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第02回 代表値の性質と、その嘘

10/6(火)Ⅱ講 10:35〜12:15・B402教室

平均・中央値・最頻値、そして外れ値 ―― 「平均的な人」は実在するか


考え方をガイドで確かめる

この回の考え方は、統計の考え方ガイドの「データを要約する」でも解説しています。霊長類のデータを動かしながら確かめられます。

この回のゴール

  • 平均・中央値・最頻値の性質の違いを説明できる
  • 平均が「順位上の真ん中」や「最も多い値」を表すとは限らないことを理解する
  • 外れ値が平均をどれだけ動かすかを知り、「外れ値は消していいのか」を判断できる
  • 発展:平均が「二乗のズレ」を、中央値が「絶対値のズレ」を最小にすることを、自分で導ける

到達目標との対応:G1(記述統計)。


第1回の復習 ―― ここから今日につながる

今日の話は、第1回(ガイダンスと「直感」の敗北)の続きである。要点を思い出してから、 実際に第1回の課題で起きた間違いを見る。今日の内容に直結するものばかりだった。

① 第1回で確認したこと

  • 直感は「なんとなく」ではなく、ある条件のもとで一定の向きに裏切る(認知バイアス)。 ただし全員が毎回同じ間違いをするという意味ではない
  • モンティ・ホールの答えは、条件を整理すれば計算だけで出せる。 シミュレーションはその結論を自分の目で確かめる手段である
  • 統計学の地図:記述統計(手元のデータを要約する・第2〜3回)→ 推測統計(一部から全体を推し量る・第6回以降)。 今日はその入口、記述統計の第1回目にいる

② 第1回の課題で、実際に起きた間違い

提出は83名。パートAは77名が全問正解で、誤答は6名だった。

設問 誤答した人数 間違いの中身
A4(回数とばらつき) 3名 回数を増やしたときに何が変わるかの取り違え
A1(ドアを変えるか) 2名 「変えない」を選んだ
A3(誕生日) 1名 「23人だから約23%」(正しくは約51%)
A2(勝率) 1名 ―

(表の人数を足すと7になるが、A1とA2の両方を誤った人が1名いるためである。誤答者は6名。)

記号は正答でも、選択肢の中身を書き間違えた答案も1名あった(「(ウ) 約67%」を選びながら、 本文に「約90%」と書いていた)。選んだ記号が何の数字を指しているかは、毎回確かめてほしい。

記述のパートでは、3つのつまずきがはっきり共通していた。

つまずき① 「理論値=1万回のときの値」という誤解

理論値 2/3 は 計算で出る値で、試行回数とは何の関係もない。 1万回というのは「理論値に近い数字が出やすい回数」であって、 「理論値が決まる回数」ではない。

なぜ起きるか:Colab で1万回のシミュレーションを走らせると 0.666… が出る。 画面の上では、理論値と1万回の実測値が同じ場所に並んで現れる。 そこで「1万回やって出た数字が理論値だ」とつながってしまう。

つまずき② 「回数を増やすほど当たる確率が上がる」という言い方

上がるのは 当たる確率そのものではなく、推定の精度である。 「変える」の勝率は1回目からずっと 2/3 で、1ミリも動いていない。 回数を増やすと、観測された割合が 2/3 の近くに落ち着くだけである。

なぜ起きるか:グラフでは、回数が増えるにつれて線が 2/3 に「上がっていく」ように見える。 動いているのは観測された割合なのに、確率そのものが動いたと読んでしまう。 「確率」と「観測された割合」を、同じ言葉で呼んでいるのが原因である。

つまずき③ 回数を1つしか試していない(約15名)

設問は「回数を変えると結果がどうなるか」を問うていた。 1つしか試していなければ、比べるものがないので何も言えない。

なぜ起きるか:1万回で理論値にぴたりと合うと、それで「確かめられた」と感じてしまう。 だが「少ない回数ではずれる」ことを見ないかぎり、回数が効いているのかどうかは分からない。 実験は、条件を変えて比べたときにはじめて何かを言う。

