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第2回 資料:どこまで言えるか

問い:友達20人に聞いた結果を「大学生は〜」と言っていいか。

問題は人数だけではない。「友達を選んでいる」ことのほうが大きい。 同じ選び方のまま人数を増やしても、選び方による偏りは消えない。


1. 全部は聞けない

知りたいのは「大学生」のことでも、実際に聞けるのは一部の人だけである。

用語 意味 例
母集団 本当に知りたい人たちの全体 北星の学生全員/日本の大学生/10代・20代/日本に住んでいる人
標本(依頼対象) 母集団から、調査対象として選んだ人たち この授業のクラス40人
回答者 そのうち、実際に答えた人たち 返ってきた20人

選んだ人と、答えた人は別である。40人に依頼して20人が答えたなら、 標本は40人、回答者は20人、回収率は50%。この区別が、あとで効いてくる(§3)。

母集団は「北星の学生」とは限らない。「日本の大学生はどうなのか」を知りたいなら母集団は日本の大学生であり、 そのとき標本はこのクラスの40人になる。母集団を大きく取るほど、計画書の 2-(c)「どんな人が抜けるか」に書くことが増える。 どちらが正しいということはない。自分がどちらを知りたいのかを、先に言葉にする。

集計が直接示すのは、実際に答えた人たちの結果である。母集団について述べるには、 対象者の選び方・非回答の影響・推定に必要な前提を検討する必要がある。 標本から母集団を推定すること自体は、統計の中心的な目的である。できない、という話ではない。

ただしこの授業では、便宜的に回答者を集める。そのため、 「大学生全体の傾向である」とは断定しない。

だから最初に決めることは1つ

誰のことを知りたいのか。

ここが決まっていないと、「何人集めればいいか」も「誰に聞けばいいか」も決まらない。


2. 選び方には名前がついている

対象の決め方 どうやるか 特徴と注意点
全数調査 対象となる全員を調べる 一部だけを選ぶことによる誤差はない。ただし調査漏れ・未回答・誤回答は起こりうる
単純無作為抽出 名簿からくじ引きで選ぶ 恣意的な選び方を避けられ、標本抽出に伴う偶然の誤差(標本誤差)を評価できる。ただし非回答の問題は残る
層別抽出 学部などに分け、それぞれから無作為に選ぶ 各層の人数を確保でき、推定の精度が上がることがある。全体を集計するときは抽出率に応じた重み付けが要ることがある
多段抽出 学部→クラス→学生と段階的に無作為に選ぶ 名簿の準備や調査の手間を減らせる。推定では段階的な選び方を考慮する必要がある
(便宜的な集め方) 近くにいる人・友人・SNSで回す 実施しやすいが、母集団全体への一般化には強い制約がある

これは「良い順」ではない。層別抽出はあらゆる偏りを防ぐ方法ではないし、多段抽出は「そこそこの方法」でもない。 層別と多段は組み合わせて使うこともできる。

この授業でやるのは、いちばん下である。それでよい。ただし、そう書く。

「本調査は、担当教員の授業の履修者40名を対象としたものであり、大学生全体の傾向を示すものではない」

この一文が書ける人の調査は、信用される。


3. 2つの偏り

選択バイアス ── 誰に聞いたか

「学食の満足度」を学食の前で聞けば、学食を使う人ばかりが答える。使わない人(=いちばん不満かもしれない人)は最初からいない。

サークルの紹介ページによくある例

「入会者の90%が満足と回答」

今も在籍している人に聞いた数字であることが多い。やめた人は数に入っていない。

非回答バイアス ── 誰が答えなかったか

答えなかった人は、答えた人と違う特徴を持っているかもしれない。 その違いが調べたい内容に関係していると、答えた人だけの集計は偏る。 非回答があれば必ず偏る、というわけではない。関係しているかどうかを考える。

担当教員の経験から

前期の授業で、うまく進んでいない学生を早めに見つけようとして、自己申告のアンケートを配ったことがある。

結果はうまくいかなかった。いちばん支援が必要な学生ほど、アンケートに答えない。 授業に来られていない人は、アンケートにも来ない。

「困っている人は手を挙げてください」という方法は、手を挙げられる人しか拾えない。

回収率を必ず記録する。50人に依頼して20人が答えたなら、回収率は40%。 答えなかった30人がどんな人かを考える。

依頼した相手と、実際に答えた人は別物である。計画書でも分けて書く。

言葉 指すもの 例
標本(依頼対象) 調査対象として選んだ人 50人
回答者 実際に答えた人 20人
回収率 回答者 ÷ 標本 40%

SNSで広く募集した場合は、何人に届いたか分からないので回収率を計算できない。 そのときは「計算できない」と、その事情を記録する。

回収率だけでは、偏りの有無も大きさも分からない。記録は出発点であって結論ではない。


4. 聞いてはいけないこと・守ること

調査は、答えてくれる人の時間と情報をもらう行為である。

この授業では扱わない

回答者の負担や情報漏えいのリスクを避けるため、この授業では次を調査しない。

  • 病歴・信条・家計の詳細など、特に慎重な扱いを必要とする事項
  • 個人が特定できる情報(氏名・学籍番号)を、必要がないのに聞くこと

研究一般で禁止されている、という意味ではない。こうした事項を扱う調査では、 目的・必要性・リスク・説明と同意・保護措置を慎重に検討したうえで実施する。 この授業では、そこまでの手続きを取らないので扱わない。

