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第05回 連続確率分布:正規分布の数理

10/27(火)Ⅲ講 13:00〜14:40・B402教室

なぜ世界は正規分布だらけなのか。そして「すべてが正規」ではない


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この回のゴール

  • 正規分布 \(N(\mu,\sigma^2)\) の形が \(\mu\) と \(\sigma\) で決まることを理解する
  • 連続分布では「1点の確率は0」、面積が確率(68–95–99.7則)であることを理解する
  • 確率密度は確率ではないことを理解する(縦軸の高さには単位があり、1を超えることもある)
  • 標準化 \(z=\dfrac{x-\mu}{\sigma}\) を使える
  • 正規分布が現れる理由=多数の独立な要因の和 を知り、同時に「すべてが正規ではない」ことを見抜く
  • 発展:標準化 \(z=(x-\mu)/\sigma\) が平均0・標準偏差1になることを、自分で導ける

到達目標との対応:G1(確率の理解)。第6回の中心極限定理への直接の橋渡し。


前回の答案から

第4回の記述(パートB・60点)は、採点済み35名で 52〜59点(遅延提出の1名のみ41点)。平均 56.1点。全員が水準に達している。 今回からこの節を置く。毎回、前の回で何が書けて何が書けなかったかを最初に返す。

(10/28 追記:当初は採点済み19名時点の数字を載せていた。35名全員ぶんで数え直した。)

① ポアソン分布の前提が、1つだけ落ちる(35名中19名)

二項分布の3つ(試行回数 n が決まっている・成功確率 p が毎回同じ・各試行が独立)は ほぼ全員が書けていた。落ちるのは、ほぼこの1つだけである。過半数が落としている。

ごく短い区間に、複数件がまとまって起こらない

なぜこの仮定が要るのか。「1時間に平均3件」なら、1秒のあいだに2件同時に来ることは無視できる、 という話である。これが崩れるのは、同じ原因で一斉に起こるとき――災害時の通報、 バズった直後のアクセス。そういうデータにポアソン分布を当てると、 極端な集中を過小評価する。

前提が崩れると、平均は合っていても極端な側を読み違える。 これは前回のB2(独立が崩れると分散が激増する)とまったく同じ構造である。

② 「正の相関」か「共分散」という言葉にたどり着いた人が35名中11名

残り24名は「同じ方向にそろう」「固まりやすい」「流される」で止まっていた。 機序そのものは全員が理解している。言葉が無いだけである。渡しておく。

\[\mathrm{Var}(\text{合計}) \;=\; \sum \mathrm{Var}(\text{各人}) \;+\; \sum \mathrm{Cov}(\text{ペアごと})\]

平均(期待値)は足し算だけで決まるので、共分散の項が効かない → 5人のまま。 分散には共分散が乗るので、2.5 → 13.5(5.4倍)、全員一致は 0.2% → 38%。

いちばん短く正確に書けていたのがこれ。

真似によって答えの間に正の相関が生まれ、共分散の項が足されるために分散が大きくなる

読み違いの指摘で鋭かったのがこれ。

「これほど全員一致が起きるはずがない、偶然ではない特別な理由があるはずだ」と誤解する

独立を誤って仮定すると、ただの同調に別の原因を探してしまう。第12〜13回の核心である。

③ Colabの数値を引用した人が、35名中ゼロ

観点「根拠」が満点にならなかった唯一の理由がこれだった。第4回は減点していない。 課題文に書いていなかったのは、こちらの手落ちである。

「分散が大きくなる」より「2.5から13.5へ5.4倍になった」のほうが伝わる。

第5回から、課題文に「Colabが出した数値を1つ以上引用すること」と明記した。

その明記は、第5回については取り消す(2026-10-27)

書いたあとで確かめたところ、第5回のノートは、B1が指している実験(§3・一様乱数を足す)で数値を1つも表示していなかった。 図を4枚描くだけで、y軸の目盛りも消してある。引用できないものを求めていた。

