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第03回 ばらつきを測る/正規分布という「仮定」

10/13(火)Ⅱ講 10:35〜12:15・B402教室

平均が同じでも、中身は別物 ―― 分散・標準偏差・偏差値、そして「正規分布」の責任


この回のゴール

  • 分散・標準偏差が「何を測っているか」を説明できる
  • 偏差値の正体(平均50・SD10に置き直した相対位置)を理解する
  • 正規分布の 68-95-99.7 則を知り、「正規だと仮定してよいか」を自分で確かめる

到達目標との対応:G1(記述統計)


1. 平均だけでは、データは分からない

2か所の森で、サルの体重を30頭ずつ測った。どちらも平均6.0kg。同じような群れだろうか?

  • 森A:ほとんどの個体が6kg前後(SD ≈ 0)
  • 森B:半分が2kg、半分が10kg(SD ≈ 4.1)

平均は同じでも中身は正反対。平均は分布の「位置」しか表さない。 足りないのは「どれだけ散らばっているか」=ばらつきの情報だ。

森Bはそもそも2つの別々の集団が混ざっているのかもしれない(第2回の「二山」の話とつながる)。


2. 分散と標準偏差 ―― なぜ二乗するのか

ばらつきは「各データが平均からどれだけ離れているか」で測る。

  1. 各データの 平均からの差(偏差) を出す
  2. そのまま足すと プラスとマイナスが打ち消し合って必ず0になる → 二乗してから平均する = 分散
  3. 二乗したままだと単位が「点²」で直感的でない → ルートを取って元の単位に戻す標準偏差(SD)

なぜ二乗? なぜルート?

二乗は「符号を消して、大きいズレをより重く見る」ため。ルートは「日²を日に戻して、人間が読める単位にする」ため。だから普段はSDを使う。

霊長類の 妊娠期間日(146種):

平均 164.4 日
分散 1,427.2(日²・読みにくい)
標準偏差(SD) 37.8 日(元の単位・これを使う)

SDは「平均からの標準的な散らばり幅」。平均±1SD(約127〜202日)に多くの種が収まる。

ちなみにヒトの妊娠期間は約280日で、この平均から見ると +3SD ほど右にいる。霊長類の中ではかなり長いほうである。


3. 偏差値の正体

偏差値は、値を 平均50・標準偏差10 のものさしに置き直しただけ。

\[ 偏差値 = 50 + 10 \times \frac{あなたの値 - 平均}{標準偏差} \]

「平均からSD何個分ずれているか」を 50 中心に表したもの。これを霊長類の体重でやると、壊れる。

体重 生のスケール 対数スケール
ネズミキツネザル 31 g 45.5 23.2
ニホンザル 10,115 g 53.2 59.9
ヒト 58,541 g 90.1 71.1
ヒガシゴリラ 149,325 g 159.2 77.1

偏差値159 という数字

まともなテストでは出てこない値である。計算式は間違っていない。壊れているのは、この式が暗黙に置いている前提――データが平均のまわりに左右対称に散らばっていること――のほうだ。

そして反対の端も見てほしい。31gのネズミキツネザル(45.5)と10kgのニホンザル(53.2)は、たった8しか違わない。体重は324倍も違うのにである。

上は青天井、下は潰れる。対数の目盛りに変えれば全部 23〜78 に収まる。同じ種の同じ体重で、変えたのはものさしだけ。

偏差値の読み方

偏差値60 = 平均より1SD上 = 上位約16%(分布が正規のときだけ)。偏差値は「値の大きさ」ではなく「集団の中での位置」。偏差値・Zスコア・標準化――名前は違っても、すべて同じ仮定の上に乗っている。


4. 正規分布と 68-95-99.7 則

左右対称で釣鐘型の分布を 正規分布 という。正規分布なら、ばらつきの目安が決まっている:

範囲 理論 対数体重(実データ) 生の体重(実データ)
平均 ±1SD 約 68% 71.7% 97.4%
平均 ±2SD 約 95% 94.7% 97.4%
平均 ±3SD 約 99.7% 100.0% 98.5%

対数の目盛りにした体重はほぼこの通り(歪度 −0.40)。だから正規分布でよく近似できる。 一方、生のスケール(歪度 +7.60)はまったく合っていない。


5. 正規分布は「仮定」であって、自然法則ではない

世の中のすべてが正規分布ではない。生のスケールの体重に正規分布を当てはめると――

  • 体重の歪度は +7.60(強く右に裾を引く)。対数にした後の −0.40 とは別世界。
  • 釣鐘型の正規曲線は、体重のヒストグラムにまったく合わない
  • そして 平均 − 1SD = −7,254 g体重がマイナスの動物はいない。当てはめた時点で、ありえない領域に確率を配ってしまっている。

