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第12回 インタビュー調査の方法と調査例

12/22(火)Ⅴ講 16:40〜18:20・A301教室

今日のリンク


この回の問い

話を聞けば分かる、というわけではない。では何が「聞けている」ということなのか。

到達目標

  1. インタビュー調査の特徴を質問紙調査と比較して説明できる
  2. 3種類のインタビューの違いと使いどころを理解する
  3. インタビューガイドの骨格を自分で作れる
  4. ラポール形成と積極的傾聴の技術を知る
  5. 逐語録の意義と倫理的配慮を説明できる
  6. 模擬インタビューを通じて実践的なスキルを体験する

要点

質問紙とどこが違うのか

インタビュー調査が重視するのは深さと意味である。質問紙が「どのくらいか」を測るのに対し、インタビューは「その人にとってそれが何を意味するのか」を聞く。前回の設計課題と突き合わせて、どちらが自分の問いに合っているかを考えてほしい。

3種類のインタビュー

種類 やり方 使いどころ
構造化 決めた質問を全員に同じ順序・同じ言葉で尋ねる 回答の比較が目的。就職面接、センサスの聴き取り
半構造化 大まかなガイドを用意し、流れに合わせて柔軟に変える 社会科学の質的調査で最も広く使われる。生活史調査、職業経験調査
非構造化 事前の質問はほぼなく、会話の流れに委ねる 深いラポールと高い技術が要る。エスノグラフィ、ライフヒストリー

インタビューガイドは「地図」であって「台本」ではない

半構造化インタビューで使う質問の見取り図をインタビューガイドという。

  1. 研究目的を確認する … 最終的に何を明らかにしたいのか
  2. トピックリストを作る … 必ず聞きたいテーマを列挙する
  3. 大まかな質問を書く … 各トピックに2〜3問の主要質問
  4. プローブを用意する … 深掘りするための追加質問
  5. 順序を整える … 安心できる話題から始め、徐々に核心へ

目安は、60〜90分のインタビューで主要質問5〜8問程度。ガイドはあくまで地図であり、対話の流れを優先する。

ラポール ―― 信頼がなければ表面しか出てこない

ラポール(rapport) は調査者と被調査者のあいだに築かれる信頼・安心感の関係を指す。信頼関係がなければ表面的な答えしか得られず、デリケートな話題には踏み込めない。

  • 自己紹介と調査目的の説明 … 誰が・なぜ・何のために調査するか
  • インフォーマルな会話 … 始める前に雑談で緊張をほぐす
  • 非審判的な態度 … 正しい/間違いの評価をしない
  • 共感の表明 … うなずき、「それは大変だったんですね」
  • 外見・服装 … 対象者のコミュニティになじむ配慮

聴く技術

積極的傾聴(active listening) ―― ただ聞くのではなく、理解を深めるために能動的に関わる。

  • 言い換え:「つまり、最初は不安だったけれど、だんだん慣れてきたということですか?」
  • 要約:「今おっしゃったのは、A→B→Cという流れですか?」
  • 感情の反映:「その時はとても嬉しかったんですね」
  • 沈黙の活用:回答のあと5〜10秒待つと、対象者がさらに語り始めることがある

プローブ(probe) ―― 回答を深めるための追加的な問いかけ。

種類 目的
詳述プローブ もっと詳しく語ってもらう 「もう少し詳しく教えていただけますか?」
具体化プローブ 具体例を求める 「例えばどのような状況でしたか?」
対比プローブ 比較・対比を引き出す 「以前と比べてどう変わりましたか?」
感情プローブ 感情的側面を掘り下げる 「その時どんな気持ちでしたか?」

プローブは中立的に使う。 深掘りのつもりが誘導になっていないか、常に確かめる。

記録と逐語録

録音が最も正確だが、必ず事前に同意を得る。機器トラブルに備えてメモも並行して取り、現場を離れたらすぐ書き足す。

逐語録(トランスクリプト) は録音を文字に起こしたもので、分析の基礎になる。ルールは3つ ―― 要約・修正をせず言ったとおりに書く、「えー」「あの」などの言いよどみも記録する、非言語情報も記号で残す(「(笑)」「(4秒の沈黙)」「(声が小さくなる)」)。

1時間の録音の逐語録に、6〜10時間かかることもある。 何人に聞くかを決めるときは、この時間を勘定に入れる。

倫理的配慮

  • [ ] 調査の目的と利用方法を説明したか
  • [ ] 録音・掲載の可否について確認したか
  • [ ] 途中でやめる権利があることを伝えたか
  • [ ] 個人情報の管理方法を説明したか
  • [ ] 研究成果の公開方法(論文・発表等)を伝えたか

匿名性の保持は、報告書で仮名・記号を使う(「Aさん(20代・女性)」)だけでなく、地名・職場名など特定につながる情報を変えるか削除するところまで含む(→ 第3回)。

分析方法の概観

手法 考え方
KJ法(川喜田二郎, 1967) 逐語録からキーフレーズを抽出し、親和性のあるものをグループ化して帰納的に概念を生成する。初学者でも取り組みやすい
グラウンデッド・セオリー(Glaser & Strauss, 1967) コーディング → カテゴリ化 → 理論生成。反復的なデータ収集と分析を組み合わせる(理論的サンプリング)
ナラティブ分析 語りの構造・意味・語り方そのものを分析する。「人々はどのように経験を意味づけるか」に注目する

今日の課題(Moodle提出)

提出期限:次回授業の開始前まで

課題:インタビューガイドの作成と分析方向性の検討 分量:300〜500字程度(ガイドの記述を含む)