B2(裾の重いデータの例を自分で挙げる)も、自分で例を作る設問なので、もともと対象外である。 したがって 第5回は、B1・B2とも数値の引用を求めない。 詳しくは課題欄を見ること。

引用を実質的に求めるのは第6回からにする。そのときは、ノート側が数値を表示していることを確認したうえで書く。

④ 言いすぎに注意 ―― 「真似ると集団の判断が悪くなる」

前回のモデルから言えるのは「極端に振れやすくなる」ことまでである。 全員不正解が増えるのと同じだけ全員正解も増えるので、正解率そのものは下がっていない。 正解率の話は第13回で、条件つきで扱う。

今日につながること

前回は「独立な試行を足す」と二項分布になった。今日は「独立な要因をたくさん足す」と正規分布になる。

そして前回とまったく同じ注意が効く。独立が崩れていれば、どちらも当てはまらない。 さらに今日は、独立であっても当てはまらない場合を見る。 足し算ではなく掛け算的・自己強化的に生まれる量――年収・都市の人口・フォロワー数――である。


1. 正規分布の形 ―― μ と σ

正規分布の確率密度関数は次式。

\[f(x)=\frac{1}{\sqrt{2\pi}\,\sigma}\exp\!\left(-\frac{(x-\mu)^2}{2\sigma^2}\right)\]

複雑に見えるが、形を支配するのは2つだけ ―― 中心 \(\mu\)(平均) と 広がり \(\sigma\)(標準偏差)。\(\mu\) は山の位置、\(\sigma\) は山の幅を決める。


2. 連続分布では「面積」が確率

離散分布(第4回)では「ちょうど \(k\) 回」の確率を棒の高さで表した。連続分布では 1点の確率は0。意味があるのは「ある範囲に入る確率」= 密度曲線の下の面積 だ。

\[P(a \le X \le b) = \int_a^b f(x)\,dx\]

有名な 68–95–99.7 則(Colabで面積として確認できる):

範囲 入る確率
平均 ±1σ 約 68.3%
平均 ±2σ 約 95.4%
平均 ±3σ 約 99.7%

68–95–99.7 則標準正規分布で、平均から±1σに68.3%、±2σに95.4%、±3σに99.7%の面積が入る。−3σ−2σ−1σμ+1σ+2σ+3σ±1σ に 68.3%±2σ に 95.4%±3σ に 99.7%この3つの数字は、曲線の下の面積を計算しただけのもの。新しい法則ではない ―― 正規分布の式から出てくる値である。そして、分布が正規のときだけ成り立つ。

この3つの数字はどこから来たのか ―― 覚える法則ではない

68–95–99.7 は、新しく覚えるべき別の法則ではない。正規分布の密度関数の下の面積を、計算しただけである。

\[P(-1 \le Z \le 1)=\int_{-1}^{1}\frac{1}{\sqrt{2\pi}}\,e^{-z^2/2}\,dz = 0.6827\]

この積分は手では解けない(\( e^{-z^2/2} \) の原始関数は、初等関数では書けない)。だから歴史的には標準正規分布表を引いてきたし、いまは Colab が cdf(累積分布関数)で計算する。ノートに出てくる 0.6827 / 0.9545 / 0.9973 がそれである。

標準化してから使う。 どんな \( N(\mu,\sigma^2) \) でも \( z=(x-\mu)/\sigma \) で標準正規分布に直せるので、表(あるいは cdf)は標準正規の1枚だけで足りる。これが標準化のありがたさである(→導出①)。

分布が正規のときだけ成り立つ

この3つの数字は正規分布の性質であって、データ一般の性質ではない。裾の重いデータに当てはめると外れる。

統計学Ⅰ第3回では、霊長類の体重で実測している。生のグラム単位では ±1SD に 97.4% が入ってしまい(理論は68%)、対数に直すと 71.7% まで近づいた。 「平均±2σで95%」は、分布の形を確かめてから使う道具である(→第4節)。

