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第06回 確率分布と標本/中心極限定理

11/10(火)Ⅱ講 10:35〜12:15・B402教室

なぜ「一部」から「全体」を語れるのか ―― 推測統計のはじまり


一言でいうと

でたらめに選んだ一部の平均は、全体の平均のまわりに、決まった形で散らばる。だから一部を調べるだけで、全体を「どれくらいの誤差で」言えるかまでわかる。 ただし、その「でたらめに選ぶ」が崩れると、数をいくら増やしても直らない。

考え方をガイドで確かめる

この回の考え方は、統計の考え方ガイドの「標本から全体を知る」でも解説しています。霊長類のデータを動かしながら確かめられます。

この回のゴール

  • 母集団と標本の違いを説明できる
  • 中心極限定理(CLT):母集団がどんな形でも、標本平均の分布は正規分布に近づくことを体感する
  • 標準誤差 \( SE = \sigma/\sqrt{n} \) を理解し、「数の多さは偏りを直さない」ことを知る
  • 発展:\( \mathbb{E}[\bar{X}]=\mu \) と \( \mathrm{Var}[\bar{X}]=\sigma^2/n \) から \( SE=\sigma/\sqrt{n} \) を、自分で導ける

到達目標との対応:G1(記述統計から推測統計への橋)。


前回の補足 ―― 交絡と「媒介」は違う

先に、言葉の定義

  • 交絡(confounding):\( X \) と \( Y \) の両方を動かす第三の変数 \( Z \) があり、そのせいで \( X \) と \( Y \) に相関が出ること。\( X \) から \( Y \) への矢印はない。
  • 媒介(mediation):\( X \) が \( Y \) を引き起こすとき、その作用が途中の変数 \( M \) を経由していること。この \( M \) を媒介変数という。\( X \) から \( Y \) への因果はある。
  • 介入:\( X \) の値を、外から変えてみること(「もし雨を止められたら」)。相関を眺めるだけでなく、変えたら何が起きるかを問う見方である。
  • 統制する:第三の変数の影響を差し引いて見ること(第5回でやった偏相関がこれ)。

第5回では、相関を因果と読んではいけない理由を3つ挙げた(交絡・逆因果・偶然)。 説明が足りなかったものが1つある。媒介(mediation) である。これは3つの仲間ではなく、むしろ逆のものだ。

媒介は「因果ではないもの」ではない。因果の一種である

矢印で書くと、違いは一目で分かる。

  • 交絡: \(X \longleftarrow Z \longrightarrow Y\) ―― \(X\) と \(Y\) のあいだに矢印がない → \(X\) は \(Y\) の原因ではない
  • 媒介: \(X \longrightarrow M \longrightarrow Y\) ―― 矢印でつながっている → \(X\) は \(Y\) の原因である

媒介変数 \(M\) は、因果の経路の途中にいる。経路の上にあるものを挟んでいるだけなので、\(X\) から \(Y\) への道は切れていない。

そしてほとんどの因果は、何かを媒介する。 運動 → 体重が減る → 血圧が下がる。教育 → 収入が上がる → 健康になる。朝食 → 血糖が安定する → 集中力が上がる → 成績。 もし「媒介だから因果ではない」としてしまうと、世の中から因果がほぼ全部消えてしまう。 だからこの読み方は採れない。

交絡と媒介のちがい交絡では第三の変数が両方を動かし、XとYのあいだに矢印がない。媒介では矢印が経路としてつながっているので、XはYの原因である。交絡 ―― 矢印がない = 因果ではない雨第三の変数傘の売上飲食店の売上見かけの相関矢印はない傘を売るのをやめても、飲食店の売上は戻らない。両方を動かしているのは雨である。統制すると → 相関が消える/介入しても → 動かない媒介 ―― 矢印でつながる = 因果である雨外出が減る来店が減る売上が下がる媒介媒介雨から売上まで、矢印が途切れずにつながっている。雨をやめさせられたら、売上は戻る = 雨は本当に原因。統制すると → 相関が消える/介入すると → 動く

