コンテンツにスキップ

第1回 オリエンテーション

9/29(火)Ⅴ講 16:40〜18:20・A301教室

解説動画について

このページの内容をもとに、8分の解説動画を用意しました(Gemini Notebook で生成)。予習にも復習にも使えます。ページを読む前に見ても、読んだあとの確認に使っても構いません。

ただしAIが資料から自動生成したものなので、細かい言い回しや強調のしかたはこのページと完全には一致しません。正確な定義・数値・前提は、必ずこのページ本体で確認してください。


この回の問い

「なんとなくそう思う」と「調査でわかった」は、どこが違うのか。

到達目標

この授業全体の到達目標は2つ。

  1. 社会調査の倫理を身につけ、説明できるようになること
  2. 社会調査の種類・方法に関する基礎知識を身につけ、どのような調査を実施すべきか議論できるようになること

要点

社会調査とは何か

社会調査(Social Research / Social Survey)とは、社会的な事実や人々の意識・行動を、系統的な方法で収集・分析し、社会の実態を明らかにしようとする活動である。鍵になる言葉は3つ。

言葉 意味するところ
系統的(systematic) 思いつきで集めない。手順を決めてから集める
データ(data) 問いに答える根拠として、一定の方法で収集・記録した情報。数値だけでなく、意見や感情についての回答、語り、観察記録も含む
調べる対象 人々の意識や行動、人と人との関係、制度や生活環境など、社会について確かめたい事柄

「主観はデータにならない」ではない

満足度、不安、支持・不支持といった主観的な回答そのものが、社会調査の立派なデータである。 避けたいのは回答者の主観ではなく、調べる側の思い込みを、そのまま結論にしてしまうことのほうだ。 だから手順を決めてから集める。

「なんとなく」との違いは、根拠と手続きを示せることにある

観点 個人的な印象にとどまる判断 系統的な社会調査
根拠 経験や記憶に依存しやすい 収集・記録した情報を根拠として示す
対象 身近な人や目立つ事例に偏りやすい 目的に応じて対象と選び方を検討する
手続き 判断に至る過程が明示されないことが多い 収集・分析の手続きを記録し、説明する
誤りや限界の検討 根拠が共有されないと検討しにくい 対象・方法・分析をもとに検討できる

決定的なのは最後の2行だ。誰を対象に、何を、どのように集め、どう分析したのかが明示されているから、結論を支える根拠も、その調査の限界も、他の人が検討できる。 社会調査が「証拠に基づいて社会を語る道具」と呼ばれるのは、この点による。

「手続きの明示」と「同じ結果が出ること」は別

手続きを明示するのは、再現性を検討できるようにするためであって、 「同じ方法で調べれば必ず同じ結果になる」という意味ではない。 同じ質問を同じ方法で尋ねても、時期や対象者が違えば回答は変わりうる。 逆に、偏った方法を繰り返せば、同じように偏った結果が何度でも出る。 「再現した」だけでは、その調査が正しいことの保証にはならない。

日常的な調べ物(Googleで検索する、友人に聞く)との違いも同じところにある。日常の目的は「自分が知りたいことを知ること」だが、社会調査の目的は「社会的事実を明らかにし、共有すること」である。共有するからこそ、倫理・方法・報告に一定の基準が求められる。

誰が、何のために使っているか

  • 政策・行政 … 国勢調査、世論調査で人口・国民意識を把握し政策を立案する
  • ビジネス … 市場調査・マーケティングリサーチで消費者ニーズをつかむ(→ 第6回)
  • 研究・学術 … 社会問題の実態解明、理論の検証
  • 市民社会 … NPOによる生活困窮者調査、地域ニーズの把握

いま「読む側」の力が問われている

近年、調査そのものの信頼性が揺らぐ出来事が続いた。

  • 調査結果の恣意的な利用(都合のよいデータだけを強調する)
  • 標本の偏り(誰に依頼し、誰が実際に答えたのかが確認できない調査がある)
  • 統計不正問題(厚生労働省・毎月勤労統計調査、2018年)
  • メディアによる調査結果の誤読

「ネットだから駄目」ではない

インターネット調査とひとことで言っても中身は違う。 無作為抽出した対象者にオンラインで答えてもらう調査もあれば、 登録モニターやSNSで募った人に答えてもらう調査もある。前者と後者では、 結果を社会全体に当てはめてよいかがまったく変わる。 見るべきは回線ではなく、誰に回答を依頼し、誰が実際に回答したのかである。 これは紙の調査でも同じで、回収率が低ければ同じ問題が起きる。

だから、この授業で身につけるのは調査を実施する力だけではない。①調査結果を批判的に読む力、②調査を自分で設計・実施する基礎力、③調査に伴う倫理的責任の理解、の3つである。

身近な調査の例

例 実施主体 特徴
国勢調査 総務省統計局 5年に1回(直近2025年)。日本に常住する人と世帯が対象の全数調査(外国人を含む)
世論調査 内閣府大臣官房政府広報室 無作為抽出で選んだ対象者に意識・意見を尋ねる。近年は郵送法で実施
マーケティングリサーチ 企業 新商品開発、SNSトレンド分析、CS調査(→ 第6回)
学術研究 研究者 ひとり親家庭の生活困難、若者の政治参加、外国人住民の労働環境など

