第01回 ガイダンスと「直感」の敗北¶
9/29(火)Ⅱ講 10:35〜12:15・B402教室
なぜ統計が必要か ―― 「人間味」がいかに判断を曇らせるか
今日のリンク
- 📊 スライドを開く
- 📓 Colabノートを開く(01_intro.ipynb)
- 📝 課題を提出する(Moodle・第1回)
- 課題の本文はこのページの末尾にあります
この回のゴール¶
- このコースの全体像(記述統計 → 推測統計)の地図を頭に入れる
- 「直感は速いが、系統的に間違える」ことを、自分の手元のシミュレーションで確認する
- Colab を起動して ▶ を押せるようになる(操作はこれだけ。本格的な実習は第4回から)
到達目標との対応:G1(記述/推測の地図) と G3(Colabに触れる) の入口。
1. 直感は「なんとなく」間違えるのではない¶
人間の判断は速い。信号が青になれば渡るし、相手の表情で機嫌を読む。この速さは進化が与えた生存の道具だ。
問題は、その速さが確率や大量データの前で系統的に裏切ること。系統的とは「毎回おなじ向きにずれる」という意味だ。ランダムなズレなら平均すれば消えるが、系統的なズレは何回繰り返しても消えない。これが認知バイアスである。
代表的なもの:
| バイアス | 中身 | 例 |
|---|---|---|
| 代表性ヒューリスティック | 「典型的らしさ」で確率を判断する | リンダ問題(合接の誤謬) |
| 利用可能性ヒューリスティック | 思い出しやすい事例で頻度を見積もる | 飛行機事故を過大に怖がる |
| 確証バイアス | 自分の説を支持する情報ばかり集める | 「やっぱり◯◯だ」 |
| ギャンブラーの誤謬 | 偶然の偏りに「次は揺り戻す」と期待 | 「3連続で表、次は裏」 |
このコースの立場
日本社会で美徳とされる「空気を読む(同調)」も、データサイエンスの観点からは中立ではない。みんなが互いに影響し合うと、データの独立性が壊れる。独立でない標本からは、母集団を正しく推測できない(→第6回)。これは精神論ではなく、推測統計が成り立つための数学的な前提の話だ。
2. 手を動かして「敗北」を確認する¶
講義で言葉を聞くだけでは直感は変わらない。自分の目で外れるのを見る必要がある。今日のColabノートで3つ確認する。
① モンティ・ホール問題¶
3つのドア、1つが当たり。あなたが1つ選んだ後、司会者がハズレのドアを1つ開ける。ドアを変えるべきか?
- 直感:「2択になったから 50:50。変えても同じ」
- シミュレーション(1万回):変えない 約33% / 変える 約67%
変えると勝率が2倍になる。理由は「最初に外す確率が2/3だから、変えればその2/3がそのまま当たりになる」。直感は確率が移動することを見落とす。
② 誕生日のパラドックス¶
23人いれば、誕生日が同じペアがいる確率は 約51%(半分以上!)。
直感が小さく見積もるのは、「自分と同じ人」を探してしまうから。本当は「誰かと誰かが同じ」で、ペアの数は23人で253通りもある。組み合わせの爆発を直感は捉えられない。
③ 少数は偶然に振り回される(大数の法則)¶
コインを投げ続けると表の割合は 0.5 に近づくが、最初の数十回はガタガタに偏る。少ないデータで「傾向がある」と判断すると、ただの偶然を意味だと勘違いする。
今日のColab
01_intro.ipynb を開き、上から ▶ を押すだけ。コードの中身は分からなくてよい。自分の予想を決めてから実行し、答え合わせをすること。
3. このコースの地図¶
統計学は大きく2つに分かれる。今いる場所をいつも意識しよう。
統計学
├─ 記述統計(手元のデータを「要約」する) … 第2〜3回
│ ├─ 代表値(平均・中央値・最頻値)
│ └─ ばらつき(分散・標準偏差)
│