同じ場面で、2つを並べてみる。

例 構造
交絡 傘がよく売れる日は、飲食店の売上が低い 傘の売上 ← 雨 → 売上の低下
媒介 雨が降ると、飲食店の売上が下がる 雨 → 外出が減る → 来店が減る → 売上が下がる

傘を売るのをやめても、飲食店の売上は戻らない。犯人は雨である。 一方、雨をやめさせられたら、売上は戻る。雨は本当に売上を下げている。

同じ「雨」の場面なのに、傘と売上は見かけの相関、雨と売上は本物の因果である。

見分ける道具は「介入したらどうなるか」

交絡 媒介
第三の変数を統制すると 相関が消える 相関が消える
\(X\) に介入すると \(Y\) は 動かない 動く

アイスの販売を禁止しても、水難事故は減らない(交絡)。雨が止めば、売上は戻る(媒介)。

なお「直接の因果はない」というのは、媒介では正しい。だがそれは因果を否定しない。 \(X\) が \(Y\) に与える効果は「直接の効果 + 媒介を通る効果」で、媒介を通るぶんも立派な因果効果である。 直接の効果がゼロでも、合計の効果はゼロにならない。

統計だけでは、交絡と媒介は区別できない

上の表の1行目をよく見てほしい。「統制したら相関が消えた」は、交絡でも媒介でも同じように起こる。 だから「統制したら消えたので因果ではない」という推論は、それだけでは成り立たない。

区別するのは数字ではなく、時間順序と仕組みである。 \(X\) より前にあるものが交絡、\(X\) の後に来るものが媒介だ。

第5回の体重の例は、どちらだったのか

第5回では、離乳日齢と行動圏の相関 \( r=0.657 \) が、体重を統制すると \( 0.051 \) に消えた。 これを「離乳の効果は消えた」と読んだ。その読みが成り立つのは、体重が交絡だからである。

  • 体の大きさが先にあり、それが「離乳が遅いこと」と「行動圏が広いこと」を両方決めているなら → 交絡。離乳そのものに効果はない
  • 離乳が先にあり、「離乳が遅い → 体が大きくなる → 行動圏が広い」なら → 媒介。離乳には(体の大きさを通じた)効果がある

数字はどちらでも \( 0.051 \) になる。 種どうしを比べるとき、体サイズは離乳のペースも行動圏も寿命も決める、より根本的な変数である。だから交絡と読んだ ―― この判断は、相関係数の外側から持ち込んでいる。

持ち帰ってほしいこと

「統制したら相関が消えた」は、それだけでは何も決めない。 決めるのは、どちらが先に来るかという知識のほうである。

第5回の課題の採点について

第5回B2は「身のまわりの例を1つ挙げ、それを因果と読むのが危うい理由を交絡・逆因果・偶然のどれかで説明する」という設問だった。 だが、挙げた例が実は本物の因果(媒介)だった場合、この3つの中に正しい箱がない。これは設問の側の不備である。

そのため、媒介の例を交絡と呼んだ答案は、仕組みがきちんと書けていれば減点を抑えて採点する。 次に同じ設問を出すときは、「自分の例が本当に因果だった場合は、相関≠因果の例になっていない」と課題文に書く。


1. フック:なぜ一部で全体が分かる?

  • 視聴率は、全国数千万世帯のうちたった数百世帯を調べて出している。
  • 味噌汁の味見は、鍋全体を飲まなくてもひと匙で分かる。

なぜ一部で全体を語れるのか。その数学的な裏づけが 中心極限定理 だ。


2. 母集団と標本

  • 母集団(population):本当に知りたい全体
  • 標本(sample):実際に調べる一部

今日の母集団は「体重の記録がある霊長類265種」。

母集団 値
母集団の大きさ N 265 種
母平均 μ 5,881 g
母標準偏差 σ 13,110 g
歪度 +7.60(右に強く歪む=正規ではない)

