第02回 代表値の性質と、その嘘¶
10/6(火)Ⅱ講 10:35〜12:15・B402教室
平均・中央値・最頻値、そして外れ値 ―― 「平均的な人」は実在するか
今日のリンク
- 📊 スライドを開く
- 📓 Colabノートを開く(02_representative_values.ipynb)
- 📝 課題を提出する(Moodle・第2回)
- 課題の本文はこのページの末尾にあります
この回のゴール¶
- 平均・中央値・最頻値の性質の違いを説明できる
- 分布が歪むと、平均が「真ん中」を表さなくなることを理解する
- 外れ値が平均をどれだけ動かすかを知り、「外れ値は消していいのか」を判断できる
到達目標との対応:G1(記述統計)。
1. 3つの代表値¶
データを「1つの数」で代表させる方法は1つではない。
| 代表値 | 定義 | ひとことで |
|---|---|---|
| 平均値 (mean) | 全部足して個数で割る | みんなで等しく分けたら一人いくら |
| 中央値 (median) | 大きさ順に並べた真ん中の値 | ちょうど真ん中の人 |
| 最頻値 (mode) | 最も多く現れる値 | いちばんありがちな値 |
どれも「代表値」だが、別物だ。そして――どれを選ぶかで、データの語る物語が変わる。
2. 平均は、一部の巨体に吊り上げられる¶
霊長類265種の体重を見る(Colab 02_representative_values.ipynb)。
| 代表値 | 値 |
|---|---|
| 平均値 | 5,881 g(約5.9kg) |
| 中央値 | 3,006 g(約3.0kg) |
| 最大値 | 149,325 g(ヒガシゴリラ。この1種が平均を押し上げる) |
| 最小値 | 31 g(ネズミキツネザル) |
平均は中央値のほぼ2倍。 最大と最小の差は4,800倍ある。
なぜズレるのか
体重の分布は右に長い裾を引く(少数の大型類人猿が右端にいる)。平均はすべての値を足し込むので、極端に大きい値に引っ張られる。中央値は「順位」だけを見るので、右端が何kgだろうと真ん中は動かない。
これは体重だけの話ではない。年収・地価・SNSのフォロワー数・都市の人口――右に裾を引くデータは世の中にあふれている。これらを「平均」で語るのは、たいてい誇張になる。
さらに厄介なこと ―― この分布は「二山」である
対数の目盛りで区切り直すと、山が2つあることが分かる。400g〜1,400gあたりの小型のサル・キツネザルの山と、5,039〜7,696gに55種が集中する山(正体はオナガザル科92種)。
そして中央値3,006gは、その2つの山の「谷間」に落ちている。つまり ――
平均も中央値も最頻値も、「よくいる霊長類」を指していない。山が2つあるとき、1つの代表値で答えようとすること自体が間違いである。
3. 外れ値は平均を動かし、中央値は動かさない¶
大型類人猿(ヒト科・7種)を除くと――
| 平均 | 中央値 | 種数 | |
|---|---|---|---|
| 全種 | 5,881 g | 3,006 g | 265 |
| ヒト科を除く | 4,127 g | 2,797 g | 258 |
たった7種(全体の2.6%)を抜いただけで平均は1,754g動くのに、中央値は209gしか動かない。動いた量の比は約8.4倍。中央値は外れ値に強い。この性質を 頑健(robust) と呼ぶ。
「外れ値は消していいのか」問題¶
消す前に、理由を言えるか
外れ値の扱いには説明責任がある。
- 入力ミス・測定ミス(元データには体重 −999g という値が実際に入っている。これは「未測定」を表す符号)→ 訂正するか除外してよい。理由が明確。
- 本物の極端な値(ヒガシゴリラは本当に149kgある)→ 勝手に消したらデータの捏造。
- 「平均を下げたい/上げたいから消す」は禁じ手。 結論に都合よくデータを削るのは統計的誤用の典型。
迷ったら「消す」より「中央値で報告する」「外れ値ありとなしの両方を示す」ほうが誠実なことが多い。