導出⓪:では縦軸の「高さ」は何なのか ―― ヒストグラムから確率密度を作る

「面積が確率」と言われても、ではあの曲線の高さは何なのかが残る。

先に定義

確率密度(probability density):確率そのものではなく、確率を幅で割った量である。

\[f(x) \;=\; \lim_{\text{幅}\,\to\,0}\;\frac{\text{その幅に入る確率}}{\text{幅}}\]

横軸が cm なら、単位は 1/cm。幅をかけ戻すと確率(=面積)に戻る。

なぜそう定めるのかを、第4回の離散分布から順に作っていく。

第1歩:離散分布では、高さがそのまま確率だった。

第4回の二項分布では、\(k\) の上に立つ棒の高さが \(P(X=k)\) そのものだった。棒の高さを全部足すと1になる。離散型では「高さ=確率」である。

第2歩:連続量で同じことをすると、高さが潰れていく。

子ども100人の身長を、幅1 cm の階級で数えたとしよう。

階級 人数 相対度数
120〜121 cm 2人 0.02
121〜122 cm 3人 0.03

相対度数 \(0.02\) は「120〜121 cm に入る確率」の見積もりである。ここで階級幅を半分(0.5 cm)に刻み直すと、

階級 人数 相対度数
120〜120.5 cm 1人 0.01
120.5〜121 cm 1人 0.01

人数が分かれるので、相対度数も半分になる。さらに幅を \(0.1\) cm にすればもっと小さくなる。幅を細かくしていくと、どの階級の確率も0に近づく。

これが「1点の確率は0」の正体である。1点とは幅0の階級のことで、幅0なら中に入る人はいない。離散型のように「高さ=確率」で描こうとすると、グラフは刻むたびに潰れてしまい、分布の形が残らない。

第3歩:幅で割ると、形が残る。

潰れる原因は、分子(相対度数)が幅に比例して小さくなることだった。ならば幅で割ってしまえばよい。

\[\text{(高さ)}=\frac{\text{相対度数}}{\text{階級幅}}\]

上の数字で確かめる。

階級幅 相対度数 相対度数 ÷ 幅
1 cm 0.02 \(0.02 / 1 = \mathbf{0.02}\)
0.5 cm 0.01 \(0.01 / 0.5 = \mathbf{0.02}\)

幅を変えても同じ \(0.02\) に落ち着く。 潰れない。この「相対度数 ÷ 階級幅」が 確率密度 であり、幅を0に近づけた極限が 確率密度関数 \(f(x)\) である。

同じことを、データ全体の形で見ておく。

ヒストグラムから確率密度へ左:相対度数をそのまま高さにすると、階級幅を細かくするほど山が潰れる。右:相対度数を階級幅で割ると、どの幅でも同じ高さに落ち着き、確率密度関数に重なる。① 相対度数をそのまま高さにする相対度数00.050.10.150.2100115130145160身長 (cm)幅 5 cm:山の高さ 0.191幅 2 cm:山の高さ 0.079幅 1 cm:山の高さ 0.040細かく刻むほど高さが下がる ―― 幅0なら0これが「1点の確率は0」の正体② 相対度数 ÷ 階級幅相対度数÷幅00.010.030.040.05100115130145160身長 (cm)確率密度関数 f(x)幅 5 cm:0.0383幅 2 cm:0.0396幅 1 cm:0.0398どの幅でも 0.040 に落ち着き、曲線に重なる潰れない ―― これが確率密度

第4歩:だから確率は面積になる。

第3歩の式を逆に読むと、

\[\text{相対度数}\;(\text{=確率})\;\approx\; f(x)\times\text{幅}\]

これは長方形の面積である。範囲 \(a\le X\le b\) の確率は、細い長方形をその範囲ぶん足したもの ―― すなわち

\[P(a \le X \le b)=\int_a^b f(x)\,dx\]