歪度7.60 は極端である

一般に「歪んでいる」と言われるデータの歪度は1〜2程度。この母集団で中心極限定理が本当に効くのかが、今日の見どころになる。


3. 標本平均は、母平均の周りに散らばる

母集団から n=30 種を無作為に選んで平均を取ると、母平均(5,881g)に近いがぴったりではない値が出る。数十gの種と数万gの種が混ざっているので、大型種が1種でも多く入れば標本平均は跳ね上がる。1回では運に左右される。

そこで n=30 の標本取り→平均を2000回くりかえすと、標本平均たちはどう散らばるか?

  • 標本平均の平均 ≈ 5,850 g(母平均5,881とほぼ一致)
  • 標本平均のばらつき(SD)≈ 2,300 g
  • 標本平均の分布の歪度 ≈ 1.3(母集団の7.60から大きく下がった=正規に近づいた)

中心極限定理(CLT)

母集団がどんな形(歪んでいても)でも、標本平均をたくさん集めると、その分布は正規分布に近づく。 だから「一部」から「全体の平均」を語れる。

ただし、まだ正規分布ではない

よく「n が30あれば正規分布とみなしてよい」と言われる。だが歪度1.3は、決して0ではない。分布は右にまだ裾を引いている。

「n=30ルール」は、母集団がそこそこ対称なときの目安にすぎない。この母集団のように極端に歪んでいると、30では足りない。


4. 標本サイズ n を増やすと「締まる」

n を 5・30・100・500 と変えて標本平均の分布を比べると、2つのことが同時に起きる。

① ばらつきが小さくなる(締まる) ―― そのばらつきが 標準誤差(Standard Error, SE):

\[ SE = \frac{\sigma}{\sqrt{n}} \]

② 形が正規分布に近づく(ただし、ゆっくり)

n SE の理論値 \( \sigma/\sqrt{n} \) 実測SD 歪度
母集団 ― 13,110 7.60
5 5,863 5,674 3.62
30 2,394 2,430 1.49
100 1,311 1,333 0.79
500 586 581 0.30

n を 4倍にすると SE は 半分。だから「精度を2倍にするには4倍のデータが要る」。データを増やす効果は、増やすほど鈍くなる。

導出①:\( SE=\sigma/\sqrt{n} \) はどこから来るか

標本 \( X_1,\dots,X_n \) を母集団から独立に同じ分布で選ぶ。各 \( X_i \) について \( \mathbb{E}[X_i]=\mu \)、\( \mathrm{Var}[X_i]=\sigma^2 \)。

まず、当て方が偏っていないこと。期待値は和と定数倍について線形(\( \mathbb{E}[aX+bY]=a\mathbb{E}[X]+b\mathbb{E}[Y]\))なので、

\[ \mathbb{E}[\bar{X}] \;=\; \mathbb{E}\!\left[\frac{1}{n}\sum_{i=1}^{n} X_i\right] \;=\; \frac{1}{n}\sum_{i=1}^{n}\mathbb{E}[X_i] \;=\; \frac{1}{n}\cdot n\mu \;=\; \mu \]

§3で見た「標本平均の平均が母平均とほぼ一致する」は、この式の実測である。

次に、ばらつき。分散は独立な確率変数の和について加法的(\( \mathrm{Var}[X+Y]=\mathrm{Var}[X]+\mathrm{Var}[Y]\))で、定数倍は二乗で効く(\( \mathrm{Var}[aX]=a^2\mathrm{Var}[X]\))。したがって、

\[ \mathrm{Var}[\bar{X}] \;=\; \mathrm{Var}\!\left[\frac{1}{n}\sum_{i=1}^{n} X_i\right] \;=\; \frac{1}{n^2}\sum_{i=1}^{n}\mathrm{Var}[X_i] \;=\; \frac{1}{n^2}\cdot n\sigma^2 \;=\; \frac{\sigma^2}{n} \]

