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第07回 推定:点推定と区間推定

11/17(火)Ⅱ講 10:35〜12:15・B402教室

「信頼区間95%」の、本当の意味 ―― ほとんどの人が誤解している


考え方をガイドで確かめる

この回の考え方は、統計の考え方ガイドの「推定と信頼区間」でも解説しています。霊長類のデータを動かしながら確かめられます。

この回のゴール

  • 点推定と区間推定の違いを説明できる
  • 95%信頼区間 \( \bar{x} \pm 1.96 \times SE \) を計算できる
  • 「95%」の正しい意味(手続きの当たり率)を理解し、よくある誤解を正せる
  • 発展:\( \mathbb{E}[\bar{X}]=\mu \)、\( \mathrm{Var}[\bar{X}]=\sigma^2/n \)、信頼区間の式を、自分で導ける

到達目標との対応:G2(統計的概念の正しい理解)。


0. まず自分の答えを書いてみよう

「95%信頼区間」とはどういう意味だと思いますか?

多くの人はこう答える:「真の値が、95%の確率でこの区間の中にある」。

――この答え、実は誤りだ。なぜかを、シミュレーションで確かめる。


1. 点推定 ―― 1つの値で当てる

標本平均を母平均の推定値として使うのが点推定。だが標本ごとに値は揺れ、母平均(この母集団では 5,881 g)にぴったりは当たらない。

標本 点推定(標本平均) 母平均 5,881 g とのズレ
1 4,365 g −1,516
2 12,809 g +6,928
3 10,642 g +4,761
4 5,153 g −728
5 4,473 g −1,408

点推定は「当たり」を言い切るが、必ず少しズレる。だから「どれくらい外れうるか」=幅が欲しくなる。


2. 区間推定 ―― 幅を持たせる

標本平均の散らばりは標準誤差 SE(第6回)。この母集団では \( \sigma = 13{,}110 \) g、\( n=30 \) なので \( SE = \sigma/\sqrt{n} = 2{,}394 \) g。正規分布では95%が平均±1.96SDに入るので:

\[ 95\%\text{信頼区間} = \bar{x} \pm 1.96 \times SE \]
導出①:なぜ標本平均は母平均に当たるのか(不偏性)

標本 \( X_1,\dots,X_n \) を母集団から独立に同じ分布で選ぶ。各 \( X_i \) について \( \mathbb{E}[X_i]=\mu \)。

期待値は和と定数倍について線形(\( \mathbb{E}[aX+bY]=a\mathbb{E}[X]+b\mathbb{E}[Y]\))なので、

\[ \mathbb{E}[\bar{X}] \;=\; \mathbb{E}\!\left[\frac{1}{n}\sum_{i=1}^{n} X_i\right] \;=\; \frac{1}{n}\sum_{i=1}^{n} \mathbb{E}[X_i] \;=\; \frac{1}{n}\cdot n\mu \;=\; \mu \]

標本平均は、平均すれば母平均に一致する。これを不偏という。1回ごとには当たらないが、当て方が偏ってはいない。

数値で確かめる:この母集団から n=30 を20万回選ぶと、標本平均の平均は 5,871 g(母平均 5,881 g)。

使った数学:期待値の線形性(微I)。分布の形は一切使っていない。歪んだ母集団でも成り立つ。

導出②:標準誤差 \( SE=\sigma/\sqrt{n} \) はどこから来るか

この結果は第6回で導いた。要点を再掲する。分散は、独立な確率変数の和について加法的(\( \mathrm{Var}[X+Y]=\mathrm{Var}[X]+\mathrm{Var}[Y]\))で、定数倍は二乗で効く(\( \mathrm{Var}[aX]=a^2\mathrm{Var}[X]\))。各 \( X_i \) の分散を \( \sigma^2 \) とすると、

\[ \mathrm{Var}[\bar{X}] \;=\; \mathrm{Var}\!\left[\frac{1}{n}\sum_{i=1}^{n} X_i\right] \;=\; \frac{1}{n^2}\sum_{i=1}^{n}\mathrm{Var}[X_i] \;=\; \frac{1}{n^2}\cdot n\sigma^2 \;=\; \frac{\sigma^2}{n} \]