確率が面積として現れるのは、密度をいったん幅で割ったからである。割った分を、幅をかけて戻しているにすぎない。

ここまでの結論

  • 離散型:高さ=確率。高さの合計が1
  • 連続型:高さ=確率密度(=確率 ÷ 幅)。高さは確率ではない。 面積の合計が1

使った数学:相対度数、極限、積分が面積を表すこと(数Ⅱ・数Ⅲ)。

導出⓪の帰結:確率密度は1を超えることがある

確率は必ず \(0\) 以上 \(1\) 以下である。確率密度にその上限はない。 条件は2つだけだ。

\[f(x)\ge 0, \qquad \int_{-\infty}^{\infty} f(x)\,dx = 1\]

なぜ上限がないのかは、導出⓪の式から説明がつく。密度は確率 ÷ 幅だった。幅はいくらでも小さく取れるので、割った商はいくらでも大きくなれる。

いちばん分かりやすいのは、単位を変えてみることである。 上の身長データを、cm ではなく m で測ってみる。幅 1 cm は 0.01 m なので、

\[\frac{0.02}{0.01\ \mathrm{m}} = 2 \quad (1/\mathrm{m})\]

同じデータ、同じ分布なのに、密度は \(0.02\) から \(2\) になった。 単位を変えただけで100倍である。もし「密度は1以下」という決まりがあるとしたら、それはどの単位で測ったときの話なのかが答えられない。だから上限は置けない。

確率密度には単位がある

身長を cm で測るなら、確率密度の単位は 1/cm である。密度 × 幅 で cm が消えて、はじめて単位のない確率になる。

面積だけが、測り方に左右されない確率として読める。 高さの数値は測り方次第で変わる。

正規分布でも同じことが起こる。標準正規分布 \(N(0,1)\) の山の高さは

\[f(0)=\frac{1}{\sqrt{2\pi}\,\sigma}=\frac{1}{\sqrt{2\pi}}=0.399\]

でたしかに1より小さいが、\(\sigma\) を小さくすれば山は高くなる。\(N(0,0.1^2)\) なら

\[f(0)=\frac{1}{\sqrt{2\pi}\times 0.1}=3.989\]

で1をはるかに超える。それでも矛盾しない。山が高いぶん横幅が狭く(\(\pm3\sigma=\pm0.3\))、面積はちゃんと1に収まる(この範囲で \(0.9973\))。

確率密度は1を超えることがある標準正規分布の山の高さは0.399だが、標準偏差0.1の正規分布では3.989になる。どちらも曲線の下の面積は1である。01234高さ = 1確率密度-4-2024x山の高さ 3.989 (σ=0.1)山の高さ 0.399 (σ=1)どちらも曲線の下の面積は 1。高さは1を超えてよい。σ=0.1 の山は高いが横幅が狭いので、面積はちゃんと1に収まる。

やってしまいがちな読み違い

標準正規分布のグラフを見て、山の高さ \(0.399\) を「39.9%」と読んではいけない。パーセントになるのは面積のほうで、\(\pm1\sigma\) の \(68.3\%\) がそれである。 \(0.399\) は「\(1/\mathrm{(}z\) の1目盛り\(\mathrm{)}\)」という単位を持った高さにすぎない。

標準化:どんな正規分布も \(z=\dfrac{x-\mu}{\sigma}\) で「平均0・標準偏差1」の標準正規分布に直せる。偏差値はその応用で \(\text{偏差値}=50+10z\)。平均・ばらつきの違うテスト間で点を比べる道具だ。

導出①:標準化すると、なぜ平均0・標準偏差1になるのか

標準化は、見かけは割り算だが、中身は1次式である。

\[z=\frac{x-\mu}{\sigma}=\frac{1}{\sigma}x+\left(-\frac{\mu}{\sigma}\right)\]

