第07回 区間推定の理論¶
11/17(火)Ⅲ講 13:00〜14:40・B402教室
信頼区間はどう作られ、独立が崩れるとどう嘘になるか
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この回の考え方は、統計の考え方ガイドの「推定と信頼区間」でも解説しています。霊長類のデータを動かしながら確かめられます。
この回のゴール¶
- 信頼区間の作り方を理解する:\(\bar{x}\pm t_{0.975,n-1}\,s/\sqrt{n}\)
- 「95%」の本当の意味=カバレッジ(手続きの当たり率)を説明できる(Ⅰの復習)
- 区間の幅を決める3要素(標準誤差・信頼度・\(n\))を知る
- 求める精度から、必要な標本の大きさを見積もれる
- 独立が崩れると95%信頼区間が95%を守れないことを確かめる
- 発展:信頼区間の式が不等式を \(\mu\) について解いたものであること、独立が崩れると被覆率が落ちる理由を、自分で導ける
到達目標との対応:G2(統計的誤用の批判) と G4(独立性)。
1. 信頼区間の作り方¶
母平均 \(\mu\) を標本から推定したい。点推定は標本平均 \(\bar{x}\) ひとつだが、それだけでは「どれくらい確かか」が分からない。そこで 区間 で示す。
- \(s/\sqrt{n}\) … 第6回の 標準誤差(標本平均のばらつき)
- \(t_{0.975,\,n-1}\) … 母分散が未知なので、正規分布の代わりに t分布 を使う(\(n\) が小さいほど区間が広がる)
導出①:信頼区間の式は、不等式を \(\mu\) について解いたもの
統計学Ⅰ第7回では、母分散 \(\sigma^2\) が既知の場合を導いた。標準化した量が標準正規分布に従うことから出発する。
かっこの中を \(\mu\) について解く。各辺に \(\sigma/\sqrt{n}\) を掛け、\(\bar{X}\) を移項して符号を整理すると、
これが信頼区間である。新しい原理は何も使っていない。不等式を変形しただけだ。
現実には \(\sigma\) は未知なので、標本から \(s\) を計算して代わりに使う。すると分母までランダムになり、分子と分母の両方が揺れるぶん、分布は正規分布より裾が重くなる。これが自由度 \(n-1\) の t分布 で、\(1.96\) が \(t_{0.975,\,n-1}\) に置き換わる。
\(n\) が小さいほど \(s\) の当てにならなさが効くので、\(t\) の値は大きくなり区間は広がる。\(n=30\) なら \(t_{0.975,29}=2.045\) で、\(1.96\) よりわずかに大きい。
t分布の密度関数そのものの導出は、この科目で扱う統計数理の範囲外である。ここでは「なぜ正規分布のままではいけないのか」が分かれば十分。
使った数学:不等式の同値変形(数I)。標準化(統計学Ⅰ第6回)。
で、結局何人集めればいいのか ―― 必要な標本の大きさ¶
区間の幅が \( n \) で決まるなら、話は逆向きにも使える。どれくらいの精度がほしいかを決めれば、必要な人数が出る。
比率を調べる場合(内閣支持率、賛成率)、95%の標本誤差は
\( p \) は未知だが、\( p(1-p) \) は \( p=0.5 \) のとき最大の \( 0.25 \) になる。50%を仮定しておけば、いちばん厳しい側で見積もれる。
| 標本の大きさ \( n \) | 標本誤差 |
|---|---|
| 100 | ±9.8% |
| 400 | ±4.9% |
| 2,500 | ±2.0% |
| 10,000 | ±1.0% |
\( \sqrt{n} \) で効くので、誤差を半分にするには標本を4倍にしなければならない。 100人を400人にして、やっと ±9.8% が ±4.9% になる。ここが、精度にコストがかかる理由である。
では何人必要か。それは「何を見分けたいか」で決まる。
- ある比率が 40%なのか50%なのか60%なのか を見分けたい
- \( n=100 \)(±9.8%)では、40%なら 30.2〜49.8%、50%なら 40.2〜59.8% と区間が重なる。判定できない
- \( n=400 \)(±4.9%)なら、35.1〜44.9% と 45.1〜54.9% で重ならない。判定できる
- → 最低400人
- 50%なのか55%なのか を細かく見分けたい
- \( n=400 \)(±4.9%)では 45.1〜54.9% と 50.1〜59.9% で重なる
