第05回 連続確率分布:正規分布の数理¶
10/27(火)Ⅲ講 13:00〜14:40・B402教室
なぜ世界は正規分布だらけなのか。そして「すべてが正規」ではない
今日のリンク
- 📊 スライドを開く
- 📓 Colabノートを開く(05_normal.ipynb)
- 📝 課題を提出する(Moodle・第5回)
- 課題の本文はこのページの末尾にあります
この回のゴール¶
- 正規分布 \(N(\mu,\sigma^2)\) の形が \(\mu\) と \(\sigma\) で決まることを理解する
- 連続分布では「1点の確率は0」、面積が確率(68–95–99.7則)であることを理解する
- 標準化 \(z=\dfrac{x-\mu}{\sigma}\) を使える
- 正規分布が現れる理由=多数の独立な要因の和 を知り、同時に「すべてが正規ではない」ことを見抜く
到達目標との対応:G1(確率の理解)。第6回の中心極限定理への直接の橋渡し。
1. 正規分布の形 ―― μ と σ¶
正規分布の確率密度関数は次式。
複雑に見えるが、形を支配するのは2つだけ ―― 中心 \(\mu\)(平均) と 広がり \(\sigma\)(標準偏差)。\(\mu\) は山の位置、\(\sigma\) は山の幅を決める。
2. 連続分布では「面積」が確率¶
離散分布(第4回)では「ちょうど \(k\) 回」の確率を棒の高さで表した。連続分布では 1点の確率は0。意味があるのは「ある範囲に入る確率」= 密度曲線の下の面積 だ。
有名な 68–95–99.7 則(Colabで面積として確認できる):
| 範囲 | 入る確率 |
|---|---|
| 平均 ±1σ | 約 68.3% |
| 平均 ±2σ | 約 95.4% |
| 平均 ±3σ | 約 99.7% |
標準化:どんな正規分布も \(z=\dfrac{x-\mu}{\sigma}\) で「平均0・標準偏差1」の標準正規分布に直せる。偏差値はその応用で \(\text{偏差値}=50+10z\)。平均・ばらつきの違うテスト間で点を比べる道具だ。
3. なぜ正規分布が現れるのか ―― 独立な要因の「和」¶
身長、測定誤差、テストの点……正規分布に近いものは多い。なぜか。
答え:多数の小さな独立な要因が足し合わさると、その合計は正規分布に近づくから。身長なら何百もの遺伝子と環境要因の足し算、というように。
Colabで、\([0,1]\) の一様乱数(真っ平らで、まったく正規でない分布)を独立に足していくと:
| 足す個数 | 合計の分布の形 |
|---|---|
| 1個 | 真っ平ら(一様) |
| 2個 | 三角形 |
| 5個 | もう釣鐘型 |
| 30個 | 正規分布にぴたり一致 |
これが正規分布が至るところに現れる理由であり、次回の 中心極限定理 の正体でもある。鍵はやはり 「独立に足す」 こと。要因が独立でなければ、この収束は起きない。
4. だが「すべてが正規」ではない¶
正規分布は強力だが、世の中のデータがすべて正規だと思い込むのは誤りだ。
生き物の体重・世帯年収・都市の人口・SNSのフォロワー数・地震の規模などは、少数の極端に大きな値を持つ 裾の重い分布(べき分布・対数正規など) に従う。これらは「独立な要因の足し算」ではなく「掛け算的・自己強化的」なメカニズムで生まれるため、正規にならない。
裾の重い分布では 少数の巨大値が平均を吊り上げ、平均 > 中央値 になる(第1回「平均年収の罠」そのもの。Colabでは 平均≈517 / 中央値≈405)。
統計的誤用を防ぐ第一歩
裾の重いデータに正規分布を当てはめて「平均±2σで95%」などと計算すると、現実離れした結論になる。まず分布の形(ヒストグラム)を確かめてから手法を選ぶこと。
今日のまとめ¶
| ポイント | 中身 |
|---|---|
| 正規分布の形 | 中心 \(\mu\) と広がり \(\sigma\) だけで決まる |
| 連続分布の確率 | 1点の確率は0。面積が確率(68–95–99.7則) |
| 正規が現れる理由 | 多数の独立な要因の和は正規に近づく(→第6回CLT) |
| 正規でない世界 | 年収・人口などは裾が重い。正規を無条件に仮定しない |
今日の課題(Moodle提出)¶
配点:100点(自動採点40点 + 記述60点)/ 提出先:Moodle
第5回のColabノート 05_normal.ipynb を上から実行し、結果を見たうえで答えること。
パートA:選択問題(自動採点・各10点 ×4=40点)¶
A1. 正規分布 \(N(\mu,\sigma^2)\) の形について正しいのは? - (ア) \(\mu\) が山の幅を、\(\sigma\) が山の位置を決める - (イ) \(\mu\) が山の位置(中心)を、\(\sigma\) が山の幅(広がり)を決める - (ウ) 形は \(\mu\) だけで決まり、\(\sigma\) は関係ない
A2. 標準正規分布で「平均 ±2σ」の範囲に入る確率に 最も近い のは? - (ア) 約 68% (イ) 約 95% (ウ) 約 99.7%
A3. 連続確率分布における「確率」の考え方として正しいのは? - (ア) ちょうど1点 \(x=3.0\) になる確率は、その点の密度の高さに等しい - (イ) ちょうど1点になる確率は0で、確率は「範囲に入る面積」で表す - (ウ) 連続分布でも、棒の高さがそのまま確率である
A4. Colabで「一様乱数(真っ平らな分布)を独立にたくさん足す」と、その合計の分布はどうなったか? - (ア) 何個足しても真っ平らなまま - (イ) 足す個数を増やすほど、正規分布に近づいた - (ウ) 足すほど裾の重い(べき)分布に近づいた
パートB:記述問題(AIフィードバック対象・60点)¶
B1.(30点) 「なぜ正規分布は世の中にこれほど多く現れるのか」を、Colabの実験(一様乱数を足す)に触れながら4〜6文で説明しなさい。「独立」という言葉を必ず使うこと。
B2.(30点) 「世の中のデータはすべて正規分布だ」と考えるのは誤りである。 正規分布に従わない(裾の重い)データの例を1つ 挙げ、次の2点を書きなさい。
- なぜそのデータは正規分布にならないと考えられるか(どんなメカニズムで生まれるか)
- もしそのデータに正規分布を当てはめて「平均±2σ」などと分析すると、どんな読み違いが起こりそうか
ヒント:年収・都市の人口・SNSのフォロワー数・本の売上・地震の規模など。これらは第1回の「平均年収の罠」とつながっている。
文字数の目安:B1・B2あわせて 300〜500字。コピペ・引き写しは評価しない。自分の言葉で書くこと。
次回予告
第6回「標本分布と中心極限定理の再考」。今日見た『独立な和は正規になる』が、標本平均に効く。そして その魔法には“独立”という隠れた前提がある ことを暴く ―― 今期の核心(独立性と推測)へ向かう。