報告した実験と考察で数字が食い違っている答案もあった(本文は1000回と10回、 考察は「1万回と1000回では」)。書いた数字は必ず揃えてほしい。

③ この3つは、今日そのまま出てくる

今日のテーマは平均・中央値・最頻値だが、つまずきの形は同じである。

第1回のつまずき 今日のどこに現れるか
① 理論値と実測値を同じものだと思う 「平均」は計算で出る値。それが「典型的な人」を指すとは限らない
② 確率と観測された割合を同じ言葉で呼ぶ 平均・中央値・最頻値をぜんぶ「真ん中」と呼んでしまう。3つは別の目的の数字である
③ 1つしか試さずに結論を出す 代表値を1つだけ見ると、分布の形は分からない。だから今日は3つ並べて比べる

とくに②が今日の中心にある。「平均」「中央値」「最頻値」を日常語の「真ん中」でまとめてしまうと、 今日の話は全部ぼやける。 第1回で「確率」と「観測された割合」を分けたのと同じ作業を、 今日は「代表値」に対してやる。


1. 3つの代表値

データを「1つの数」で代表させる方法は1つではない。

代表値 定義 ひとことで
平均値 (mean) 全部足して個数で割る みんなで等しく分けたら一人いくら
中央値 (median) 大きさ順に並べた真ん中の値 ちょうど真ん中の人
最頻値 (mode) 最も多く現れる値 いちばんありがちな値

中央値は、データ数が奇数なら真ん中の値、偶数なら真ん中2つの平均と定める。今回もヒト科を除いた258種や妊娠期間146種では偶数個の場合を使っている。

どれも「代表値」だが、別物だ。そして――どれを選ぶかで、データの語る物語が変わる。

式の読み方 ―― \(\sum\)(シグマ)に慣れる

平均は言葉では「全部足して個数で割る」だが、式で書くとこうなる。 このページの後半(発展)でも使うので、読み方をここで押さえる。

\[\bar{x} \;=\; \frac{1}{n}\sum_{i=1}^{n} x_i\]

声に出して読むと、

「エックス・バーは、エヌ分の1かける、アイが1からエヌまでの、エックス・アイの総和」

記号を1つずつ分解する。

記号 読み 何を指しているか
\(x_i\) 「エックス・アイ」 \(i\) 番目のデータ。\(x_1\) は1番目の種の体重、\(x_2\) は2番目…
\(n\) 「エヌ」 データの個数。霊長類の例では \(n=265\)
\(\sum_{i=1}^{n}\) 「アイが1からエヌまでの総和」 足し算をくり返すという命令。\(x_1+x_2+\cdots+x_n\) の略記
\(\bar{x}\) 「エックス・バー」 平均。文字の上の横棒が「平均をとった」という印

つまり \(\sum\) は新しい計算ではなく、長い足し算の省略記号である。

  • \(\sum_{i=1}^{3} x_i\) と書けば \(x_1+x_2+x_3\)
  • 下に \(i=1\)、上に \(n\) と書くのは「\(i\) を1から \(n\) まで順に動かせ」という意味
  • 添字は \(i\) でなくてもよい(\(j\) や \(k\) でも同じこと)

よくある読み間違い

読み間違い 実際には
\(\sum\) を「かけ算」だと思う 足し算。かけ算の記号は \(\prod\)(パイ)で、この授業では使わない
\(x_i\) の \(i\) を「具体的な数」だと思う \(i\) は番号を入れる箱。式の中で1から \(n\) まで動く
\(\sum_{i=1}^{n} x_i\) を「\(x\) を \(n\) 倍する」と読む 足すのはそれぞれ違う値。全部同じ値なら結果的に \(n\) 倍になるが、一般には違う
\(\bar{x}\) の横棒を割り算だと思う 「平均をとった」という印。割り算は式の中の \(\frac{1}{n}\) が担っている

中央値と最頻値には、こういう1本の式がない。順番に並べる、数えて一番多いものを選ぶという 手順で決まるからである。式で書けるかどうかも、3つの代表値の違いのひとつである。


2. 平均は、一部の巨体に吊り上げられる

霊長類265種の体重を見る(Colab 02_representative_values.ipynb)。

代表値 値
平均値 5,881 g(約5.9kg)
中央値 3,006 g(約3.0kg)
最大値 149,325 g(ヒガシゴリラ。この1種が平均を押し上げる)
最小値 31 g(ネズミキツネザル)

平均は中央値のほぼ2倍。 最大と最小の差は4,800倍ある。

この「平均」が何の平均かを確認しておく

使っているのは PanTHERIA という種単位のデータで、1行が1種である。したがってこの平均は「世界中のサルを1頭ずつ数えた平均体重」ではなく、体重の値が得られている265種を同じ重みで扱った要約である。個体数による重み付けはしていない。

