第01回 ガイダンス:統計学Ⅰの復習と本講義の位置づけ¶
9/29(火)Ⅲ講 13:00〜14:40・B402教室
Ⅰ=直感の敗北。Ⅱ=集団の敗北。―― そして、それを数学で証明する
今日のリンク
- 📊 スライドを開く
- 📓 Colabノートを開く(01_review.ipynb)
- 🎬 解説動画を見る(7分半)
- 📝 課題を提出する(Moodle・第1回)
- 課題の本文はこのページの末尾にあります
解説動画について
このページの内容をもとに、7分半の解説動画を用意しました(Gemini Notebook で生成)。予習にも復習にも使えます。ページを読む前に見ても、読んだあとの確認に使っても構いません。
ただしAIが資料から自動生成したものなので、細かい言い回しや強調のしかたはこのページと完全には一致しません。正確な定義・数値・前提は、必ずこのページ本体で確認してください。
この回のゴール¶
- 統計学Ⅰの要点(代表値・ばらつき・相関)を高速で思い出す
- 統計学Ⅱの全体像 ―― 確率論で武装し、統計的「誤用」と「空気を読む」ことの害を見抜く ―― の地図を頭に入れる
- 今期を貫く一本の糸が 「独立性」 であることを知る
- (Ⅱから来た人は)Colab を起動して ▶ を押せるようになる
到達目標との対応:全体の地図 と G1(確率・ベイズ)の入口。
1. 統計学Ⅰは何を示したか¶
Ⅰの主張はひとつだった ―― 人間の直感は、速いが、系統的に間違える。モンティ・ホール、誕生日のパラドックス、平均年収の罠、相関と因果の取り違え。どれも「なんとなく」外れるのではなく、毎回おなじ向きに 外れた。それが認知バイアスだった。
Ⅱでも、まずこの感覚を取り戻すところから始める。今日のColabノートで、Ⅰの2つの教訓をⅠと同じ霊長類376種のデータで再確認する。見覚えのある数字が出てくるはずだ。
| Ⅰの教訓 | 今日の確認 |
|---|---|
| 平均は外れ値に弱い(代表値は主張) | 歪んだ体重で「平均5,881g > 中央値3,006g」を見る |
| 相関 ≠ 因果 | 対数変換した離乳日齢と行動圏の相関(r=0.657)が、対数体重で調整すると0.051まで小さくなるのを見る |
このデータの「1行」が何かを確認しておく
使うのは PanTHERIA という種単位のデータベースで、1行が1種である。したがって体重の平均・中央値は「世界中のサルを1頭ずつ数えた平均」ではなく、体重の値が得られている種を同じ重みで扱った要約である。個体数による重み付けはしていない。
また、全376種のうち実際に使える種数は分析ごとに違う(欠損があるため)。ノートは種数を出力するので、そこを見ること。
さらに、近縁な種は共通の祖先に由来して似る(系統的な非独立性)。今日は記述的な確認にとどめるが、ここから検定や因果の議論に進むなら、種を独立な反復として扱ってよいかを別途考える必要がある。
2. 統計学Ⅱは何を新しく問うのか¶
Ⅰが扱ったのは 一人の人間の直感 だった。Ⅱが扱うのは、その先 ―― 集団 と、推測を支える 確率論の数理 である。
シラバスの到達目標は4つ。
- 条件付き確率とベイズの定理を理解し、情報の更新プロセスを説明できる(第2〜3回)
- p値の限界と効果量の重要性を理解し、統計的誤用を批判的に検証できる(第8〜9回)
- 因果推論の基礎(交絡・疑似相関)を理解し、観察データからの安易な因果主張を見抜ける(第10〜11回)
- 独立性の概念を理解し、「空気を読む」ことが集団の判断精度を下げるメカニズムを説明できる(第12〜13回)
この4つを貫く設計を、地図にするとこうなる。
確率論で武装する 第2回 条件付き確率(独立性を定義)
│ 第3回 ベイズの定理(信念の更新)
│ 第4回 二項・ポアソン(独立試行)
│ 第5回 正規分布(独立な和の極限として現れる)
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推測の前提を問い直す 第6回 中心極限定理の再考(CLTの隠れた前提=独立)
│ 第7回 区間推定(依存を無視すると区間の幅を見誤る)
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誤用を見抜く 第8回 検定の多重性(p-hacking)
│ 第9回 効果量とp値批判
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因果に近づく 第10回 RCTと観察研究
│ 第11回 交絡と疑似相関
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集団の意思決定を解剖する 第12回 情報カスケード
│ 第13回 コンドルセの陪審定理(独立な多数決=集合知)
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統合 第14回 孤高の意思決定者として
