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第09回 効果量とp値批判

12/1(火)Ⅲ講 13:00〜14:40・B402教室

「有意」であることと「重要」であることは、まったく別


この回のゴール

  • p値が 標本サイズ \(n\) に依存 することを理解する(\(n\) を増やせば無意味な差でも有意になる)
  • 効果量(Cohen's d)を理解し、計算・解釈できる
  • 「統計的に有意」と「実質的に重要」が別の軸であることを見抜く
  • p値だけで結論せず、効果量(+信頼区間)をセットで報告する作法を身につける

到達目標との対応:G2(p値の限界と効果量の重要性を理解し、統計的誤用を批判的に検証できる) の本丸。


1. ほんの少しの差を、巨大な標本で調べると

2つの教育法 A と B。本当の平均点の差は、たった 0.5点(100点満点・SD=10に対してごくわずか)。実質的にはどうでもいい差だ。

これを標本サイズ \(n\) を増やしながら t 検定する(1標本だとp値が運でぶれるので、200回くりかえした p値の中央値 を見る):

\(n\) 典型的な p値
100 0.45
1,000 0.27
10,000 0.0003 ★有意
100,000 ≈0 ★★有意

差は0.5点のまま変わらないのに、\(n\) を大きくするだけで p値はいくらでも小さくなる。 10万人も調べれば、どうでもいい差が「p<0.001 で有意!」になる。

理由:t検定の統計量は(差の大きさ)×\(\sqrt{n}\) におよそ比例する。差が小さくても \(n\) を増やせば統計量は大きくなり、p値は下がる。p値は「差の重要さ」ではなく、半分は「標本の大きさ」を映しているだけだ。


2. 効果量 ―― 「差の大きさ」そのものを測る

p値が当てにならないなら、何を見るか。効果量(effect size) ―― 標本サイズに振り回されない、差の大きさそのものの指標だ。2群の平均差には Cohen's d を使う:

\[d = \frac{\bar{x}_A - \bar{x}_B}{s}\quad(\text{差が、標準偏差いくつぶんか})\]

目安は \(d=0.2\) 小、\(0.5\) 中、\(0.8\) 大。さっきの「0.5点差」は \(d\approx0.05\) ―― 「小」の基準 0.2 にも遠く及ばない、無視してよい差だと分かる。p値は \(n\) で激変するが、効果量はぶれない。

だから結果は「有意かどうか」だけでなく、必ず「効果量はどれだけか」をセットで見る。できれば効果量に信頼区間を付けて「どれくらいの差が、どれくらいの確かさであるか」を語る。


3. 4つの組み合わせ ―― 有意と重要は独立

「統計的に有意か」と「実質的に重要(効果量が大きい)か」は別々の軸で、組み合わせは4通り。とくに危ないのが2つ:

Colabの実例 p値 効果量 d 落とし穴
① 巨大標本×ごく小さな差 p≈0(有意) 0.05(ごく小) 「重要な発見」と誤る
② 小標本×はっきりした差 p=0.25(非有意) 0.70(大) 「差はなかった」と切り捨てる

①をp値だけで「重要な発見」と誤り、②を「差はなかった」と切り捨てる ―― これがp値偏重の典型的な誤用だ。

近年の 再現性危機(多くの“有意な発見”が追試で再現しない問題)の一因もここにある。p<0.05 という関門だけを見て、効果量・事前登録(第8回)・サンプル設計を軽視してきたことのツケだ。

p値との正しい付き合い方

p値は「偶然だけでこの差が出る出やすさ」を測るだけで、差の大きさでも、仮説が正しい確率でも、結果の重要さでもない。「有意差が出た」と聞いたら問う ―― 『効果量は? それは実生活で意味のある大きさ?』。p値と効果量、両方をそろえて初めて結論できる。


今日のまとめ

ポイント 中身
p値の弱点 標本 \(n\) に依存。\(n\) を増やせば無意味な差でも有意になる
効果量 差の大きさそのもの(Cohen's d など)。\(n\) に振り回されない
有意 ≠ 重要 「小さいが有意」「大きいが非有意」がありうる
報告の作法 p値だけでなく、効果量(+信頼区間)をセットで示す

今日の課題(Moodle提出)

配点:100点(自動採点40点 + 記述60点)/ 提出先:Moodle

第9回のColabノート 09_effectsize.ipynb を上から実行し、結果を見たうえで答えること。


パートA:選択問題(自動採点・各10点 ×4=40点)

A1. 本当の平均差がごく小さい(0.5点)まま、標本サイズ \(n\) だけを大きくしていくと、p値はどうなるか? - (ア) ずっと変わらない - (イ) どんどん小さくなり、やがて有意(p<0.05)になる - (ウ) どんどん大きくなる

A2. 効果量(Cohen's d など)が、p値と比べて優れている点は? - (ア) 標本サイズに振り回されず、差の大きさそのものを表す - (イ) 標本サイズが大きいほど必ず大きくなる - (ウ) 0.05より小さければ「有意」と判定できる

A3. 「統計的に有意(p<0.05)」だが「効果量が非常に小さい(d=0.05)」という結果の解釈として、最も適切なのは? - (ア) 有意なのだから、実生活でも重要な差である - (イ) 差は確かにありそうだが、大きさは無視できるほど小さく、実質的な重要性は低い - (ウ) 効果量が小さいので、この差は完全に存在しない

A4. 小さい標本(n=6)で「効果量は大きい(d=0.7)が p=0.25 で非有意」という結果が出た。最も適切な態度は? - (ア) 非有意なので「差はなかった」と結論する - (イ) 大きい効果量が見えているので、標本不足で見逃した可能性を考え、サンプルを増やして再検討する - (ウ) p値が0.25なので、効果量も信用できない


パートB:記述問題(AIフィードバック対象・60点)

B1.(30点) 「10万人を対象に調査したところ、新薬で症状スコアが平均0.5ポイント下がり、統計的に有意だった(p<0.001)」という発表がある。この結果を どう読むべきか、p値と効果量の違いに触れて4〜6文で説明しなさい。「p値が小さい=効果が大きい」という誤解を正すこと。

B2.(30点) 「統計的に有意」と「実質的に重要」は別の軸である。 あなたの身近な例(勉強法・健康・商品の宣伝など何でもよい)で、「有意だが重要でない」または「重要そうだが(標本が小さく)有意と言えない」 にあてはまりそうな状況を1つ考え、次の2点を書きなさい。

  1. その状況で、p値だけを見るとどんな間違った判断をしてしまうか
  2. 効果量(差の大きさ)も見ると、判断はどう変わるか

文字数の目安:B1・B2あわせて 300〜500字。コピペ・引き写しは評価しない。自分の言葉で書くこと。

次回予告

第10回「因果推論入門:RCTと観察研究」。ここからは因果の話。「サプリを飲んだ人は健康だった。サプリのおかげ? それとも、もともと健康志向の人が飲んだだけ?」