つまり \(a=1/\sigma\)、\(b=-\mu/\sigma\) とした \(aX+b\) にほかならない。\(E[aX+b]=aE[X]+b\) と \(\mathrm{SD}[aX+b]=|a|\,\mathrm{SD}[X]\) という規則(導出②で示す)を当てはめると、

\[E[Z]=\frac{1}{\sigma}\mu-\frac{\mu}{\sigma}=0, \qquad \mathrm{SD}[Z]=\left|\frac{1}{\sigma}\right|\cdot\sigma=1\]

中心を \(\mu\) だけずらして原点に合わせ、物差しの目盛りを \(\sigma\) で割って1に揃えている。どんな \(\mu,\sigma\) でも同じ形に着地するから、正規分布表は標準正規の1枚だけで足りる。偏差値 \(50+10z\) も同じ規則で、平均50・標準偏差10になる。

数値で確かめる:霊長類265種の体重(平均 5,880.9 g、標準偏差 13,109.8 g)を標準化すると、平均は \(-1.1\times10^{-16}\)(計算誤差の範囲で0)、標準偏差はちょうど 1.000000。\(50+10z\) に直すと平均 50.000、標準偏差 10.000。

標準化は分布の『形』を変えない

標準化でそろうのは中心と目盛りだけで、山の形はそのままである。歪んだデータを標準化しても正規分布にはならない。 体重のデータは標準化しても歪んだままで、第4節で見る「裾の重さ」は少しも消えない。標準化を正規化と呼ぶことがあるが、正規分布にする操作ではない。

使った数学:1次式の読み替え、期待値と分散の変換規則(導出②)。

導出②:\(E[aX+b]=aE[X]+b\) と \(V[aX+b]=a^2V[X]\)

期待値は和と定数倍について線形なので、そのまま

\[E[aX+b]=aE[X]+b\]

分散は定義に戻る。\(Y=aX+b\) とおくと \(E[Y]=aE[X]+b\) なので、偏差は

\[Y-E[Y]=(aX+b)-(aE[X]+b)=a\left(X-E[X]\right)\]

足した \(b\) がここで消える。 全員を同じだけずらしても、互いの差は変わらないからである。あとは二乗して期待値をとるだけ。

\[V[Y]=E\left[\left(Y-E[Y]\right)^2\right]=E\left[a^2\left(X-E[X]\right)^2\right]=a^2V[X]\]

平方根を取って \(\mathrm{SD}[aX+b]=|a|\,\mathrm{SD}[X]\)。定数を足してもばらつきは変わらず、定数倍だけがばらつきを変える。 テストで全員に10点加点しても差は縮まらない、というのはこの式の帰結である。

数値で確かめる:体重をグラム単位から \(0.001\) 倍(kg)にして \(3\) を足すと、平均は 8.8809(\(0.001\times 5{,}880.9+3=8.8809\))、標準偏差は 13.1098(\(0.001\times 13{,}109.8=13.1098\))。規則どおりで、\(+3\) は標準偏差に影響していない。

使った数学:期待値の線形性、分散の定義 \(V[X]=E[(X-E[X])^2]\)。


3. なぜ正規分布が現れるのか ―― 独立な要因の「和」

身長、測定誤差、テストの点……正規分布に近いものは多い。なぜか。

答え:多数の小さな独立な要因が足し合わさると、その合計は正規分布に近づくから。身長なら何百もの遺伝子と環境要因の足し算、というように。

Colabで、\([0,1]\) の一様乱数(真っ平らで、まったく正規でない分布)を独立に足していくと:

