  • 吃音者向けの音声インタフェース改善提案
  • 日本語の方言認識の課題と展望
  • 音声AIとアクセシビリティ:障害を持つ人々への影響
  • ポッドキャスト自動文字起こしの実用的な精度評価

11. 評価ルーブリック

期末プロジェクト・レポート評価ルーブリック(100点満点)

この100点は期末プロジェクト内の評価です。科目全体への配分は70%で、小課題・演習30%と合わせます。説明書の評価基準と同じです。

1. 内容の正確さ(30点)

評価段階 点数 基準
優秀 27〜30点 技術的内容が正確で専門用語の使い方が適切。誤りや重大な事実誤認がない。最新の情報を参照している
良好 21〜26点 内容は概ね正確。軽微な不正確さはあるが、主張の根拠は妥当
基準達成 15〜20点 基本的な内容は押さえているが、いくつかの誤りや不正確な記述がある
基準未達 0〜14点 重大な事実誤認が複数ある、または内容が著しく浅い

2. 分析・考察の深さ(30点)

評価段階 点数 基準
優秀 27〜30点 事実の記述にとどまらず、複数の視点から深く考察している。技術と社会・倫理の両面を統合した分析がある
良好 21〜26点 考察があり、自分の見解が示されている。ただし一部に浅い部分がある
基準達成 15〜20点 考察が表面的。既存情報をまとめることが中心
基準未達 0〜14点 考察がほとんどなく、情報の羅列にとどまる

3. 発表/報告の明確さ(20点)

評価段階 点数 基準
優秀 18〜20点 構成が論理的で、主張が明確。聴衆・読者を意識した説明がある。図表・視覚的補助が効果的
良好 14〜17点 概ね論理的だが、構成や説明の明確さに改善の余地あり
基準達成 10〜13点 内容は伝わるが、構成が分かりにくい部分がある
基準未達 0〜9点 構成が不明確、または主張が伝わりにくい

4. 独自性・創造性(20点)

評価段階 点数 基準
優秀 18〜20点 独自の視点・アイデア・分析がある。単純な模倣や既存報告書の要約を超えている
良好 14〜17点 部分的に独自の視点があり、自分の言葉での説明がある
基準達成 10〜13点 独自性は限られるが、自分なりに整理しようとした痕跡がある
基準未達 0〜9点 既存資料のほぼそのままの転用。独自の貢献が見えない

出典と独自の貢献:他者の成果を自分の成果として提出する剽窃は、説明書の規定に従い0点となります。引用・再利用では出典と利用条件を示し、自分の分析を区別してください。生成AIの補助的な使用は説明書の条件に従って明記します。


12. 発表形式の選択肢(神経多様性への配慮)

発表にはいくつかの形式を認めています。どの形式を選んでも評価の基準は同じです。

形式 内容・時間の目安
A:口頭発表 スライドを使った発表20〜25分+質疑5分
B:事前録画 15〜25分の発表動画。本人はチャットなどで質疑に参加できる
C:スライド+テキスト スライド共有とテキスト説明。やり取りを含め20〜25分
D:書面レポートのみ 発表を免除し、詳細なレポートで代替

診断名や苦手さで形式を割り当てず、本人が選択する。どの形式でもレポート本文は提出する。 スライド・動画・コード・データの提出条件は説明書を確認する。

形式の選択方法

  • 希望する形式を発表1週間前までに小野原に連絡してください
  • 事前連絡なしで当日いずれの形式に変更しても構いません
  • 形式の選択理由を説明する必要はありません

録画について

  • 発表の録画は他の受講者の学習のために行う場合があります
  • 録画を希望しない場合は事前にお知らせください(評価への影響はありません)

13. 発表セッションの進行

口頭発表1件の流れ(25〜30分)

内容 時間
発表 20〜25分
質疑応答 5分
合計 25〜30分

担当者からのまとめのフィードバックは、全体質疑の時間などに行う。冒頭の90分の例は、20分発表+5分質疑を2件行う場合である。録画・テキスト・書面形式の進行は、選択した形式と人数に応じて案内する。

質問の仕方について

  • Zoomチャットでの質問も受け付ける
  • 主張・方法・根拠について、具体的に質問する。建設的な批判も学習に役立つ
  • 理解できなかった用語や手順を確認する質問も歓迎する

フィードバックの受け方について

  • メモを取り、後の分析や説明の改善に使う
  • 即時に返答できなくてもよい。確認が必要な点は持ち帰って整理する
  • 人物への評価と、研究内容・説明へのコメントを区別する