平方根を取ると \( \mathrm{SD}[\bar{X}] = \sigma/\sqrt{n} \)。これが標準誤差である。

すぐ上の「n を4倍にすると SE は半分」は、ここから出る。\( \sqrt{4}=2 \) だからで、経験則ではなく式の帰結である。上の表の SE の理論値が 5,863 → 2,394 → 1,311 → 586 と動くのも、すべてこの式に n を入れた値だ。

数値で確かめる:この母集団から n=30 を20万回選ぶと、標本平均の平均は 5,879 g(母平均 5,881 g)、標本平均の分散の実測は 5,703,853 で、理論値 \( \sigma^2/n = 5{,}728{,}867 \) の 0.996 倍。

この式は『独立』を使っている

分散の加法性が成り立つのは、\( X_i \) が互いに独立(または無相関)のときだけ。§6で扱う「みんなが空気を読んで答えがそろう」状況では独立性が壊れ、この式は成り立たない。

なお、期待値のほうは独立を使っていない。当て方が偏らないこと(\( \mathbb{E}[\bar{X}]=\mu \))は独立でなくても成り立つが、ばらつきの式(\( \sigma^2/n \))は独立に頼っている。前提が崩れたとき先に狂うのは、当て方ではなく精度の見積もりのほうである。

使った数学:期待値の線形性、分散の加法性と定数倍(微I)。総和の記号操作(線I)。

そして注目すべきは、右の2列の進み方の違いである。ばらつきは 1/√n できれいに縮むのに、歪みはなかなか取れない。n=500 でもまだ0.3残っている。

CLTが言っていること・言っていないこと

CLTは「いつかは正規になる」と言っているだけで、「n=30で正規になる」とは言っていない。 必要な n は、母集団がどれだけ歪んでいるかで決まる。

尺度を選ぶと、必要な n が変わる

第3回で、体重は対数にすると左右対称に近づいた(歪度 7.60 → −0.40)。対数の体重を母集団にすると:

n 歪度(対数スケール) 歪度(生スケール)
5 −0.20 3.54
30 0.03 1.38

対数にすると、n=5 の時点でもう十分に対称。生のスケールで n=500 かけても届かなかった水準である。

同じデータ、同じ標本サイズ。違うのは尺度だけ。どの尺度で分析するかは、必要なデータ量を左右する実務的な判断でもある。

(ただし注意:対数の平均を戻しても元の平均にはならない。対数で分析すると「幾何平均」の話になる。何を推定したいのかで選ぶこと。)

導出②:中心極限定理は、何を仮定して何を主張しているか

標本平均 \( \bar{X} \) から、その平均 \( \mu \) を引き、その標準偏差 \( \sigma/\sqrt{n} \) で割る。これを標準化という。

\[ Z \;=\; \frac{\bar{X}-\mu}{\sigma/\sqrt{n}} \]

導出①の結果を入れるだけで、この Z の平均と分散が出る。期待値の線形性から、

\[ \mathbb{E}[Z] \;=\; \frac{\mathbb{E}[\bar{X}]-\mu}{\sigma/\sqrt{n}} \;=\; \frac{\mu-\mu}{\sigma/\sqrt{n}} \;=\; 0 \]

定数倍が二乗で効くことから、

\[ \mathrm{Var}[Z] \;=\; \frac{\mathrm{Var}[\bar{X}]}{\sigma^2/n} \;=\; \frac{\sigma^2/n}{\sigma^2/n} \;=\; 1 \]

n がいくつであっても、Z の平均は0、分散は1である。ここまで分布の形は一切使っていない。

そのうえで、中心極限定理が主張しているのは次のことである。

  • 仮定:\( X_i \) が互いに独立に同じ分布から選ばれ、その分散が有限であること。母集団の形は問わない。
  • 主張:n を大きくしていくと、この Z の分布が標準正規分布 \( N(0,1) \) に近づく。
  • 言っていないこと:「n がいくつ以上なら正規分布になる」とは言っていない。どのくらいの n で足りるかは、母集団がどれだけ歪んでいるかで決まる。

