一言でいうと

たくさんの値を1つの数にまとめる方法は1つではない。平均・中央値・幾何平均はそれぞれ別のものを表していて、どれを使うかはデータの形と、何を知りたいかで決まる。

霊長類の「典型的な体重」は何グラムか

霊長類265種の体重を1つの数で言うとしたら、何グラムと答えるべきでしょうか。素直に平均を取ると 5,881 g です。ところが、体重を軽い順に並べてちょうど真ん中にくる種は 3,006 g で、平均のおよそ半分しかありません。

どちらかの計算が間違っているわけではありません。2つの数は、同じデータの別の側面を表しています。このページでは、代表値とばらつきの指標がそれぞれ何を表しているのかを、体重・群れの大きさ・行動圏の広さで確かめます。

代表値
データ全体を1つの数で代表させた値。平均・中央値・最頻値など。
平均(算術平均)
すべての値を足して、個数で割った値。
中央値
値を小さい順に並べたとき、ちょうど真ん中にくる値。
ばらつき
値が代表値のまわりにどれだけ散らばっているか。標準偏差・四分位範囲など。

265種を1本の軸に並べる

下の図は、265種の体重を1つずつ点で打ったものです。体重は31 gから149,325 gまで4,800倍ほど開いているので、横軸は目盛りが10倍ずつ進む対数軸にしています。

平均
中央値
幾何平均
平均より軽い種

点の上下の位置に意味はありません(重なりを避けるためにずらしています)。濃い点はヒト科の7種です。

平均の線は、点が密集しているところよりはっきり右にあります。265種のうち65 %、つまり3種に2種ほどが平均より軽い種です。平均を押し上げているのは右端の少数の大型種で、ヒト科の7種は種数では3 %にも満たないのに、265種の体重を合計した値の32 %を占めています。

中央値は、値の大きさではなく順位だけで決まります。この265種では、オマキザル科の Cebus capucinus の 3,006 g が中央値そのものです。

要約のしかたを変えてみる
変数
横軸

帯は四分位範囲(下から25 %〜75 %の種が入る範囲)です。

種の数
平均
中央値
幾何平均
標準偏差
四分位範囲
平均より小さい種

ばらつきの指標と、幾何平均

代表値だけでは、値がどれだけ散らばっているかがわかりません。よく使われるのが標準偏差で、各値が平均からどれだけ離れているかを二乗して平均し、平方根を取って元の単位に戻したものです。

標準偏差 = √{ (各値 − 平均)² の平均 }

標準偏差は平均を基準にしているので、平均と同じく大きな値に強く引っぱられます。体重の標準偏差は 13,110 g で、平均の2倍を超えます。そこで、ゆがんだデータでは四分位範囲もよく使われます。値を小さい順に並べて下から25 %の位置(第1四分位)と75 %の位置(第3四分位)の差で、真ん中の半分の種が入る幅です。

もう1つの選択肢が幾何平均です。値の対数を取ってから平均し、元の単位に戻します。「何倍ちがうか」で散らばるデータでは、対数にすると分布がほぼ左右対称になり、その中心が幾何平均になります。

幾何平均 = 10 の(log₁₀ 値 の平均)乗

体重の分布のゆがみを表す歪度(わいど。0なら左右対称、正なら右に裾を引く)は、そのままでは 7.60 ですが、対数にすると −0.40 まで下がります。3つの変数の要約を並べると次のとおりです。

変数(種の数)平均中央値幾何平均標準偏差四分位範囲
体重(265種)5,881 g3,006 g2,120 g13,110 g749〜7,078 g
群れの大きさ(216種)12.3 頭6.9 頭6.3 頭14.6 頭3.0〜16.1 頭
行動圏の広さ(157種)1.70 km²0.19 km²0.20 km²4.91 km²0.05〜0.88 km²

3つとも平均が中央値より大きく、右に裾を引いた分布です。行動圏では、平均より狭い種が85 %にのぼります。

よくある誤解

「平均は、よくある種の値だ」

右に裾を引くデータでは、平均は多くの種より大きな値になります。霊長類の体重では65 %の種が平均より軽く、群れの大きさでは69 %の種が平均より小さな群れです。「平均的な種」は、データの中で典型的な種とは限りません。

「平均 ± 標準偏差の範囲に、大半の値が入る」

この目安は、左右対称な山形の分布を前提にしています。体重で平均から標準偏差を引くと −7,229 g となり、ありえない値になります。群れの大きさでも −2.3 頭です。標準偏差を読む前に、分布の形を確かめる必要があります。

「極端な値は外れ値なので、除いてから要約すればよい」

ヒト科の7種を除くと、体重の平均は 5,881 g から 4,127 g に3割下がりますが、中央値は 3,006 g から 2,797 g と7 %しか動きません。ただしゴリラの体重は測り間違いではなく、実在する種の値です。除くかどうかは統計の都合ではなく、何について知りたいかで決まります。

「ゆがんだデータなら、いつも中央値を使えばよい」

中央値は、右端の種がどれほど重くなっても動きません。それは強みですが、合計や総量が関わる問いでは弱みにもなります。265種の体重の合計の32 %をヒト科7種が占めているという事実は、中央値からは見えません。

授業では、この回で扱っています

授業サイトは誰でも見られます。もう少し踏み込みたい人は、各回のページへどうぞ。

データ:Jones, K. E. et al. (2009) PanTHERIA: a species-level database of life history, ecology, and geography of extant and recently extinct mammals. Ecology 90: 2648. 霊長類376種のうち、成体の体重が記録されている265種、群れの大きさが記録されている216種、行動圏の広さが記録されている157種を使用。
標準偏差は、それぞれの種の集まりを全体として扱い、個数 n で割って計算しています。四分位は、並べた値の間を直線で補って求めています。