自分が関心を持つ社会的テーマについて、インタビュー調査を実施することを想定し、以下を作成すること。

  1. テーマと問い(2〜3行):何をどのような問いとして調査するか
  2. 対象者(1〜2行):どのような人に話を聞くか、その理由
  3. インタビューガイド:主要質問4〜6問、プローブを各1問以上
  4. 想定される回答の一例:1問について100〜150字程度で想像して記述
  5. 分析の方向性(2〜3行):得られたデータをどのように分析するか(KJ法・GTM等を参照してよい)

この回のまとめ

  • インタビュー調査は深さと意味を重視する質的アプローチ
  • 構造化・半構造化・非構造化の3種類。目的によって使い分ける
  • インタビューガイドは「地図」であり、会話の流れを妨げない
  • ラポール形成積極的傾聴が質の高いデータにつながる
  • 録音 → 逐語録の作成が分析の基礎
  • インフォームドコンセント・匿名性の保持は研究倫理の根幹
  • 分析手法にはKJ法・グラウンデッド・セオリー・ナラティブ分析がある

次回予告

第13回「観察法の方法と調査事例」。話を聞くのをやめて、見る。


参考文献

インタビュー調査の方法と調査例


入門書・教科書(社会調査全般)

1. 大谷信介・木下栄二・後藤範章・友枝敏雄(編)(2013) 『新・社会調査へのアプローチ:論理と方法』ミネルヴァ書房

第8〜9章でインタビュー調査の種類・ガイド作成・記録方法・倫理が系統的に解説されている。第11回に続けてこの章を読むと、量的・質的調査の対比が明確になる。


2. 佐藤郁哉(2002) 『フィールドワークの技法:問いを育てる、仮説をきたえる』新曜社

フィールドワーク全般を対象とした実践的な入門書。第3章「聞き取りの技法」は本回の内容に直接対応し、ラポール形成・プローブ・逐語録作成までを具体的に解説。初学者が最初に手に取るべき一冊。


3. 轟亮・杉野勇(編著)(2017) 『入門・社会調査法:2ステップで基礎から学ぶ(第3版)』法律文化社

量的・質的双方をバランスよくカバー。質的調査の章では実際のインタビュー逐語録の抜粋を示しながら分析プロセスを説明しており、イメージをつかみやすい。


4. 岸政彦・石岡丈昇・丸山里美(2016) 『質的社会調査の方法:他者の合理性の理解社会学』有斐閣ストゥディア

「他者を理解する」という質的調査の本質的な問いから出発する良書。生活史インタビューを中心に、聴き取りの倫理・技術・分析を丁寧に論じる。実際の語りの引用が豊富で読みやすい。


5. 石川良子(2023) 『質的研究のための理論読本』ミネルヴァ書房

グラウンデッド・セオリー・ナラティブ分析・ディスコース分析など、主要な質的分析手法を概説。本回の「分析方法の概観」をさらに深く学びたい学生向け。


第12回テーマ(インタビュー調査)に特化した文献

6. 岸政彦(2015) 『断片的なものの社会学』朝日出版社

授業内で紹介した、生活史インタビューをベースにした研究書。方法論の解説書ではなく実際の調査成果だが、「インタビューによって何が見えてくるのか」を感覚的に理解させてくれる。読み物として読みやすく入門に最適。


7. 能智正博(2011) 『質的研究法』東京大学出版会(「臨床心理学をまなぶ」シリーズ)

心理学・福祉・医療の文脈でのインタビュー研究を念頭に書かれているが、社会学・社会調査にも応用できる。インフォームドコンセント・匿名化・メンバーチェッキングなど、倫理的配慮のセクションが特に充実している。


8. Kvale, S., & Brinkmann, S. (2009) InterViews: Learning the Craft of Qualitative Research Interviewing (2nd ed.). Sage Publications.

質的インタビュー研究の国際標準的な教科書。インタビューガイドの作成から分析・執筆までを網羅的に解説。英語が読める学生には研究の国際的な文脈を知る上でも有益。


ウェブリソース

日本社会学会「研究倫理規程」 https://jss-sociology.org/about/ethics/

社会学的調査研究における倫理基準が明示されている。インタビュー調査の設計段階で必ず参照すること。プライバシーの保護・インフォームドコンセント・データ管理に関する条項が重要。


北海道大学大学院教育学研究院「研究倫理」(参考) https://www.edu.hokudai.ac.jp/

大学での研究倫理委員会のガイドラインの例として参照。実際に調査を実施する際は北星学園大学の規定に従うこと。


NHK放送文化研究所「メディア利用調査・インタビュー事例」 https://www.nhk.or.jp/bunken/

定量・定性調査の実例が公開されている。インタビュー調査をどのように報告書に仕上げているかを参照できる。


岸政彦氏ウェブサイト「生活史の方法について」(インタビュー記事等) 検索キーワード:「岸政彦 生活史 インタビュー 方法論」

著者自身が雑誌・ウェブ媒体で方法論について語った記事が複数公開されている。教科書的な記述の補完として、研究者の肉声から学ぶことができる。


次回(第13回)に向けた事前読書案

推奨: 大谷ほか(2013)前掲書、第10〜12章「量的データの集計と分析」

あるいは: 岩井紀子・保田時男(2007)前掲書、第6〜7章「記述統計と集計」

第13回はExcelを使ったデータ処理の実習も行います。Excelの基本操作(データ入力・関数・グラフ作成)を事前に確認しておいてください。


文献に関する質問は授業後またはオフィスアワーにどうぞ。


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