また全376種のうち体重が使えるのは265種、妊娠期間は146種というように、使える種数は列ごとに違う。

なぜズレるのか

体重の分布は右に長い裾を引く(少数の大型類人猿が右端にいる)。平均はすべての値を足し込むので、極端に大きい値に引っ張られる。中央値は「順位」だけを見るので、右端の値がいくら大きくても、真ん中の順位の種が変わらなければ動かない。

区別しておこう。極端な値の大きさを変えること(149kg→1,490kg)では中央値は動かない。一方、観測そのものを追加・削除すること(7種を除く)では、中央に位置する観測が変わるので、中央値も変わることがある。次節の7種の除外では、実際に209g変化する。

これは体重だけの話ではない。年収・地価・SNSのフォロワー数・都市の人口――右に裾を引くデータは世の中にあふれている。

ただし注意してほしい。平均そのものが誤りなのではない。「平均年収」を〈年収順に並べたときの真ん中の世帯〉や〈いちばん多くの世帯がいる年収〉と読んでしまうことが誤りなのである。総額を人数で割った値を知りたいなら、平均はまさにその値を与える。要約したい中身に合う代表値を選び、それが何を意味するかを添えて報告する――これが正しい構えだ。この理由は、§3 の末尾に置いた導出①・②で数学の形になる。

さらに厄介なこと ―― 集中が1か所ではない

対数の目盛りで20区分に区切り直すと、集中が複数あることが分かる。400g〜1,400gあたりの小型のサル・キツネザルのまとまりと、5,039〜7,696gに55種が集中するまとまり(正体はオナガザル科92種)。

このとき、代表値がどこに落ちるかを実際に数えておこう。

体重の帯(対数20区分) 種数
1,414〜2,159g 9
2,159〜3,299g 24 ← 中央値 3,006g はここ
3,299〜5,039g 20
5,039〜7,696g 55 ← 平均 5,881g はここ。最多の帯

よく誤解されるが、中央値は「谷」に落ちているわけではない。この区切り方では中央値の帯(24種)は両隣(9種・20種)より多い。平均にいたっては最多の帯に入っている。

それでも問題は残る。どれか1つの代表値だけでは、「小型のまとまりと中型のまとまりがある」という分布の形そのものが伝わらない。代表値を出すこと自体が間違いなのではなく、代表値だけでは足りないのである。だからヒストグラムを併せて見る。


3. 外れ値は平均を大きく動かし、中央値はあまり動かない

まず5個の数字で確かめる

1, 2, 3, 4, 100 ―― 平均は 22、中央値は 3。

  • 100 を 1000 に変えても、中央値は 3 のまま(平均は 202 に跳ね上がる)。順位が変わらないからである
  • しかし 100 を削除すると、中央値は 2.5 になる。個数が5個から4個に減り、真ん中の位置がずれるからである

中央値は「動かない」のではなく「動きにくい」。 中央から離れた極端な値の大きさだけを変えても中央値は変わらない。 一方、観測を追加・削除すると中央の位置がずれるので、変わることがある。

ただし「減らせば必ず動く」わけでもない。1, 2, 2, 2, 100 の中央値は 2 で、 100 を削除した 1, 2, 2, 2 の中央値も 2 のままである。

大型類人猿(ヒト科・7種)を除くと――

平均 中央値 種数
全種 5,881 g 3,006 g 265
ヒト科を除く 4,127 g 2,797 g 258

たった7種(全体の2.6%)を抜いただけで平均は1,754g動くのに、中央値は209gしか動かない。動いた量の比は約8.4倍。中央値のほうが極端な値の影響を受けにくい。この性質を 頑健(robust) と呼ぶ。

なお、ここで得た平均4,127gは「全265種の平均」ではなく、ヒト科を除いた258種という別の対象集合の平均である。対象を変えたなら、そう書く。

これは「外れ値を判定して除いた」のではない

ここでやったのは、ヒト科という分類群を名指しで除いただけである。 外れ値の判定基準を当てはめた結果、ちょうどこの7種が選ばれたのではない。 (箱ひげ図でよく使う基準は、四分位数 \(Q_1, Q_3\) と四分位範囲 \(IQR=Q_3-Q_1\) を使って \(x < Q_1 - 1.5\,IQR\) または \(x > Q_3 + 1.5\,IQR\) を外れ値候補とするもの。四分位数は第3回で扱う。)