「誰を選ぶか」と「どう集めるか」は別の話

無作為抽出は対象者の選び方、郵送・面接・インターネットは回答の集め方である。 この2つは独立していて、組み合わせは自由に変わる。 内閣府の世論調査は長く個別訪問面接法を基本としてきたが、新型コロナへの対応で 令和2年度以降は郵送法に変わり、令和3年度以降は一部の調査で郵送・インターネットの どちらでも回答できる。対象者の条件や方法は調査ごとに調査概要で確認すること。 (選び方=第10回、集め方=第11・12回で詳しく扱う)

教室でのディスカッション(5分)

これまでに見聞きした「社会調査」の例を1つ挙げ、どんな調査だったか/誰が、何のために行ったか/その結果をどこで知ったかを隣の人と共有する。


今日の課題(Moodle提出)

配点:100点(この授業の評価は毎回の課題100%) / 提出期限:次回授業の開始前まで

最近(2026年以降)の新聞記事・ニュースサイトから「社会調査が使われている記事」を1つ探し、以下を記述すること。

  1. 記事のタイトルと出典(URL可)
  2. どんな調査か(誰が、何を、どのように調べたか)
  3. その調査結果がどのように使われているか
  4. あなたが気になった点・疑問点

分量の目安:300〜500字


この回のまとめ

  • 社会調査とは、社会的事実を系統的に収集・分析する活動
  • 政策・ビジネス・学術・市民社会のあらゆる場面で使われる
  • 「なんとなく」ではなく証拠に基づいて社会を語るための道具
  • 調査結果を批判的に読むリテラシーが現代人に求められる
  • この授業では倫理・方法・実践の3軸で社会調査を学ぶ

次回予告

第2回「社会調査の歴史」。社会調査はいつ、なぜ始まったのか。事前学習:新聞記事で「社会調査」が使われている事例を探しておくこと。


参考文献


【入門書・教科書】

社会調査全般

大谷信介・木下栄二・後藤範章・小松洋(編)(2013)
『新・社会調査へのアプローチ――論理と方法』ミネルヴァ書房.
→ 定番の社会調査法テキスト。量的・質的両方をカバー。

盛山和夫(2004)
『社会調査法入門』有斐閣ブックス.
→ 社会調査の論理と方法を体系的に解説。

轟亮・杉野勇(編)(2017)
『入門・社会調査法【第3版】――2ステップで基礎から学ぶ』法律文化社.
→ ステップ形式で学べる標準的なテキスト。

島崎哲彦(編著)(2011)
『社会調査の実際――統計調査の方法とデータの分析[第9版]』学文社.
→ 各調査方法を実例とともに解説。最新版は第13版(2019)。


【社会調査の歴史・思想的背景】

岩永雅也・大塚雄作・高橋一男(2001)
『社会調査の基礎[改訂版]』放送大学教育振興会.
→ 社会調査の歴史から現代的課題まで丁寧に解説。

酒井隆(2012)
『アンケート調査の進め方[第2版]』日本経済新聞出版社(日経文庫).
→ 実務的視点からのアンケート設計入門書。


【統計・データ・リテラシー関連】

西内啓(2013)
『統計学が最強の学問である』ダイヤモンド社.
→ データと社会調査の考え方を平易に解説したベストセラー。

ダレル・ハフ(著)高木秀玄(訳)(1968)
『統計でウソをつく法』講談社ブルーバックス.
(原著:Huff, D. (1954). How to Lie with Statistics. Norton.)
→ データの読み方・誤読への警戒を学ぶ古典。薄くて読みやすい。


【現代的な社会調査の事例・問題】

日本統計学会(編)(2015)
『改訂版 日本統計学会公式認定 統計検定2級 対応 統計学基礎』東京図書.
→ 統計的概念の基礎固めに。

総務省統計局(2025)
『令和7年国勢調査』総務省.
→ 実際の調査票・調査方法の公式資料。ウェブ公開。

内閣府大臣官房政府広報室
『世論調査』各年度版.
→ 内閣府ウェブサイトで無料公開。毎回の授業での事例参照に活用できる。


【ウェブリソース】

名称 URL 概要
総務省統計局 https://www.stat.go.jp/ 国勢調査・労働力調査等の公的統計
内閣府世論調査 https://survey.gov-online.go.jp/ 政府による各種世論調査の結果
e-Stat(政府統計の総合窓口) https://www.e-stat.go.jp/ 各省庁の統計データを横断検索
J-STAGE https://www.jstage.jst.go.jp/ 国内学術論文の無料検索・閲覧
CiNii Research https://cir.nii.ac.jp/ 国内論文・図書・研究データ検索

【次回(第2回「社会調査の歴史」)に向けた事前読書】

以下のどちらか1冊の第1章を読んでおくと第2回の理解が深まります(任意):

  • 大谷信介ほか(2013)上掲書 第1章「社会調査へようこそ」
  • 盛山和夫(2004)上掲書 第1章「何のための社会調査か」


開講日程 / 第2回 →