└─ 推測統計(一部から「全体」を推し量る) … 第6回以降
├─ 標本と母集団/中心極限定理
├─ 推定(信頼区間)
├─ 仮説検定(t検定・分散分析)
└─ モデル(回帰・AIC・ベイズ・多変量)
そしてその全部を、Python(Colab)という道具で実際に動かす(第4回で本格始動)。
敗北のあとに何が残るか
今日は「直感が外れる」ところばかりを見た。だが、直感が外れることと、あなたが判断できないことは別だ。
モンティ・ホールで正解にたどり着けたのは、誰かの直感が鋭かったからではない。1万回試したからである。誕生日のパラドックスも、コイン投げも同じだ。外れたのは直感で、外れなかったのは手続きのほうだった。
この授業は、直感を責めるためにあるのではない。直感が届かないところまで届く道具を、自分の手に持つためにある。この14回が終わるとき、あなたは「なんとなくそう思う」の代わりに「こう確かめた」と言えるようになる。群れず、データに基づき、自分で決める ―― 第14回でここに戻ってくる。
4. 評価とルール¶
- 評価は 毎回のMoodle課題(100%)。各回100点(自動採点40 + 記述60)。
- 記述は「考え方」を見る。正解の暗記ではなく、なぜそう判断したかを書く。
- 課題には AIによる自動フィードバックが付く。提出後に講評が返る。
今日の課題(Moodle提出)¶
配点:100点(自動採点40点 + 記述60点)/ 提出先:Moodle
第1回のColabノート 01_intro.ipynb を上から実行し、結果を見たうえで答えること。
パートA:選択問題(自動採点・各10点 ×4=40点)¶
A1. モンティ・ホール問題で、当たりの確率を高くする行動はどちら? - (ア) 最初の選択を変えない - (イ) 別のドアに変える - (ウ) どちらでも同じ(50:50)
A2. 「変える」を選んだときの当たり率に最も近いのは? - (ア) 約33% (イ) 約50% (ウ) 約67% (エ) 約90%
A3. 23人いるとき、誕生日が同じペアがいる確率に最も近いのは? - (ア) 約6% (イ) 約23% (ウ) 約51% (エ) 約90%
A4. コイン投げのシミュレーションから言えることとして、最も適切なのは? - (ア) 投げる回数が少なくても表の割合は0.5に近い - (イ) 投げる回数が増えるほど表の割合は0.5に近づくが、少数のうちは大きく偏る - (ウ) 3回続けて表が出たら、次は裏が出やすくなる
パートB:記述問題(AIフィードバック対象・60点)¶
【全記述に共通・重要】自分のノートの数字を引用すること
各記述には、今日のColabであなたが実際に出力した数値またはグラフを最低1つ引用すること(例:「変える勝率は67%だった」「23人で約51%だった」)。 引用がない記述は、内容が良くても満点にはなりません。 これは、AIに書かせた一般論ではなく、自分で手を動かした答えを評価するためです。
B1.(30点) 今日の3つのクイズのうち1つを選び、「自分の直感はどう答え、データはどう答えたか」「なぜ直感は外れたのか」を、4〜6文で説明しなさい。 (ヒント:直感が「同じ向きに」間違える、とはどういうことか。あなたのノートが出した具体的な数値を必ず引用すること)
B2.(30点) あなた自身の生活の中で、「直感や経験で判断したら、あとで間違いだと分かった」経験を1つ挙げ、次の2点を書きなさい。
- そのとき直感は何と言い、実際はどうだったか
- もし事前に「データ」があれば、判断はどう変わっていたと思うか
文字数の目安:B1・B2あわせて 300〜500字。コピペ・引き写しは評価しない。自分の言葉で書くこと。
次回予告
第2回「代表値の性質と、その嘘」。「平均◯◯」という言葉がいかに人を騙すか。世界中の霊長類376種の実データで確かめる。