対象集合を変えて、代表値がどう動くかを比べているのであって、外れ値検出の実演ではない。 この区別は、今日の課題B2(どんなときに除いてよいか)に直結する。

「外れ値は消していいのか」問題

消す前に、理由を言えるか

外れ値の扱いには説明責任がある。

  • 欠測コード(元データの体重 −999 がこれ。PanTHERIA の仕様で「情報がない」ことを表すために意図的に使われている符号であって、入力ミスではない)→ 実測値として計算に入れるのが誤り。欠測値に置き換えるのが正しい処理。
  • 入力・測定の誤り(本当に間違って記録された値)→ 原資料で確認して訂正する。訂正できず除外するなら、その理由を書き残す。
  • 本物の極端な値(ヒガシゴリラは本当に149kgある)→ 大きいという理由だけで消してはいけない。頑健な要約を使うか、対象範囲を限定するならその目的と手続きを示す。
  • 対象範囲の限定は、それ自体は不正ではない。「ヒト科を除く霊長類」を分析対象だと明示するなら問題ない。まずいのは、結論に都合の悪いデータを黙って落として結果を歪めること(恣意的な除外による歪曲)である。なお研究倫理では、存在しないデータを作る「捏造」と、既存のデータ・結果を加工する「改ざん」は区別される。
  • 「平均を下げたい/上げたいから消す」は禁じ手。 結論に都合よくデータを削るのは統計的誤用の典型。

迷ったら「消す」より「中央値で報告する」「外れ値ありとなしの両方を示す」ほうが誠実なことが多い。


この2つは「決め方」を逆から考えている

ここまで、平均は「全部足して個数で割る」、中央値は「順に並べた真ん中」という 手続き で定義してきた。 最後に、逆から考えてみる。

データを 1つの数 \(c\) で代表させる。その \(c\) が代表として どれだけ下手か を点数にする。 そして、その点数がいちばん小さい \(c\) を探す。

このとき「下手さ」の測り方を変えると、出てくる答えが平均になったり中央値になったりする。 平均と中央値は、別々に発明された2つの道具ではなく、同じ問いに対する2つの答えだった、という話である。

まず、この表だけ見てください

データが 1, 2, 6 の3つだけだとする(平均は3、中央値は2)。 代表の候補 \(c\) をいろいろ試して、ズレの合計を2通りの方法で計算してみる。

候補 \(c\) ズレを二乗して合計 ズレの絶対値を合計
1 26 6
2 17 5 ← 最小
3 14 ← 最小 6
4 17 7
6 41 9

同じデータなのに、最小になる場所が違う。

  • 二乗で測ると \(c=3\) = 平均
  • 絶対値で測ると \(c=2\) = 中央値

念のため \(c=2\) の列を手で確かめる。二乗なら \((1-2)^2+(2-2)^2+(6-2)^2 = 1+0+16 = 17\)。 絶対値なら \(|1-2|+|2-2|+|6-2| = 1+0+4 = 5\)。

下の導出①・②は、この表で起きていることが「いつでも成り立つ」ことの証明である。 式が追えなくても、この表が読めていれば今日の内容は足りている。

なぜ二乗や絶対値を使うのか(符号の話)

ズレをそのまま足すと、プラスとマイナスが打ち消してしまう。 たとえば \(c=3\) のとき、ズレは \(1-3=-2\)、\(2-3=-1\)、\(6-3=+3\) で、合計は \(0\) になる。 これでは「下手さ」が測れない。

そこで符号を消す必要がある。消し方は主に2つで、二乗するか 絶対値をとるか。 この選択が、平均と中央値の分かれ目になっている。


導出①:平均は「二乗のズレ」を最小にする点

やること:上の表の「二乗して合計」の列を、\(n\) 個のデータについて一般化する。

データ \( x_1,\dots,x_n \) を1つの値 \( c \) で代表させる。下手さを ズレの二乗の合計で測る。

\[ S(c) \;=\; \sum_{i=1}^{n} (x_i - c)^2 \]

これを最小にする \( c \) を探したい。ここで使う仕掛けは1つだけである。 各点のズレを、2段階に分けて考える。

\[ x_i - c \;=\; \underbrace{(x_i - \bar{x})}_{\text{①その点が平均からどれだけ離れているか}} \;+\; \underbrace{(\bar{x} - c)}_{\text{②平均から } c \text{ までどれだけ離れているか}} \]