足す個数 合計の分布の形
1個 真っ平ら(一様)
2個 三角形
5個 もう釣鐘型
30個 正規分布にぴたり一致

これが正規分布が至るところに現れる理由であり、次回の 中心極限定理 の正体でもある。鍵はやはり 「独立に足す」 こと。要因が独立でなければ、この収束は起きない。

導出③:中心極限定理は、何を仮定して何を主張しているのか

ここは証明ではなく、主張の正確な読み方である。次回の本題に入る前に、仮定と結論を区別しておく。

\(X_1,\dots,X_n\) が互いに独立で、同じ分布に従い、平均 \(\mu\) と有限の分散 \(\sigma^2\) をもつとする。和を \(S_n=X_1+\dots+X_n\) と書くと、\(E[S_n]=n\mu\)、\(V[S_n]=n\sigma^2\)(分散のほうは独立を使っている)。これを標準化した量が、

\[\frac{S_n-n\mu}{\sigma\sqrt{n}} \;\longrightarrow\; N(0,1) \qquad (n \to \infty)\]

読み取るべき点は4つある。

  1. 独立 が要る。要因が互いに影響し合えば成り立たない。
  2. 分散が有限 であることが要る。裾が極端に重く分散が発散する分布では成り立たない。
  3. 近づくのは 和(または平均)の分布 であって、データ1つ1つの分布ではない。
  4. \(n\) が有限のうちは 近似 にすぎない。どれくらい近いかは分布の形による。

数値で確かめる:\([0,1]\) の一様乱数を \(k\) 個足した和を20万回作り、標準化して正規分布と比べたときの累積確率の最大のズレ。

足す個数 \(k\) 正規分布とのズレ(最大)
1 0.0587
2 0.0183
5 0.0062
30 0.0031

上の表の「1個は真っ平ら、2個で三角、5個で釣鐘、30個でぴたり」が、数字でも確かめられる。

この授業で扱う統計数理の範囲外

中心極限定理の証明には特性関数(モーメント母関数)が必要で、この授業の範囲を超える。第1節の密度関数がなぜあの形なのかも同様に扱わない。ここでは、仮定と結論を正確に述べられること、そして仮定が崩れたときに何が起きるかを見抜けることを目標にする。

『和が正規』であって『データが正規』ではない

この定理は独立な要因の足し算について述べている。体重や年収のように、要因が掛け算的・自己強化的に効いて生まれる量は、いくらデータを集めても正規にはならない。次の第4節がその話である。

使った数学:期待値と分散の変換規則(導出②)、独立なときの分散の加法性。


4. だが「すべてが正規」ではない

正規分布は強力だが、世の中のデータがすべて正規だと思い込むのは誤りだ。

生き物の体重・世帯年収・都市の人口・SNSのフォロワー数・地震の規模などは、少数の極端に大きな値を持つ 裾の重い分布(べき分布・対数正規など) に従う。これらは「独立な要因の足し算」ではなく「掛け算的・自己強化的」なメカニズムで生まれるため、正規にならない。

裾の重い分布では 少数の巨大値が平均を吊り上げ、平均 > 中央値 になる(第1回「平均年収の罠」そのもの)。

Colabの §4 が出す値はこうなる。

平均 中央値 歪度
正規分布(シミュレーション) 500 500 +0.00
霊長類の体重(実データ・265種) 5,881 g 3,006 g +7.60

正規分布では平均と中央値が一致するのに、体重では平均が中央値の約2倍になっている。 さらに 平均 − 1SD = −7,254 g ―― ありえないマイナスの体重が範囲に入ってしまう。

統計的誤用を防ぐ第一歩

裾の重いデータに正規分布を当てはめて「平均±2σで95%」などと計算すると、現実離れした結論になる。まず分布の形(ヒストグラム)を確かめてから手法を選ぶこと。


今日のまとめ

ポイント 中身
正規分布の形 中心 \(\mu\) と広がり \(\sigma\) だけで決まる
連続分布の確率 1点の確率は0。面積が確率(68–95–99.7則)
確率密度 縦軸の高さ。確率ではない(確率 ÷ 幅)。単位を持ち、1を超えることもある
正規が現れる理由 多数の独立な要因の和は正規に近づく(→第6回CLT)
正規でない世界 年収・人口などは裾が重い。正規を無条件に仮定しない

今日の課題(Moodle提出)

配点:100点(選択40点 + 記述60点)/ 提出先:Moodle / 提出期限:次回授業の開始時刻まで

第5回のColabノート 05_normal.ipynb を上から実行し、結果を見たうえで答えること。


パートA:選択問題(各10点 ×4=40点)

A1. 正規分布 \(N(\mu,\sigma^2)\) の形について正しいのは?