平均0・分散1は n によらず成り立つのに、形が正規に近づくのは n を増やしたときだけ。上の表で、ばらつきが \( 1/\sqrt{n} \) できれいに縮むのに歪度が 7.60 → 1.49 → 0.30 とゆっくりしか下がらないのは、この2つが別のことだからである。この区別が、「n=30ルール」を鵜呑みにしないための鍵になる。

定理そのものの証明は、この科目では扱わない

中心極限定理の証明には特性関数(積率母関数)が必要で、これはこの授業で扱う統計数理の範囲外である。ここで示したのは「何が仮定で何が結論か」という定理の読み方であって、定理の証明ではない。

第7回では、この Z が正規分布に近いことを使って、母平均を挟む区間(信頼区間)を作る。

使った数学:期待値の線形性と分散の定数倍(微I)、標準化というスケール変換(線I)。


5. 大事な区別:「標本そのもの」≠「標本平均の分布」

よくある誤解

「標本を取ると正規分布になる」――ちがう。 正規に近づくのは 標本平均の分布であって、標本そのものは母集団と同じ形(歪んだまま)。

  • 標本そのもの(1000回抽出)→ 母集団どおり歪んだ形
  • 標本平均(n=30)の分布 → 正規に近い釣鐘型

混同すると「うちのデータは正規分布だ」と誤って正規前提の手法を使ってしまう。


6. ただし「無作為抽出」が大前提

CLTが効くのは、標本が母集団から偏りなく・独立に選ばれているとき。

  • 「声の大きい人」「答えやすい人」ばかり選べば、いくら数を増やしても偏ったまま。これは標本数の問題ではなく、抽出の偏りの問題。
  • みんなが互いに影響し合って答えをそろえる(=空気を読む)と、標本の独立性が壊れ、推測の前提が崩れる。

数の多さは、偏りを直さない

偏った集め方をしたデータは、何万件あっても母集団を正しく代表しない。 「たくさん集めた」は「正しく集めた」ではない。

今日の「母集団」自体が、実は偏った標本である

ここまで265種を母集団として扱ってきた。しかし この265種は「体重が測られた種」でしかない。霊長類376種のうち、体重の記録があるのは70%。残り111種は測られていない。

そして測られている種には偏りがある。よく研究されてきた科は埋まり、研究者が少ない・観察が難しい科は空欄が多い。

つまり「霊長類の平均体重 5,881g」は、厳密には 「よく研究されてきた霊長類の平均体重」 である。

データの形は、世界の形であると同時に、研究の歴史の形でもある。 どんなに立派な統計手法を使っても、何が測られなかったかは数字の中に現れない。 それに気づけるのは、対象を知っている人間だけである。


よくある誤解

「標本をたくさん取れば、標本そのものが正規分布になる」

正規分布に近づくのは、標本平均を何度も集めた分布のほうである。1回の標本の中身は、母集団と同じく右に歪んだまま(§5)。混同すると、自分のデータに正規分布を前提にした手法を当てはめてしまう。

「n が30あれば、正規分布とみなしてよい」

霊長類の体重(歪度 7.60)では、n=30 の標本平均の分布にまだ歪度 1.49 が残った(§4の表)。30は母集団がそこそこ対称なときの目安で、必要な n は母集団の歪み方で決まる。対数にすれば n=5 で十分だった。

「数を集めれば、偏りも消える」

消えない。偏った選び方をすれば、何回くり返しても、n をいくら増やしても、標本平均は母平均からずれたままになる(§6)。今日の「母集団」265種も、376種のうち体重が測られた種だけである。

「みんなが同じ答えなら、それだけ確かだ」

中心極限定理も \( SE=\sigma/\sqrt{n} \) も、一つひとつの標本が独立に選ばれていることを前提にしている。互いに影響し合って答えをそろえた集団では、人数を増やしても、ばらつきはある所で下げ止まり、精度はほとんど上がらない(→ 統計学Ⅱ 第6回)。