3. 今期を貫く「独立性」という糸¶
統計学Ⅱのほとんどの回は、一本の概念で繋がっている ―― 独立性 だ。
- 第2回で 独立を定義する(\(P(A\cap B)=P(A)P(B)\)。\(P(B)>0\) なら \(P(A\mid B)=P(A)\) と同値)。
-
ただし「独立」が効いてくる場所は、回によって違う。ここは丁寧に分けておく。
対象 独立性との関係 二項分布(第4回) 独立で成功確率の等しい試行の成功回数として導くので、独立を仮定している 正規分布(第5回) 分布の形の話であって、独立性とは別。\(X_1=X_2=Z\sim N(0,1)\) は両方とも正規分布だが独立ではない 中心極限定理(第6回) 入門で扱う版は独立同分布+有限分散を仮定する。依存を許す版もある 平均・区間推定(第7回) 平均そのものは独立でなくても偏らない(\(E[\bar X]=\mu\))。問題はその精度をどう見積もるか つまり「独立でないとお手上げ」ではない。独立を仮定した計算を、依存のあるデータにそのまま当てると危ない、というのが正確な言い方である。 - そして第12〜13回で、その前提が 「空気を読む」ことによって壊れる 現場を目撃する。
このコースの立場(精神論ではない)
コンドルセの陪審定理(1785年)が言うのは、次の条件つきの命題である。正解のある二択問題で、各人が同じ確率 \(p > 1/2\) で正答し、その正誤が互いに独立なら、人数を増やすほど多数決の正答率は1に近づく。\(p>1/2\) という条件も独立性と同じくらい重要で、\(p<1/2\) なら人数を増やすほど逆に悪くなる。
では独立でなくなると何が起きるか。ここは依存の仕組みによる。「定理が崩れた瞬間に集団が全員そろって間違える」わけではない。
たとえば、正答率55%の一人の判断を残り全員がそのまま真似るモデルを考えてみよう。判断は完全に相関するが、多数決の正答率は \(0.55\) のままである。人数を増やす効果が消えるだけで、「必ず間違える」のではない(正解する確率55%、間違える確率45%)。依存があっても多数決の利点が残る条件も研究されている。
だからこの授業で問うのは「集団は愚かか」ではなく、どういう条件で集団判断が改善し、どういう条件で改善しなくなるのかである。第12〜13回で、依存の入れ方を変えながらモデルとシミュレーションで検討する。
4. 予告編:賢い集団は、本当に賢いのか¶
今日のColabの最後で、その予告編を一瞬だけ見る。
正解率がコインより少しだけ高い(55%)人を集めて多数決をする。独立に判断する限り、人数を増やすと多数決の正解率は急速に上がり、ほぼ100% に達する。これがコンドルセの陪審定理だ。
ただしこれは「\(p>1/2\) かつ独立」という条件の上に乗っている。人々が互いに合わせ始めると、人数を増やしても正答率が上がらなくなる。どういう依存の仕方でどれだけ効果が失われるのかを、第13回でモデルを変えながら確かめる。
なお、今日のノートで確かめるのは 201人までの独立判断のモデルである。「人数を無限に増やせば1に近づく」という極限の主張そのものを、有限回のシミュレーションが証明するわけではない。
今日のColab
01_review.ipynb を開き、上から ▶ を押すだけ。Ⅰの復習(代表値・相関)と、Ⅱの予告編(コンドルセ)を、自分の目で確認すること。
5. 評価とルール(統計学Ⅰと同じ)¶
このルールは、トップページの「評価と提出のルール」 にも書いてあります。学期中はそちらを見てください。
- 評価は 毎回のMoodle課題(100%)。各回100点(選択40 + 記述60)。
- 記述は「考え方」を見る。正解の暗記ではなく、なぜそう判断したかを書く。
- 課題には AIによる自動フィードバックが付く。提出後に講評が返る。
- Google Colab を使う。GoogleアカウントとノートPC(またはタブレット)を毎回持参すること。
- 提出期限は、次回授業の開始前まで。
提出が遅れた場合
期限を過ぎても受け付けます。ただし採点した点数に係数をかけます。
| 遅れ | 評点 |
|---|---|
| 期限から1週間以内 | 採点結果の 70% |
| 1週間を超える | 採点結果の 50% |
| 未提出 | 0点 |
出さないより出すほうが必ず得になるようにしてあります。遅れても必ず提出してください。 講評には「採点85点 × 70%(遅延1週間以内)= 60点」のように内訳を書きます。
今日の課題(Moodle提出)¶
配点:100点(選択40点 + 記述60点)/ 提出先:Moodle / 提出期限:次回授業の開始時刻まで
第1回のColabノート 01_review.ipynb を上から実行し、結果を見たうえで答えること。
(統計学Ⅰを受けていない人も、ノートを実行すれば全問答えられる。)
パートA:選択問題(各10点 ×4=40点)¶
A1. 今日のノートで見た霊長類の体重データでは、平均と中央値の関係はどうなっていた?
