一言でいうと

「大型の種のうち大群を作る割合」と「大群を作る種のうち大型の割合」は、別の数である。この向きを入れ替える計算がベイズの定理で、入れ替えるときには、もともと大型の種がどれだけいるかが結果を大きく左右する。

体の大きさと群れの大きさ、2つの問い

霊長類のうち、体重と群れの大きさの両方が記録されている種は207種あります。ここでは、体重が1万グラム以上の種を「大型」、群れが平均20頭以上の種を「大群」と呼ぶことにします。

このデータに対して、似ているようで違う2つの問いを立てられます。

問い1
大型の種を1つ選んだとき、それが大群を作る種である確率は?
問い2
大群を作る種を1つ選んだとき、それが大型の種である確率は?

どちらも「大型」と「大群」の両方に当てはまる種を数える点は同じです。違うのは、何を分母にするかです。問い1は大型の種の中での割合、問い2は大群を作る種の中での割合を聞いています。

207種を4つに分ける

横軸に体重、縦軸に群れの大きさをとり、207種を1点ずつ置きました。点線がそれぞれのしきい値です。どちらの軸も、10倍ごとに同じ間隔になる対数目盛りにしています。

大型かつ大群 大型のみ 大群のみ どちらでもない

群れの大きさは、種ごとに記録された平均的な群れの頭数です。データ:PanTHERIA(Jones et al. 2009)。

両方に当てはまる右上の10種は、チンパンジーとボノボの2種と、ヒヒ属やマカク属などのオナガザル科8種です。右下には、群れの小さいゴリラやオランウータンが入っています。

分母を切り替えて数える
どの種の中で数えるか
P(大型)
P(大群)
P(大群|大型)
P(大型|大群)
ベイズの定理で P(大型|大群) を計算

1マスが1種です。濃いマスが分母、そのうち橙のマスが分子にあたります。

しくみ:条件付き確率とベイズの定理

ここでの確率は、207種から1種をでたらめに選んだときに、ある条件に当てはまる種が選ばれる割合のことです。大型は22種なので、P(大型) = 22 ÷ 207 ≒ 0.106 です。

条件付き確率 P(B|A) は、「Aに当てはまる種だけを分母にしたときの、Bの割合」です。縦棒の右側が分母になる集団を表します。

P(大群|大型) = 両方に当てはまる種数 ÷ 大型の種数 = 10 ÷ 22 ≒ 0.45

逆向きの P(大型|大群) は 10 ÷ 44 ≒ 0.23 で、半分ほどしかありません。分子は同じ10種でも、分母が22種から44種に変わったからです。

この2つをつなぐのがベイズの定理です。片方の向きの確率と、それぞれの全体での割合がわかれば、もう片方の向きを計算できます。

P(大型|大群) = P(大群|大型) × P(大型) ÷ P(大群)

数を入れると 0.4545 × 0.1063 ÷ 0.2126 ≒ 0.227 となり、数えて出した 10 ÷ 44 と一致します。式の中の P(大型) を事前確率、計算で得る P(大型|大群) を事後確率と呼びます。「大群を作る」という情報を得る前と後の、大型である確率という意味です。

事前確率が効く

「大型」の基準だけを変え、「大群」は20頭以上のままにすると、2つの向きの確率は次のように動きます。

「大型」の基準P(大型)P(大群|大型)P(大型|大群)
2,000 g 以上0.5850.3220.886
5,000 g 以上0.4200.3330.659
10,000 g 以上0.1060.4550.227
20,000 g 以上0.0190.5000.045

P(大群|大型) は0.3から0.5の間にとどまっているのに、P(大型|大群) は0.886から0.045まで大きく変わります。変化の大部分を生んでいるのは、大型の種がもともとどれだけいるか、つまり事前確率です。

なお、もし体の大きさと群れの大きさが無関係なら、大型の種の中でも大群の割合は全体と同じ P(大群) ≒ 0.21 になるはずです。これを独立といいます。1万グラム基準では P(大群|大型) ≒ 0.45 なので、このデータでは2つは独立ではありません。

よくある誤解

「P(大群|大型) と P(大型|大群) は、だいたい同じ数になる」

一般には同じになりません。このデータでは0.45と0.23で、2倍の差があります。両者が等しくなるのは、大型の種と大群の種の数がたまたま同じときだけです。

「大型の種の半数近くが大群なのだから、大群の種を見ればたぶん大型だ」

大型の種は207種中22種しかいません。大群を作る44種のうち、大型でない種が34種を占めています。もとの割合を無視して向きを入れ替えると、判断を大きく誤ります。これを基準率の無視といいます。

「条件付き確率が高いなら、一方が他方の原因だ」

P(大群|大型) が全体の割合より高いことは、2つが一緒に現れやすいことを示すだけです。体が大きいから群れが大きくなるのか、その逆なのか、別の要因が両方に関わっているのかは、この表からは判断できません。

「0.45 は、大型の個体の45%が大群で暮らしているという意味だ」

ここで数えているのは個体ではなく種です。0.45は、大型の22種のうち10種が大群を作る種だという意味です。個体の数で数え直せば、別の値になりえます。

授業では、この回で扱っています

授業サイトは誰でも見られます。もう少し踏み込みたい人は、各回のページへどうぞ。

データ:Jones, K. E. et al. (2009) PanTHERIA: a species-level database of life history, ecology, and geography of extant and recently extinct mammals. Ecology 90: 2648. 霊長類376種のうち、成体の体重と群れの大きさ(集団サイズ)の両方が記録されている207種を使用。和名と科の対応は授業「統計学Ⅰ」の教材による。
どの種に記録があるかには偏りがありうるため、ここでの割合は「記録のある207種の中での割合」です。