①は \(c\) を動かしても変わらない(データと平均だけで決まる)。②は \(c\) を動かすと変わる。 つまり \(c\) 次第で動く部分と動かない部分を切り分けたわけである。これを二乗して合計すると、

\[ S(c) \;=\; \sum_{i=1}^{n} \bigl\{(x_i-\bar{x}) + (\bar{x}-c)\bigr\}^2 \;=\; \sum_{i=1}^{n}(x_i-\bar{x})^2 \;+\; 2(\bar{x}-c)\sum_{i=1}^{n}(x_i-\bar{x}) \;+\; n(\bar{x}-c)^2 \]

真ん中の項は消える。平均の定義より \( \sum x_i = n\bar{x} \) なので、\( \sum (x_i-\bar{x}) = \sum x_i - n\bar{x} = 0 \) だからである(第3回でもう一度扱う)。残るのは

\[ S(c) \;=\; \underbrace{\sum_{i=1}^{n}(x_i-\bar{x})^2}_{c \text{ に無関係}} \;+\; \underbrace{n(\bar{x}-c)^2}_{0 \text{ 以上}} \]

第2項は二乗だから0以上で、0になるのは \( c=\bar{x} \) のときだけ。したがって \( S(c) \) は \( c=\bar{x} \) で最小になる。

言い換えると、\(S(c)\) は「動かせない分(第1項)+ \(c\) を平均からずらした分の罰金(第2項)」という形をしている。 罰金をゼロにする唯一の方法が \(c=\bar{x}\) なので、平均が答えになる。

微分は使っていない。やったのは 平方完成(二乗の形にまとめる操作)だけである。

さっきの表と照らす

データ 1, 2, 6 で確かめる。第1項は \((1-3)^2+(2-3)^2+(6-3)^2 = 4+1+9 = 14\) で、これは \(c\) に関係なく常に出てくる分。 第2項は \(3(3-c)^2\) で、\(c=2\) なら \(3\times 1 = 3\)。合計 \(14+3=17\)。表の \(c=2\) の値と一致する。

数値で確かめる:霊長類265種の体重で \( S(\bar{x}) = 4.554\times10^{10} \)、\( S(\text{中央値}) = 4.773\times10^{10} \)(1.048倍)。二乗のズレで測ると、中央値は平均に負ける。

使った数学:平方完成、総和の分配(微I)。

導出②:中央値は「絶対値のズレ」を最小にする点

やること:上の表の「絶対値を合計」の列を一般化する。

今度はズレを二乗せず、絶対値の合計で測る。

\[ A(c) \;=\; \sum_{i=1}^{n} |x_i - c| \]

こちらは平方完成が使えない(絶対値は二乗の形にまとめられない)。 代わりに、\(c\) を少し動かしたときに合計が増えるか減るかを調べるという方法をとる。

直観:引っ越し先を決める問題だと思う

数直線の上に何人かが住んでいて、全員が集まる場所を1つ決めたい。 \(A(c)\) は「全員が歩く距離の合計」である。

いま候補地 \(c\) を 右に1歩 動かすとどうなるか。

  • \(c\) より左に住んでいる人は、1歩分だけ遠くなる(損)
  • \(c\) より右に住んでいる人は、1歩分だけ近くなる(得)

つまり得か損かは、左右どちらに人が多いかだけで決まる。 右に多ければ右へ動かす。左に多ければ左へ動かす。 動かす理由がなくなる場所=左右の人数が釣り合う場所が答えで、それが中央値である。

ここで 「誰がどれだけ遠くに住んでいるか」は一度も使っていない点に注意してほしい。 使ったのは「左に何人・右に何人」という人数だけである。

では、これを式で確かめる。\( c \) をほんの少し右に動かして \( c+\varepsilon \) にしたとき、\( A \) はどう変わるか。ただし \( c \) が観測値とちょうど重ならず、動かす途中でどの観測値もまたがない範囲で考える(折れ曲がりは観測値の上で起きる)。

  • \( c \) より左にある点(\( k_{\text{左}} \) 個)からは \( \varepsilon \) ずつ遠ざかる → 合計 \( +k_{\text{左}}\,\varepsilon \)
  • \( c \) より右にある点(\( k_{\text{右}} \) 個)へは \( \varepsilon \) ずつ近づく → 合計 \( -k_{\text{右}}\,\varepsilon \)