正直に言うと、対数にしても「正規分布」ではない

厳密に検定すると(Shapiro-Wilk)、対数スケールでも「正規とは言えない」と出る。妊娠期間日も歪度がほぼ0(−0.06)で見た目は左右対称なのに、山が尖りすぎていて棄却される。

左右対称であることと、正規分布であることは、同じではない。

では対数変換は無駄だったのか。そうではない。±1SDの実測が 97.4% → 71.7%(理論68%)まで近づいたのは事実で、生のスケールよりはるかに使える。

正規分布は「現実の姿」ではなく「近似の道具」である。問うべきは「正規分布か(Yes/No)」ではなく、「この目的に対して、十分な近似か」

「正規だと仮定する」ことの責任

68-95-99.7則や、後で習う多くの手法は「正規分布である」ことを前提にしている。歪んだデータにそれを当てると、間違った結論になる。 「正規分布だと仮定する」のは中立な前提ではなく、根拠を示すべき判断だ。まずヒストグラムを描いて形を見る、が鉄則。


まとめ

概念 ひとこと
分散 平均からの差を二乗して平均(単位は元の二乗)
標準偏差(SD) 分散のルート。ばらつきの標準的な幅(元の単位)
偏差値 平均50・SD10に置き直した相対位置。分布が歪むと破綻する(ゴリラ159)
68-95-99.7則 正規分布なら±1/2/3SDに68/95/99.7%(正規のときだけ

平均は「位置」、SDは「幅」。両方見て初めてデータが分かる。 正規分布は便利な仮定だが、当てはまるかは自分で確かめるもの。

同じデータでも、ものさしを変えれば偏差値は159にも77にもなる。 数字が出てきたら、どんな仮定の上で計算されたのかを問う。


今日の課題(Moodle提出)

配点:100点(自動採点40点 + 記述60点)/ 提出先:Moodle

Colab 03_variability.ipynb を実行したうえで答えること。


パートA:選択問題(自動採点・各10点 ×4=40点)

A1. 2つのクラスはどちらも平均60点。クラスXのSDは3点、クラスYのSDは25点だった。正しいのは? - (ア) XとYは平均が同じなので、ほぼ同じクラスだ - (イ) Yのほうが点のばらつきが大きく、極端に高い人・低い人が多い - (ウ) Xのほうがばらつきが大きい

A2. 標準偏差について正しいのは? - (ア) 標準偏差は小さいほど良いクラスだといえる - (イ) 標準偏差は「平均からの標準的な散らばりの幅」を表す - (ウ) 標準偏差は平均と同じ意味で、どちらを使ってもよい

A3. あるテストは平均50点・標準偏差10点だった。70点を取った人の偏差値に最も近いのは? - (ア) 50 (イ) 60 (ウ) 70 (エ) 80

A4.対数目盛りの体重では68-95-99.7則がだいたい成り立ったが、生の体重では成り立たなかった」。その理由として最も適切なのは? - (ア) 生の体重はデータ数が少なかったから - (イ) 生の体重の分布は右に大きく歪んでおり、正規分布で近似できないから - (ウ) 68-95-99.7則はお金には使えない決まりだから


パートB:記述問題(AIフィードバック対象・60点)

【全記述に共通・重要】自分のノートの数字を引用すること

各記述には、今日のColabで確認した数値を最低1つ引用すること(例:「妊娠期間日のSDは37.8日」「対数体重は±2SDに94.7%」「生の体重の歪度は+7.60」「ゴリラの偏差値は159.2」)。 引用がない記述は、内容が良くても満点にはなりません。

B1.(30点) ある会社が2つの工場A・Bの製品の重さを測ったところ、どちらも平均500gだったが、AのSDは2g、BのSDは40gだった。「平均が同じだから品質も同じ」と言えるか。SDの意味に触れながら、どちらの工場が安定しているか、その理由とともに説明しなさい。

B2.(30点)対数目盛りの体重には正規分布(68-95-99.7則)がだいたい使えたのに、生の体重には使えなかった」のはなぜか。分布の形(歪み)という言葉を使って説明し、「データを見たら何でも正規分布だと仮定してよいわけではない」とはどういうことかを、自分の言葉で述べなさい。

目安:B1・B2あわせて300〜500字。自分の言葉で書くこと。

次回予告

第4回「Python統計処理入門」。ここまで見てきた代表値・ばらつきを、いよいよ自分でコードを書いて求める。Colab・Pandas・NumPy の本格始動。