平方根を取ると \( \mathrm{SD}[\bar{X}] = \sigma/\sqrt{n} \)。これが標準誤差である。

ここから「n を4倍にすると SE は半分」が出る。\( \sqrt{4}=2 \) だからで、経験則ではなく式の帰結である。

数値で確かめる:n=30、20万回で \( \mathrm{Var}[\bar{X}] \) の実測は 5,668,503、理論値 \( \sigma^2/n \) は 5,728,867(比 0.99)。

この式は『独立』を使っている

加法性が成り立つのは、\( X_i \) が互いに独立(または無相関)のときだけ。取り方が偏ったり、互いに影響し合ったりすると、この式は成り立たない(統計学Ⅱ 第6回)。

また、同じ個体を二度選ばない取り方(非復元抽出)では、母集団が有限なぶん実際のばらつきは小さくなる。

\[ \mathrm{Var}[\bar{X}] = \frac{\sigma^2}{n}\cdot\frac{N-n}{N-1} \]

この母集団(N=265, n=30)では \( (N-n)/(N-1)=0.890 \)、標準偏差で 0.944 倍。今日のColabは母集団から戻しながら選ぶ(復元抽出)ので、修正なしの \( \sigma/\sqrt{n} \) をそのまま使っている。

使った数学:分散の加法性と定数倍(微I)。総和の記号操作(線I)。

例:ある標本で \( \bar{x}=5{,}184 \) g なら、半幅は \( 1.96 \times 2{,}394 = 4{,}691 \) g。95%信頼区間は [493, 9,875]。この区間は母平均 5,881 g を含んでいる。


3. では「95%」とは何の確率か? ―― ここが核心

「真の母平均が、95%の確率でこの区間に入る」と思いがち。だが――

母平均は『動かない』

母平均 μ は固定された定数(5,881 g で不動)。区間 [493, 9,875] も計算すれば固定。 固定した値が固定した区間に「95%の確率で入る」は意味をなさない。 入っているか・いないか、どちらかでしかない。

ではランダムなのは何か。『区間のほう』だ。標本を取り直すたびに区間は動く。

その手続きを何度も繰り返すと、作った区間の約95%が母平均を含む。

これが95%の正体だ。

シミュレーション:100本の信頼区間

母平均を固定し、標本を取って95%信頼区間を作る、を100回くりかえす:

  • 100本中およそ95本が母平均(固定)を含んだ
  • 残り約5本は外した

「95%」とは、この区間作りを繰り返したときの当たり率であって、「いま手元の1本に真値が95%で入っている」ではない。手元の1本は、当たっているか外しているかのどちらか(どちらかは分からない)。

導出③:信頼区間の式は、不等式を μ について解いたもの

中心極限定理(第6回)より、n が十分大きければ \( \bar{X} \) はおよそ正規分布に従う。標準化すると

\[ Z \;=\; \frac{\bar{X}-\mu}{\sigma/\sqrt{n}} \;\approx\; N(0,1) \]

標準正規分布では、中央の95%が \( \pm 1.96 \) の中に入る。つまり

\[ \Pr\!\left(-1.96 \le \frac{\bar{X}-\mu}{\sigma/\sqrt{n}} \le 1.96\right) = 0.95 \]

この不等式を μ について解く(各辺に \( \sigma/\sqrt{n} \) を掛け、\( \bar{X} \) を移項して符号を整える)と、

\[ \Pr\!\left(\bar{X} - 1.96\frac{\sigma}{\sqrt{n}} \;\le\; \mu \;\le\; \bar{X} + 1.96\frac{\sigma}{\sqrt{n}}\right) = 0.95 \]

左辺の中で動いているのは \( \bar{X} \)、つまり区間の両端である。μ は動かない。だから「95%」は、この手続きを繰り返したときに区間が μ を捕まえる割合になる。上の節で言葉にしたことが、式の上でも同じ形で現れている。

標本を1つ取って \( \bar{x} \) が決まった瞬間、区間は数値として確定し、μ を含むか含まないかのどちらかになる。確率が残っているのは、区間を作る前の話である。

σ が分からないときは t 分布

実際には母標準偏差 σ は未知で、標本から \( s \) を計算して代わりに使う。すると分母もランダムになり、分布は正規分布より裾が重い t 分布(自由度 n−1)になる。1.96 の代わりに t の値を使う。詳しくは第8回と、統計学Ⅱ 第7回で扱う。