- \( n=2{,}500 \)(±2.0%)なら 48.0〜52.0% と 53.0〜57.0% で重ならない
- → 最低2,500人
この表が答えているのは、標本誤差だけである
上の人数は、正しく無作為抽出でき、回答が互いに独立であることを前提にした計算である。 第6回で見たとおり、抽出が偏っていれば \( n \) では直らず、回答が相関していれば \( n \) を増やしても実効標本サイズは頭打ちになる。 「必要な人数」を計算する前に、その人数が意味を持つ条件が揃っているかを確かめること。次の第3節が、まさにその話である。
2. 「95%」の本当の意味 ―― カバレッジ¶
95%信頼区間の正しい意味は「真の値がこの区間に95%の確率で入る」では ない。正しくは:
同じ手続きで標本を取り直して区間を作る、を何度も繰り返すと、そのうち約95%の区間が真の値を含む。
これを カバレッジ(被覆率) という。Colabで100本の区間を描くと、約95本が真の母平均を含み、約5本が外す。「95%」は真値についての確率ではなく、手続きの当たり率だ。
区間の 幅 を決めるのは3つ:標準誤差 \(s/\sqrt{n}\)、信頼度(95%か99%か)、標本サイズ \(n\)。\(n\) を増やすと幅は狭まる ―― ただし、標本が独立なら。
導出②:ランダムなのは \(\mu\) ではなく、区間の側
被覆率の定義を式で書くと、こうなる。
この式のどこに確率変数があるか を確かめてほしい。大文字で書いた \(\bar{X}\) と \(S\) は標本から計算される量で、標本を取り直すたびに値が変わる。一方 \(\mu\) は母集団が持っている定数で、動かない。
つまり確率がかかっているのは 区間の端点 であって、\(\mu\) ではない。標本ごとに区間が左右に動き、そのうち95%が、動かない \(\mu\) をまたぐ。これが「95%」の中身である。
だから「真の値が95%の確率でこの区間にある」は、式の読み違いになる。手元にある区間はすでに計算が済んでいて、端点はもう動かない。その区間が \(\mu\) を含むか含まないかは決まっており、確率は 0 か 1 しかない。95%という数は その区間を作った手続き についての性質であって、目の前の1本についての性質ではない。
使った数学:確率変数と定数の区別(統計学Ⅰ第6回)。
3. 独立が崩れると ―― 「95%」が嘘になる¶
第6回で見たとおり、標本が 相関する(みんなが空気を読んで似た回答をする)と、本当のばらつきは \(s/\sqrt{n}\) より大きい。なのに区間は \(s/\sqrt{n}\) で作る ―― つまり 狭すぎる区間 になり、真値をしょっちゅう外す。
Colabで、独立な標本と相関した標本(\(\rho=0.3\))でカバレッジを1万回ずつ測ると:
| 標本 | 「95%信頼区間」の実際のカバレッジ |
|---|---|
| 独立(\(\rho=0\)) | 約 95% ← 正しく機能 |
| 相関(\(\rho=0.3\)=空気を読む) | 約 42% ← 半分以下! |
独立なら約95%。だが空気を読むと、『95%信頼区間』は4割程度しか真値を含まない。 名前は「95%」でも中身はまるで違う。狭い区間を見て「精密に推定できた」と喜ぶのは、独立性を確認していなければ早とちりだ。
導出③:なぜ被覆率が 95% から 42% まで落ちるのか
区間が真値を捕まえる確率は、区間の半幅が、標本平均の本当のばらつきに対してどれだけ余裕を持っているか で決まる。相関があると、この比が2か所で同時に悪化する。
① 捕まえるべき的は広がる。 第6回の導出②より、標本平均の真の標準偏差は
\(n=30,\ \rho=0.3\) では \(\sqrt{9.7}=3.11\) 倍に膨らむ。
② 区間の方は逆に縮む。 半幅は \(t\,s/\sqrt{n}\) で作るが、等相関のもとでは標本の中のばらつき \(s\) 自体が小さく出る。共通の要因で全員が同じ向きに動くぶん、標本の内部では差が見えにくくなるからだ。実際 \(\mathbb{E}[s^2]=\sigma^2(1-\rho)\) となり、\(\rho=0.3\) なら \(s\) は平均して \(\sqrt{0.7}=0.837\) 倍に縮む。
両方を合わせると、
本来 \(t=2.045\) 個分の幅が必要なのに、実質 \(2.045/3.72=0.55\) 個分しか取れていない。標準正規で見積もると被覆率は