  • (ア) \(\mu\) が山の幅を、\(\sigma\) が山の位置を決める
  • (イ) \(\mu\) が山の位置(中心)を、\(\sigma\) が山の幅(広がり)を決める
  • (ウ) 形は \(\mu\) だけで決まり、\(\sigma\) は関係ない

A2. 標準正規分布で「平均 ±2σ」の範囲に入る確率に 最も近い のは?

  • (ア) 約 68% (イ) 約 95% (ウ) 約 99.7%

A3. 連続確率分布における「確率」の考え方として正しいのは?

  • (ア) ちょうど1点 \(x=3.0\) になる確率は、その点の密度の高さに等しい
  • (イ) ちょうど1点になる確率は0で、確率は「範囲に入る面積」で表す
  • (ウ) 連続分布でも、棒の高さがそのまま確率である

A4. Colabで「一様乱数(真っ平らな分布)を独立にたくさん足す」と、その合計の分布はどうなったか?

  • (ア) 何個足しても真っ平らなまま
  • (イ) 足す個数を増やすほど、正規分布に近づいた
  • (ウ) 足すほど裾の重い(べき)分布に近づいた

パートB:記述問題(AIフィードバック対象・60点)

B1.(30点) 「なぜ正規分布は世の中にこれほど多く現れるのか」を、Colabの実験(一様乱数を足す)に触れながら150〜250字程度で説明しなさい。「独立」という言葉を必ず使うこと。

【第5回だけの扱い】B1に数値の引用は要りません(2026-10-27 変更)

当初「Colabが出した数値を1つ以上引用すること」と書いていましたが、取り消します。

B1が指している実験(§3・一様乱数を足す)のセルは、図を4枚描くだけで数値を1つも表示しません(y軸の目盛りも消してあります)。 引用できない数値を求めていたので、こちらの設計ミスです。

満点の条件はこうです。

  1. 独立な要因を足し合わせると、合計の分布が正規分布に近づく、という筋道が書けている
  2. その根拠として、足す個数を増やすとヒストグラムの形がどう変わったか(真っ平ら → 三角 → 釣鐘型 → 正規に一致)を、自分で見たとおりに書けている
  3. 「独立」という言葉を使い、なぜ独立が要るのかに触れている

形の変化を自分の言葉で書けていれば、数値がなくても満点です。数値を書きたい人は、§2の 0.6827 などを使ってもかまいませんが、加点にも減点にもなりません。

B2.(30点) 「世の中のデータはすべて正規分布だ」と考えるのは誤りである。 正規分布に従わない(裾の重い)データの例を1つ 挙げ、次の2点を書きなさい。

  1. なぜそのデータは正規分布にならないと考えられるか(どんなメカニズムで生まれるか)
  2. もしそのデータに正規分布を当てはめて「平均±2σ」などと分析すると、どんな読み違いが起こりそうか

ヒント:年収・都市の人口・SNSのフォロワー数・本の売上・地震の規模など。これらは第1回の「平均年収の罠」とつながっている。

文字数の目安:B1・B2あわせて 300〜500字。コピペ・引き写しは評価しない。自分の言葉で書くこと。

字数は目安です。多少の過不足で減点はしません。見るのは、設問が挙げた要素(上の箇条書き)が書けているかどうかです。ただし要素が抜けていれば、その分は引きます。

次回予告

第6回「標本分布と中心極限定理の再考」。今日見た『独立な和は正規になる』が、標本平均に効く。そして その魔法には“独立”という隠れた前提がある ことを暴く ―― 今期の核心(独立性と推測)へ向かう。