差し引きすると、変化は \( (k_{\text{左}} - k_{\text{右}})\,\varepsilon \) である。

つまり右に動かして得をするのは、右にある点のほうが多いときだけ。左右の個数が釣り合うところで、それ以上動かしても得をしなくなる。その場所が中央値である。

さっきの表と照らす

データ 1, 2, 6 で左右の個数を数える。

候補 \(c\) \(c\) より左 \(c\) より右 右に動かすと
1.5 1個 2個 得(右のほうが多い)
2 1個 1個 釣り合い ← ここが中央値
3 2個 1個 損(左へ戻すべき)

表の \(A(c)\) が \(c=2\) で最小(5)になっていたのは、これが理由である。

個数が偶数のときは「1点」ではなく「区間」になる

「釣り合ったらどちらへ動かしても損」は、いつでも正しいわけではない。データが \(0\) と \(10\) の2つだけなら

\[ |0-c| + |10-c| = 10 \qquad (0 \le c \le 10) \]

で、0から10のどこでも同じ最小値になる。正確に書くとこうなる。並べ替えたデータを \( x_{(1)} \le \cdots \le x_{(n)} \) として

\[ \underset{c}{\operatorname{argmin}} \sum_{i=1}^{n}|x_i-c| = \begin{cases} \{\,x_{(m+1)}\,\} & (n = 2m+1) \\[4pt] [\,x_{(m)},\ x_{(m+1)}\,] & (n = 2m) \end{cases} \]

偶数個のとき、ふつう「中央値」として報告するのは、この最小化区間の中点である。

この議論で、値の大きさは一度も使っていない。使ったのは「左に何個・右に何個」という順位だけだ。だから右端のゴリラが149kgであろうと1,490kgであろうと、順位が変わらないかぎり中央値は動かない。第3節で見た「中央値は外れ値に強い」の正体が、これである。

数値で確かめる:同じ265種で \( A(\text{中央値}) = 1.313\times10^{6} \)、\( A(\bar{x}) = 1.431\times10^{6} \)(1.090倍)。絶対値のズレで測ると、今度は平均が中央値に負ける。中央値の左右は132種ずつだった。

使った数学:場合分けと数え上げ(微I)。順序だけを使い、値の差の大きさは使わない。

平均と中央値は、どちらも「真ん中」である。違うのは「ズレ」の測り方のほうだ。 二乗で測れば平均が、絶対値で測れば中央値が最適になる。どちらが正しいかという問題ではなく、何をズレと呼ぶかを先に決めているのである。

平均も中央値も、それぞれの基準に照らして最適な要約である。ただし第2節で見たとおり、山が2つある分布では、どちらか1つだけでは「集中が複数ある」という分布の形までは伝えられない。最適であることと、分布を説明しきることは、別である。


4. 分布によっては、平均と中央値が近くなる

今回の体重データでは、少数の大きな値が平均を押し上げ、中央値との差が大きくなった。いつもそうなるわけではない。同じデータセットの中でも、妊娠期間日では:

  • 平均 164.4日 / 中央値 165.5日(歪度 −0.06)―― ほぼ一致

列によって分布の形はまったく違う。「このデータは平均を使ってよいか」は、列ごとに判断することになる。

「左右対称なら3つとも一致する」ではない

正規分布のように、左右対称で・中心に山が1つだけある分布なら、平均・中央値・最頻値は一致する。だが左右対称というだけでは最頻値まで一致するとは限らない。

たとえば \(1,\ 1,\ 2,\ 3,\ 4,\ 5,\ 5\) は3を中心に完全に左右対称だが、平均と中央値は3、最頻値は1と5である。山が2つあれば、対称でも最頻値は中心に来ない。

また、今回の妊娠期間で計算したのは平均と中央値だけで、最頻値は求めていない。ここで確かめられたのは「平均と中央値が近かった」ことである。

歪度がほぼ0というだけでも左右対称とは確定できない。ヒストグラムと併せて見ること。

だからこそ、まず分布の形(ヒストグラム)を見ることが先である。形を見ずに平均だけ報告するのが、いちばん危ない。


まとめ

代表値 何を答える値か(目的) 外れ値への強さ 注意
平均値 総額を人数・個数で割った値を知りたいとき 弱い 「順位上の真ん中」「最も多い値」と読み替えない
中央値 順位上の真ん中を示したいとき 強い(頑健) 値の大小の情報を一部捨てる
最頻値 最も多く現れる値・カテゴリを示したいとき 影響を受けにくい 同率で複数になることがある(1,1,2,3,4,5,5 は1と5)