使った数学:不等式の同値変形(微I)、標準化(線I的なスケール変換)。


4. 信頼度と幅のトレードオフ

「もっと確実に当てたい」なら信頼度を上げる。すると区間は広がる。

信頼度 半幅(×SE) 値(n=30・SE=2,394 g)
90% 1.645 × SE 約 3,937 g
95% 1.96 × SE 約 4,691 g
99% 2.576 × SE 約 6,166 g

確実にしたい(99%)ほど区間は広く=ぼんやりする。極端に「100%確実」にすれば幅は無限大(「体重は0〜∞ g」)=何も言っていないのと同じ。確実さと精密さは両立しない。


まとめ

概念 ひとこと
点推定 標本平均1つで母平均を当てる。必ず少しズレる
区間推定 \( \bar{x} \pm 1.96 \times SE \) で「だいたいこの範囲」
95%の意味 手続きを繰り返すと約95%の区間が真値を含む(当たり率)
よくある誤り 「真値が95%でこの区間に入る」「μが確率的に動く」
信頼度と幅 確実にするほど区間は広がる(トレードオフ)

母平均は固定。ランダムなのは区間のほう。 「95%」は、この区間作りを100回やれば約95回当たる、という手続きの当たり率。 「95%」を「この区間に真値がある確率」と読みたくなるのは、確率が動く先を取り違えているからだ。第1回のモンティ・ホールで確率が移動することを見落としたのと、同じ種類の間違いである。


今日の課題(Moodle提出)

配点:100点(選択40点 + 記述60点)/ 提出先:Moodle / 提出期限:次回授業の開始時刻まで

Colab 07_estimation.ipynb を実行したうえで答えること。


パートA:選択問題(各10点 ×4=40点)

A1. 「95%信頼区間」の意味として最も正しいのは?

  • (ア) 真の母平均が、95%の確率でこの1本の区間の中にある
  • (イ) 同じ手続きで区間作りを繰り返すと、作った区間の約95%が母平均を含む
  • (ウ) 標本の95%がこの区間の中にある

A2. シミュレーションで95%信頼区間を100本作ったとき、母平均を含んだのはおよそ何本か。

  • (ア) 50本 (イ) 68本 (ウ) 95本 (エ) 100本

A3. 母平均 μ について正しいのは?

  • (ア) μ は標本ごとに確率的に動く
  • (イ) μ は固定された定数で、動くのは標本ごとに作られる区間のほう
  • (ウ) μ は95%の確率でしか存在しない

A4. 信頼度を 95% → 99% に上げると、信頼区間の幅は?

  • (ア) 狭くなる (イ) 広くなる (ウ) 変わらない

パートB:記述問題(AIフィードバック対象・60点)

【全記述に共通・重要】自分の出力を引用すること

記述には、今日のColabであなたのノートが出した数値を最低1つ引用すること。ここには値を書かない。自分の画面に出た値を使うこと。 引ける量の例:「100本の区間のうち母平均を含んだ本数」「95%信頼区間の半幅」「90%・95%・99%で比べた区間の幅」。 引用がない記述は満点になりません。

B1.(30点) 次の説明文は、よくある誤りを含んでいる。どこが誤りかを指摘し、正しい説明に書き直しなさい。

「95%信頼区間 [493, 9,875] が得られた。これは、真の母平均がこの区間の中にある確率が95%だということを意味する。」

(ヒント:母平均は固定か、確率的に動くか。ランダムなのは何か。シミュレーションの結果をふまえて)

B2.(30点) 「もっと確実に当てたいなら、信頼度を99%にすればいい」。これは一理あるが、何と引き換えになるのか。さらに、もし「100%確実な区間」を作ろうとすると何が起きるか。信頼度と区間の幅の関係を説明しなさい。

目安:B1・B2あわせて350〜550字。自分の言葉で書くこと。

字数は目安です。多少の過不足で減点はしません。見るのは、設問が挙げた要素(上の箇条書き)が書けているかどうかです。ただし要素が抜けていれば、その分は引きます。

次回予告

第8回「仮説検定(1):帰無仮説とt検定」。「差がある」とはどういうことか。そしてp値の、これまた誤解されがちな意味へ。