伝える

  • 何のための調査か
  • 答えるかどうかは自由であること(設問ごとに答えなくてよい)
  • どう使い、いつ消すか
  • 集計結果を第11回でウェブに公開すること

守る

  • 目的外に使わない(授業のために集めたデータを、別のことに使わない)
  • ねつ造・改ざん・盗用をしない。都合の悪い回答を捨てない
  • 保管と廃棄を決めておく

5. 🔴 データをどこに置くか

これが、この授業でいちばん事故が起きやすいところである。

集めた回答は、答えてくれた人の情報である。自分のものではない。

置いてよい 大学アカウントのOneDrive。共有はグループのメンバーと教員だけに限る/Moodleの提出
置いてはいけない 公開されるウェブページ/誰でも見られる共有リンク/SNS/自分のPCだけ/個人のクラウドアカウントに置きっぱなし

なぜ大学アカウントなのか

集めた回答は、卒業したあとも残るからである。

個人のGoogleアカウントやスマホに置いたままにすると、同級生の回答が、あなたの私物のアカウントに残り続ける。 大学はそこに手を出せない。あなたが卒業しても、アカウントを放置しても、誰も気づかない。

大学アカウントのOneDriveなら、大学の管理下にある。卒業後も使い続けられる個人のアカウントとは、そこが違う。 預かったものを、預かった場所に置いて、期限が来たら終わる。これが筋である。

フォームはどちらでもよい。基準は「安全か」

どの会社の製品かで決めない。次の3つを満たしているかで決める。

1. 匿名で集める

確認すること
Google Forms メールアドレスの収集がオフか(既定はオフ)/「結果の概要を表示する」をオフにする。オンだと回答できる人が全員の回答を見られる
Microsoft Forms 「名前を記録する」をオフにする。組織内に限定すると、既定で氏名が記録される

既定が逆なので、自分が使うほうを必ず確認する。 1件テスト回答をして、氏名の列が出ていないことを自分の目で確かめること。

2. 回答を私物のアカウントに残さない

  • Microsoft Forms:大学アカウントで作れば、回答は最初から大学のOneDriveに入る。移す手順が要らない
  • Google Forms:回収を締めたら、CSVを書き出して大学アカウントのOneDriveに置き、フォーム側に残っている回答を消す。 3つ目を忘れると、1と2をやった意味がない。元が残っていれば移していない

手順が少ないぶん、Microsoft Forms のほうが事故が起きにくい。

3. 自分のPCだけに置かない

壊れたとき、なくしたときに、誰も気づけない。

第11回で成果物のページを公開する。公開できるのは、集計したあとの表とグラフである。

ただし「集計したから公開してよい」とは限らない。

  • 該当者が1人しかいない区分は、その集計値から本人の回答が分かってしまう
  • 散布図で1点が1人を表していれば、グラフにしただけでは守れていない
  • 他の情報と組み合わせて特定できないかも考える

公開してよいのは、個人の回答が推測できないことを確認した集計結果だけ。 人数の少ない区分、珍しい属性の組み合わせ、個人の値が見える図は、 区分をまとめる・出さないを検討し、教員の確認を受ける。

  • 回答データ(CSV)は公開しない
  • 自由記述はそのまま載せない。内容から本人が特定されることがあり、 答えた人が想定していない形で公開されることになる

5.5 AIに聞いてよいこと・教員に確認すること

操作で困ったときは、まずAIに聞いてよい。ただし次は教員に確認する。

  • 調査してよい内容かどうか
  • 個人情報をどう扱うか
  • 公開してよいかどうか

実際の回答データや、個人を特定できる情報を、教員の確認なくAIに入力しない。 大学のCopilotにデータ保護の仕組みがあることと、調査データを入れてよいことは別の話である。


6. 卒業:1文で書く

自分の調査について、次の1文を書けるようにする。

「この調査で言えるのは(   )までであり、(   )については言えない。」

書けないなら、まだ誰に何を聞くのかが決まっていない。


課題2(5点)調査計画書

  • [ ] 何を知りたいのか(問い)
  • [ ] 誰に聞くのか(母集団と、実際に聞ける範囲)
  • [ ] どうやって聞くのか、何件集めるつもりか
  • [ ] 倫理チェック(聞かないこと・伝えること・データの置き場所)
  • [ ] 「どこまで言えるか」の1文