14. フィードバックと全体質疑

全発表終了後の時間(約10分)

  • 全体を通じた質疑・ディスカッション
  • 「他の人の発表を聞いて気づいたこと」の共有
  • 担当者からの総括コメント

授業全体を通じて担当者が伝えたかったこと

音声処理・音声認識は「面白い技術」であると同時に、「社会と深く結びついた技術」です。

どんな素晴らしい技術も、それが誰かを傷つけたり、不平等を拡大したりするために使われるなら、技術者はそのことを考え続ける責任があります。

反対に、技術は誰かの声を届け、誰かのアクセシビリティを高め、誰かの生活を豊かにすることができます。

この授業がその両方を考え続けるための出発点になれば、担当者としてとても嬉しいです。


15. 授業アンケートの案内

授業改善のためにご協力ください

  • アンケートは匿名・任意で、成績評価には用いません
  • 良かった点・改善してほしい点の両方を聞かせてください
  • 神経多様性への配慮について特に率直な意見を歓迎します

アンケートで聞くこと(予定)

  1. 授業内容の難易度は適切でしたか?
  2. 授業形式(CBT・動画・同期授業)の組み合わせはどうでしたか?
  3. 神経多様性への配慮は十分でしたか?
  4. この授業で最も印象に残ったことは何ですか?
  5. 今後この分野でどんなことを学んでみたいですか?
  6. 自由記述:担当者へのメッセージ

アンケートの回答方法

[担当者が別途連絡するURLまたはQRコード]


期末プロジェクト・テーマ詳細


テーマA 詳細:音声特徴量分析レポート

課題の目的

音声の物理的特徴量(MFCC・スペクトログラム等)を実際に計算・可視化し、音声の性質を定量的に分析する能力を示す。

最低要件

  • [ ] 自ら収録した音声(または適切にライセンスされた音声)を使用
  • [ ] MFCC(課題要件として最低13次元)の計算と可視化。13は必須の理論定数ではなく、0次係数を含めるかも明記
  • [ ] 比較対象を2種類以上設定(例:異なる話者、異なる感情、異なる環境)
  • [ ] 特徴量の計算方法と設定(サンプルレート、窓長・ホップ長、メル帯域、対数・DCT、次元数)の説明
  • [ ] 結果の考察(差の原因について、観察と仮説を分けて説明)

推奨追加要素

  • メルスペクトログラムの可視化
  • ピッチ(基本周波数)の時系列分析
  • 雑音の影響の定量化

テーマB 詳細:Whisperを使った多言語音声認識の精度比較

課題の目的

実際に音声認識システムを動かし、条件を変えて精度を比較することで、音声認識の性能要因とバイアスへの理解を深める。

最低要件

  • [ ] Whisper(または同等の音声認識システム)を用いた実験の実施
  • [ ] 比較条件を最低2種類設定し、明確に定義(言語・方言・話者属性・音声品質など)
  • [ ] 正解テキストを用意し、正規化と分かち書きの方針を明記
  • [ ] WERまたはCERを計算し、モデルの版・設定、話者数・音声量を記録
  • [ ] 結果の考察(原因についての仮説と確認できたことを分ける)
  • [ ] 社会的含意の考察(誰にどんな利用上の負担が生じ得るか)

WER(Word Error Rate)の計算方法

参照文が1語以上ある場合:

\[ \mathrm{WER}=\frac{S+D+I}{N},\qquad \mathrm{WER}[\%]=100\frac{S+D+I}{N} \]
  • \(S\):単語の置換数、\(D\):単語の削除数、\(I\):単語の挿入数
  • \(N\):参照文の単語数。モデル内部のサブワードトークン数とは限らない
  • CERは同様に文字単位で計算する

単語の区切りや表記の正規化をそろえて比較する。挿入が多ければWERは100%を超え得る。参照文が空の場合は、この式の分母が0になるため、無音時の誤出力などを別に報告するか、評価ライブラリの規約を明示する。6

異なる言語のWERを並べるときは、語の区切りやデータの内容も異なることを考慮する。音声認識の文字列評価だけで、意味理解や利用者への影響まで測定したことにはならない。


テーマC 詳細:音声インタフェースのUX提案書

課題の目的

音声インタフェースの設計原則を理解した上で、実際のユーザーニーズに基づいた設計案を提案する。

最低要件

  • [ ] ユーザーペルソナの設定(具体的な人物像、ニーズ、制約)
  • [ ] 主要なユースケースを3つ以上記述
  • [ ] 最低1つのシナリオの対話フロー図と、誤認識時の対応
  • [ ] インクルーシブデザイン・アクセシビリティへの配慮
  • [ ] 使用する音声技術(TTS・ASR等)の説明
  • [ ] プライバシー等の倫理的考慮事項。モックアップや実装は説明を助ける手段として用いる