本文の表の 約42% は、この計算が出した値である。区間が狭くなるのと的が広がるのが、同じ1つの原因から同時に起きる。 だから被覆率はこれほど急激に落ちる。
数値で確かめる:\(n=30,\ \rho=0.3\) で2万回のシミュレーションを行うと、被覆率は 41.7%、\(\mathbb{E}[s^2]\) の実測は 0.701(理論値 \(\sigma^2(1-\rho)=0.70\))。独立な標本では 95.2% で、名前どおりに機能する。
使った数学:第6回の導出②。標準正規分布の分布関数(微I)。
同じことが検定にも起きる
標準誤差が小さく見積もられれば、t 値は大きくなり p値は小さく出る。狭すぎる信頼区間と、小さすぎる p値は、同じ原因から同時に生まれる。 第8回以降の検定の話も、この土台の上にある。
今期の背骨
区間推定も検定も、すべて「標本は独立」という土台の上に建っている。空気を読む集団から取ったデータでは、その土台が抜けている。狭い区間・小さいp値は、精密さの証ではなく、独立性の崩壊を見落とした結果かもしれない。 これを疑えることが、統計的誤用を見抜く力だ。
今日のまとめ¶
| ポイント | 中身 |
|---|---|
| 信頼区間 | \(\bar{x}\pm t_{0.975,n-1}\,s/\sqrt{n}\)。母分散未知なので t 分布 |
| 95%の意味 | 真値の確率ではなく、手続きを繰り返したときのカバレッジ(当たり率) |
| 幅を決めるもの | 標準誤差・信頼度・\(n\)(独立が前提) |
| 必要な標本の大きさ | 誤差を半分にするには \(n\) を4倍。40/50/60を見分けるなら400、50/55なら2,500 |
| 独立が崩れると | 区間が狭すぎてカバレッジが95%を大きく割る=「95%」が嘘になる |
今日の課題(Moodle提出)¶
配点:100点(選択40点 + 記述60点)/ 提出先:Moodle / 提出期限:次回授業の開始時刻まで
第7回のColabノート 07_interval.ipynb を上から実行し、結果を見たうえで答えること。
パートA:選択問題(各10点 ×4=40点)¶
A1. 母分散が未知のとき、母平均の95%信頼区間を作るのに使う分布は?
- (ア) 正規分布(z)
- (イ) t分布
- (ウ) 二項分布
A2. 「95%信頼区間」の正しい意味はどれか?
- (ア) 真の値が、この区間の中に95%の確率で入っている
- (イ) 同じ手続きで区間を作り直すことを繰り返すと、約95%の区間が真の値を含む
- (ウ) 標本の95%がこの区間に入っている
A3. 信頼区間の 幅 を狭くする(推定を精密にする)要因として正しいのは?
- (ア) 標本サイズ \(n\) を増やす(ただし標本が独立な場合)
- (イ) 信頼度を95%から99%に上げる
- (ウ) 標準誤差を大きくする
A4. Colabで、相関した標本(ρ=0.3、空気を読む)に対して「95%信頼区間」のカバレッジを測ると、どうなったか?
- (ア) 約95%を保った
- (イ) 約42%まで下がった(区間が狭すぎて、半分以下しか真値を含まない)
- (ウ) 約99%に上がった
パートB:記述問題(AIフィードバック対象・60点)¶
B1.(30点) 「95%信頼区間」の意味を、よくある誤解(真値が95%の確率で入る)と対比しながら、正しく150〜250字程度で説明しなさい。「カバレッジ(手続きの当たり率)」という考え方を必ず使うこと。
B2.(30点) Colabで、標本が独立でない(空気を読んで相関する)と、「95%信頼区間」が実際には4割程度しか真値を含まないことを見た。これを踏まえて次の2点を書きなさい。
- なぜ相関した標本だと区間が「狭すぎる」ものになり、カバレッジが下がるのか(第6回の標準誤差と結びつけて)
- 「とても狭い信頼区間が出た=精密に推定できた」と早とちりするのが危険なのはなぜか
ヒント:B2は第6回(相関するとSEが本当のばらつきを過小評価)の直接の帰結。狭い区間・小さいp値を見たら、まず「独立か?」を疑う習慣につながる。
文字数の目安:B1・B2あわせて 300〜500字。コピペ・引き写しは評価しない。自分の言葉で書くこと。
字数は目安です。多少の過不足で減点はしません。見るのは、設問が挙げた要素(上の箇条書き)が書けているかどうかです。ただし要素が抜けていれば、その分は引きます。
次回予告
第8回「検定の多重性問題」。「20種類のゼリービーンズとニキビの関係を検定したら、緑だけ有意になった」 ―― たくさん試すと偶然の有意が出る。p-hacking の罠へ。