4. 対称な分布なら、3つは一致する¶
歪んでいるからズレるのであって、いつもズレるわけではない。同じデータセットの中でも、ほぼ左右対称な妊娠期間日では:
- 平均 164.4日 / 中央値 165.5日(歪度 −0.06)―― ほぼ一致
列によって分布の形はまったく違う。「このデータは平均を使ってよいか」は、列ごとに判断することになる。
対称な分布では「どれを使っても同じ」。だからこそ、まず分布の形(ヒストグラム)を見ることが先。形を見ずに平均だけ報告するのが、いちばん危ない。
まとめ¶
| 代表値 | 強み | 弱み | 向く場面 |
|---|---|---|---|
| 平均値 | 全データを使う | 外れ値・歪みに弱い | 左右対称なデータ |
| 中央値 | 外れ値に強い(頑健) | 大小の情報を一部捨てる | 体重・年収など歪んだデータ |
| 最頻値 | カテゴリにも使える | 連続データでは区切り方に左右される | 選択肢・人気投票 |
代表値の選択は中立ではない。どれを選ぶかは、すでに一つの主張だ。 数字を見たら、まず分布の形を疑え。 第1回で見たのは「直感が系統的に外れる」ことだった。ここで外れているのは直感ではなく、我々が無意識に選んでいる「平均」という要約のほうだ。
今日の課題(Moodle提出)¶
配点:100点(自動採点40点 + 記述60点)/ 提出先:Moodle
Colab 02_representative_values.ipynb を実行したうえで答えること。
パートA:選択問題(自動採点・各10点 ×4=40点)¶
A1. 霊長類265種の体重(平均約5,881g・中央値約3,006g)について、265種を重い順に並べたときの「真ん中の種」を表すのはどれか。 - (ア) 平均値 (イ) 中央値 (ウ) 最大値
A2. 大型類人猿(ヒト科7種)を除いたとき、値がほとんど動かなかったのはどちらか。 - (ア) 平均値 (イ) 中央値 (ウ) どちらも大きく動いた
A3. 霊長類の妊娠期間日はほぼ左右対称だった(平均164.4日・中央値165.5日)。代表値として最も問題が少ないのは?
- (ア) 平均値でも中央値でもよい(ほぼ一致する)
- (イ) 必ず中央値を使わなければならない
- (ウ) 必ず最頻値を使わなければならない
A4. 「日本の世帯平均年収は◯◯万円」という報じ方の問題点として、最も適切なのは? - (ア) 平均は計算が難しく、信頼できないから - (イ) 少数の高所得世帯が平均を押し上げ、多数派の実感より高く見えるから - (ウ) 平均は外れ値に強すぎて、変化が分からないから
パートB:記述問題(AIフィードバック対象・60点)¶
【全記述に共通・重要】自分のノートの数字を引用すること
各記述には、今日のColabであなたが確認した霊長類データの数値を最低1つ引用すること(例:「平均5,881gに対し中央値3,006g」「ヒト科を除くと平均が1,754g下がったが中央値は209gしか動かなかった」)。 引用がない記述は、内容が良くても満点にはなりません。 AIに書かせた一般論ではなく、自分で手を動かした答えを評価するためです。
B1.(30点) あなたは大学のアルバイト紹介ページに「この職場の時給」を1つの数字で載せる担当になった。ところが時給は、ほとんどが1,050円なのに、店長1人だけ2,500円だった。
- どの代表値(平均・中央値・最頻値)を載せるべきか
- なぜそれを選ぶのか。他の代表値だと何が起きるか
を、具体的に4〜6文で説明しなさい。
B2.(30点) データの中に外れ値を見つけたとき、「除いてよい場合」と「除いてはいけない場合」を、それぞれ具体例を1つずつ挙げて説明しなさい。「外れ値はとりあえず消す」がなぜ危険かにも触れること。
目安:B1・B2あわせて300〜500字。自分の言葉で書くこと。
次回予告
第3回「ばらつきを測る」。平均が同じでも中身は全然違う。分散・標準偏差と、「正規分布という仮定」の意味へ。