参考にすべき設計原則

  • Nielsenの10のユーザビリティヒューリスティクス:個別のUI評価に使う観点
  • W3C WCAG 2.2:ウェブコンテンツのアクセシビリティ要件。音声対話全体の使いやすさを一つで保証するものではない
  • 第10回のVUI設計原則と、想定利用者・場面での検証。ペルソナは仮説と実際の利用者調査を区別する

テーマD 詳細:音声Deepfake検出の調査報告(技術+倫理)

課題の目的

技術的な内容の正確な理解と、その社会的・倫理的文脈を統合する能力を示す。

最低要件

  • [ ] 主要な生成方式を最低2種類説明し、TTS・VCという課題と区別
  • [ ] 検出技術の現状(最低2種類の方法を、入力表現・分類器・評価条件から説明)
  • [ ] 社会的インパクトの具体的な事例を最低2件示して分析
  • [ ] 法規制・倫理ガイドラインに言及し、適用時点と法的な位置づけを明示
  • [ ] 自分の見解(技術者・社会の一員として)
  • [ ] 参考文献を最低5件、出典を確かめて引用

推奨追加要素

  • ASVspoof のベンチマーク結果の分析
  • 法規制の比較(複数の国・地域)
  • 独自のケーススタディ(架空のシナリオ分析でも可)

授業全体のまとめ:音声処理と認識が拓く世界

歴史を、条件つきの研究成果として読む

  • 1970年代:HARPYなどで、語彙や文法などの条件を定めた連続音声認識の研究が行われた。「数語程度しか認識できなかった」と一律に説明しない7
  • 1980〜1990年代:HMMなどの統計的なモデルが発展。どの語彙・話者・課題での成果かを確認する
  • 2010年代:深層ニューラルネットワークを使う音響モデルやEnd-to-End方式が発展した8
  • 2020年代:Whisperなどで大規模な学習と多言語の評価が進んだ。各言語・録音条件で同じ性能が出るという意味ではない4

実現した機能と、利用時に検証すること

実現している機能の例 どこまで働くかを確認する観点
指定された条件での音声認識 未知の話者・雑音・方言、文字列の正確さと利用上の負担
自然さを高めた音声合成 読み・韻律・話者類似性、利用目的・同意・権利
短い参照音声を使う話者模倣 事前学習、対象言語・音声条件、検出と本人確認
条件に応じたリアルタイム処理 遅延、計算資源、誤りへの対応、性能差

「解決済み」と「未解決」を一つの固定した境界で分けず、具体的な利用条件と測定結果で評価する。


あなたへのメッセージ

音声処理・音声認識の技術は今も急速に進化しています。その技術を学び、作り、使う立場として、あなたは「技術が何をできるか」だけでなく、「技術が誰のためになるか」「誰が傷つく可能性があるか」を考え続けてください。

良い技術者は、コードを書く能力だけでなく、その影響について考える想像力を持っています。


作成:小野原彩香 / 音声処理と認識(3年後期)

参考資料・出典

課題・配点・提出形式の根拠:授業トップ・期末プロジェクト説明書。日程と提出先は担当者の案内で確認する。


  1. Stevens, Volkmann, & Newman (1937). A Scale for the Measurement of the Psychological Magnitude Pitch. 原論文。実装時のメル尺度の定義は第5回を参照。 ↩

  2. librosa公式ドキュメント:MFCC。入力するメルスペクトログラムに対数が必要なこと、DCT・次元数等の設定を説明している。 ↩

  3. Graves et al. (2006). Connectionist Temporal Classification: Labelling Unsegmented Sequence Data with Recurrent Neural Networks. 原論文 ↩

  4. Radford et al. (2023). Robust Speech Recognition via Large-Scale Weak Supervision. 原論文 ↩↩

  5. ASVspoof consortium (2024). ASVspoof 5 Evaluation Plan ↩

  6. JiWER公式ドキュメント。空の参照文の扱いなど、利用する版の規約を確認する。 ↩

  7. Lowerre, B. (1976). The HARPY Speech Recognition System. 博士論文の大学公式記録と要旨 ↩

  8. Hinton et al. (2012). Deep Neural Networks for Acoustic Modeling in Speech Recognition. 著者所属機関による公開 ↩