- (ア) 平均 < 中央値
- (イ) 平均 = 中央値
- (ウ) 平均 > 中央値
A2. 離乳日齢と行動圏の相関係数が r ≈ 0.66 だった。ここから言えることとして 最も適切 なのは?
- (ア) 乳離れを遅くすれば、必ず行動圏が広がる(因果が証明された)
- (イ) 正の相関はあるが、これだけでは「離乳の遅さが原因で行動圏が広がる」とは言い切れない
- (ウ) 相関係数が1未満なので、離乳日齢と行動圏は無関係である
A3. 正解率55%(コインより少しだけ賢い)の人を、それぞれが独立に判断させて多数決をとる。人数を増やすと多数決の正解率は?
- (ア) ずっと55%のまま変わらない
- (イ) 人数とともに上がり、ほぼ100%に近づく
- (ウ) 人数が増えるほど下がっていく
A4. A3のように「人数を増やすと多数決の正解率が上がっていく(コンドルセの陪審定理)」が成り立つために必要な前提は、次のどれか?
- (ア) 全員が同じ結論になるよう、事前に話し合って合わせること
- (イ) 一人ひとりの正解率がちょうど50%であること
- (ウ) 一人ひとりの正解率が 50%を上回り、かつ互いに 独立に 判断すること
パートB:記述問題(AIフィードバック対象・60点)¶
B1.(30点)
今日のノートの3つの話(代表値・相関と交絡・多数決)から1つ選び、次の2点を 150〜250字程度で書きなさい。
- 実行前のあなたの予想と、実際の結果。一致していても、していなくても構わない
- その結果になる仕組みと、答えを左右している前提
(統計学Ⅰを受けた人は、Ⅰで扱った内容と結びつけて書いてよい)
B2.(30点) 身近な「集団で何かを決めた・同じ方向に流れた」出来事を1つ挙げなさい(会議・流行・口コミ・SNSなど何でもよい)。その例について、コンドルセの定理が使える状況かどうかを、次の3条件に照らして検討しなさい。
- 判定できる正解があるか(好みや流行には、そもそも正解がない場合がある)
- 各人の正答確率が 1/2 を上回っていそうか
- 各人の判断が独立といえるか
3つのうち判断できない条件があれば、「何が分かれば判断できるか」を書くこと。条件が揃わない例を選んでも構いません。
文字数の目安:B1・B2あわせて 300〜500字。コピペ・引き写しは評価しない。自分の言葉で書くこと。
字数は目安です。多少の過不足で減点はしません。見るのは、設問が挙げた要素(上の箇条書き)が書けているかどうかです。ただし要素が抜けていれば、その分は引きます。 (B2で考えたことは、第12〜13回「情報カスケード/コンドルセの陪審定理」で数理的に回収する。)
次回予告
第2回「確率論の基礎(1):条件付き確率」。「子どもが2人、少なくとも1人は女の子。2人とも女の子の確率は?」 ―― 男女が各1/2で2人が独立、という仮定のもとでは 1/3 になる(女女・女男・男女が等確率だから)。
ただし「2人のうち無作為に選んだ1人が女の子だった」なら、もう1人も女の子である確率は 1/2 である。同じ「女の子がいる」でも、その情報をどう得たかで答えが変わる。ここが条件付き確率の勘所で、今期の主役 「独立性」 もここで定義する。