まとめ

概念 ひとこと
母集団 / 標本 知りたい全体 / 実際に調べる一部
中心極限定理(CLT) 母集団がどんな形でも、標本平均の分布は正規に近づく
n=30ルールの限界 母集団が強く歪んでいると30では足りない(歪度7.6→n=30でまだ1.5)
標準誤差 \( SE=\sigma/\sqrt{n} \) 標本平均のばらつき。n を増やすと小さくなる
標本 ≠ 標本平均 正規に近づくのは「標本平均の分布」。標本そのものは母集団の形のまま
無作為抽出 CLTの大前提。偏った抽出は数を増やしても直らない

一部から全体を語れるのは、標本平均がCLTにより正規分布に近づくから。 ただし「無作為に集めた」ことが大前提 ―― 数の多さは偏りを直さない。

教科書に書いてある目安(n=30)を、自分のデータで確かめた。そして通用しなかった。 目安は目安であって、法則ではない。確かめる手段を、あなたはもう持っている。


今日の課題(Moodle提出)

配点:100点(選択40点 + 記述60点)/ 提出先:Moodle / 提出期限:次回授業の開始時刻まで

Colab 06_sampling_clt.ipynb を実行したうえで答えること。


パートA:選択問題(各10点 ×4=40点)

A1. 中心極限定理(CLT)について正しいのは?

  • (ア) 標本を取ると、標本そのものが正規分布になる
  • (イ) 母集団がどんな形でも、標本平均の分布は正規分布に近づく
  • (ウ) 母集団が正規分布のときだけ、標本平均も正規分布になる

A2. 標本サイズ n を 5 → 30 → 100 と増やしたとき、標本平均の分布に起きたことは?

  • (ア) 母平均から遠ざかって広がった
  • (イ) 母平均の周りにギュッと締まった(ばらつきが小さくなった)
  • (ウ) 形も位置も変わらなかった

A3. 標準誤差は \( SE = \sigma/\sqrt{n} \)。標本サイズ n を 4倍にすると、SE はおよそ何倍になるか。

  • (ア) 4倍 (イ) 2倍 (ウ) 1/2倍 (エ) 1/4倍

A4. 「アンケートをとにかくたくさん集めれば、偏りは消えて正確になる」。この考えの問題点として最も適切なのは?

  • (ア) 正しい。数が多いほど必ず正確になる
  • (イ) 偏った集め方(例:答えやすい人ばかり)だと、数を増やしても偏りは直らない
  • (ウ) 数が多いと計算が大変になるだけ

パートB:記述問題(AIフィードバック対象・60点)

【全記述に共通・重要】自分の出力を引用すること

記述には、今日のColabであなたのノートが出した数値を最低1つ引用すること。ここには値を書かない。自分の画面に出た値を使うこと。 引ける量の例:「母集団の歪度と、n=30の標本平均の歪度」「n=30の標本平均のSDと、σ/√n の値」。 引用がない記述は満点になりません。

B1.(30点) 今日のシミュレーションで、標本サイズ n を 5・30・100 と増やした。標本平均の分布に何が起きたかを、「ばらつき(標準誤差)」と「分布の形(正規への近づき)」の2点に触れて説明しなさい。

B2.(30点) 「視聴率は、全国数千万世帯のうちたった数百世帯を調べて出している」。なぜそんな少数で全国の傾向を語れるのか、中心極限定理の言葉を使って説明しなさい。また、その推測が成り立つために絶対に必要な条件を1つ挙げなさい。

目安:B1・B2あわせて350〜550字。自分の言葉で書くこと。

字数は目安です。多少の過不足で減点はしません。見るのは、設問が挙げた要素(上の箇条書き)が書けているかどうかです。ただし要素が抜けていれば、その分は引きます。

次回予告

第7回「推定:点推定と区間推定」。この標準誤差を使って、母平均を1点ではなく区間で推定する。そして「信頼区間95%」の、誤解されがちな本当の意味へ。