まず「何を知りたいか」を決める。代表値はそのあとで選ぶ。 なお、連続量を帯に区切って求める 最頻階級 は、区切り方を変えると答えが変わる。最頻値とは別物である。

代表値の選択は中立ではない。どれを選ぶかは、すでに一つの主張だ。 数字を見たら、まず分布の形を疑え。 第1回で見たのは「直感が系統的に外れる」ことだった。今回ずれているのは平均そのものではなく、平均を「順位上の真ん中」や「最も多い値」と読み替えたり、平均だけで分布全体を分かったつもりになったりする読み方のほうである。


今日の課題(Moodle提出)

配点:100点(選択40点 + 記述60点)/ 提出先:Moodle / 提出期限:次回授業の開始時刻まで

Colab 02_representative_values.ipynb を実行したうえで答えること。


パートA:選択問題(各10点 ×4=40点)

A1. 霊長類265種の体重(平均約5,881g・中央値約3,006g)について、265種を重い順に並べたときの「真ん中の種」を表すのはどれか。

  • (ア) 平均値 (イ) 中央値 (ウ) 最大値

A2. 大型類人猿(ヒト科7種)を除く前と後で、変化量の絶対値を g 単位で比べると、小さかったのはどちらか。

  • (ア) 平均値 (イ) 中央値 (ウ) どちらも同じだけ動いた

A3. 霊長類の妊娠期間日は、平均164.4日・中央値165.5日だった。この結果から直接いえることとして、最も適切なのは?

  • (ア) 平均と中央値は近いが、最頻値まで一致するかはこの結果だけでは分からない
  • (イ) 平均・中央値・最頻値は必ず一致する
  • (ウ) 平均と中央値が近いので、分布は必ず左右対称である

A4. 世帯年収の分布が右に歪んでいるとき、「世帯平均年収は◯◯万円」という数字を「年収順に並べた真ん中の世帯の年収」と受け取ることの問題点として、最も適切なのは?

  • (ア) 平均は計算が難しく、信頼できないから
  • (イ) 少数の高所得世帯が平均を押し上げるため、平均は順位上の真ん中より高くなりやすいから
  • (ウ) 平均は外れ値に強すぎて、変化が分からないから

パートB:記述問題(AIフィードバック対象・60点)

【全記述に共通・重要】自分のノートの数字を引用すること

B1・B2とも、今日のColabで確認した霊長類データの性質と関連づけて説明すること。その際、根拠にした数値を最低1つ引用してください(例:「平均5,881gに対し中央値3,006g」「ヒト科を除くと平均が1,754g下がったが中央値は209gしか動かなかった」)。

求めているのは数値の挿入ではなく、霊長類データで見た性質が、時給や外れ値の話にどうつながるのかの説明です。なおこれらの数値は本文にも載っているので、引用だけでは実行の確認にはなりません。

B1.(30点) あなたは大学のアルバイト紹介ページに「この職場の時給」を1つの数字で載せる担当になった。ところが時給は、ほとんどが1,050円なのに、店長1人だけ2,500円だった。

  • 誰の、何を代表させたいのか(応募を考えている人が知りたいのは何か)
  • その目的に対して、どの代表値(平均・中央値・最頻値)が合うか。なぜそれを選ぶのか
  • 他の代表値だと何が起きるか

を、具体的に 150〜250字程度で説明しなさい。

(このケースでは中央値でも最頻値でも1,050円になります。どちらを選んでも構いません。「店長は職種が違うので分けて表示する」のように、対象範囲を明示して分ける答えも評価します。見るのは代表値の名前ではなく、目的とその説明です)

B2.(30点) データの中に外れ値を見つけたとき、「除いてよい場合」と「除いてはいけない場合」を、それぞれ具体例を1つずつ挙げて説明しなさい。「外れ値はとりあえず消す」がなぜ危険かにも触れること。

目安:B1・B2あわせて300〜500字。自分の言葉で書くこと。

字数は目安です。多少の過不足で減点はしません。見るのは、設問が挙げた要素(上の箇条書き)が書けているかどうかです。ただし要素が抜けていれば、その分は引きます。

次回予告

第3回「ばらつきを測る」。平均が同じでも中身は全然違う。分散・標準偏差と、「正規分布という仮定」の意味へ。