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第6回 市場調査・マーケティングリサーチ

11/10(火)Ⅴ講 16:40〜18:20・A301教室

今日のリンク


この回の問い

企業は消費者の何を、どうやって調べているのか。そして、それは学術の調査とどこが違うのか。

到達目標

  1. 市場調査とマーケティングリサーチの違いを説明できる
  2. 一次データ収集の主要な手法(アンケート・FGI・覆面調査・観察調査)を理解する
  3. 二次データ(POSデータ・購買履歴・SNS分析)の活用方法を知る
  4. ビッグデータ時代のマーケティングリサーチの変化を把握する
  5. 学術的社会調査との共通点・相違点を整理する

要点

「市場調査」と「マーケティングリサーチ」は同じか

厳密には違う。

  • 市場調査(マーケットリサーチ) … 市場の現状把握に焦点。「この地域の年齢別人口は」「競合のシェアは」。主に記述的(→ 第4回の4類型)
  • マーケティングリサーチ … 市場調査を含むより広い概念。製品開発・価格設定・販売促進・流通など、意思決定全般を支援する。「なぜ消費者はこの商品を選ばないのか」

近年は両者を区別せず「マーケティングリサーチ」と呼ぶことが多い。

一次データを集める4つの方法

① アンケート調査

方式 メリット デメリット
郵送調査 広域・低コスト 回収率が低い
Web調査 迅速・低コスト インターネット利用者に偏る
対面調査 高回収率・深掘り可 コスト・時間がかかる
電話調査 迅速・全国対応 固定電話保有者に偏る

マーケティング調査ではクオータ(割り付け)サンプリング(年齢・性別・地域で均等に割り付ける)がよく使われる。無作為抽出ではない点に注意(→ 第10回)。

② グループインタビュー(FGI) 6〜8人を集め、モデレーターが進行して自由に意見交換させる。新商品コンセプトの評価、パッケージデザインの反応、CMの試写評価などに使う。少人数なので統計的代表性はなく、「声の大きい人」に引きずられるリスクがある。

③ 覆面調査(ミステリーショッパー) 調査員が普通の客を装って店舗を利用し、接客品質・待ち時間・クレーム対応などを評価する。小売・飲食・金融・コールセンターで広く使われるが、被調査者が調査されていることを知らないという倫理的課題を抱えている(→ 第3回・第13回の「隠れた観察」)。

④ 観察調査 店内の動線・滞在時間・商品の手に取り方を、カメラやセンサー、アイトラッキングで記録する。棚の高さ別の売れ行きから「ゴールデンゾーン(目線の高さ)」が導かれたのはこの手法による。

人は「自分の行動を正確に語れない」ことが多い。 観察は実際の行動を、インタビューは意識・態度を測る。測っているものが違う。

二次データとビッグデータ

すでに集まっているデータを再利用する道もある。

  • POSデータ … レジで記録される商品・時刻・個数・価格。いつ何がいくつ売れたかをリアルタイムに把握
  • 購買履歴データ … ポイントカード・ECサイトの記録。個人レベルの繰り返し購買を追える
  • SNS分析(テキストマイニング) … 投稿・口コミから自然発生的な消費者の声(VOC)を拾う

ビッグデータの特徴は3V ―― Volume(量)・Velocity(速度)・Variety(多様性)。コンビニでは天気・イベント・曜日を組み合わせた発注最適化が行われている。調査をせずとも行動ログから消費者を知る時代になりつつある。

学術的社会調査との比較

マーケティングリサーチ 学術的社会調査
主な目的 意思決定支援・利益追求 知識の生産・理論検証
依頼者 企業・団体 研究者・学術機関
タイムライン 短期(数週間〜数か月) 長期(数年に及ぶことも)
公開性 非公開が原則(企業秘密) 公開・査読が原則
サンプリング クオータ・便宜サンプルが多い 確率サンプリングを重視
倫理審査 任意・業界の自主規制 機関倫理審査委員会(→ 第3回)

共通しているのは、問いの明確化・データの体系的な収集と分析・解釈と報告という骨格である。違うのは目的と、結果を誰と共有するかである。


今日の課題(Moodle提出)

提出期限:次回授業の開始前まで

分量:300〜500字

身近な企業(コンビニ・飲食チェーン・アパレル・家電メーカーなど)が実施したマーケティングリサーチ事例を1つ調べ、以下の点を分析すること。

  1. 調査の目的:その企業は何を明らかにしようとしたのか
  2. 調査手法:どのような方法でデータを集めたのか(アンケート・観察・POSデータ等)
  3. 調査結果の活用:得られた情報をどのように製品・サービス・戦略に反映したのか
  4. あなたの評価:その調査手法は目的に対して適切だったと思うか。理由も述べること

企業のプレスリリース・ニュース記事・公式サイト等を参考にすること。情報源(URL・記事名・閲覧日)を必ず記載すること。


この回のまとめ

  • 市場調査はマーケティングリサーチの一部。企業の意思決定を支援する
  • 一次データ収集の主要手法:アンケート・FGI・ミステリーショッパー・観察調査
  • 二次データ(POS・購買履歴・SNS)はリアルタイム性・低コストが強み
  • ビッグデータ・AIにより「調査せずとも行動ログで分析」する時代になっている
  • 学術調査との大きな違い:目的(利益 vs. 知識)・公開性・倫理審査の有無

次回予告

第7回「先行研究の調査」。CiNii Research を実際に操作して、論文を1本探す。


参考文献

市場調査・マーケティングリサーチ


入門書・教科書

田村正紀(2006)『リサーチ・デザイン:経営知識創造の基本技術』白桃書房。

マーケティングリサーチの設計から分析まで体系的に解説した国内の定番テキスト。調査目的の設定と手法選択の論理が丁寧に説明されており、初学者にも読みやすい。

恩藏直人・冨田健司 編著(2011)『1からのマーケティング・リサーチ』碩学舎。

マーケティングリサーチの基礎概念から実査の実務的手順まで、図表を豊富に使って解説した入門書。大学のマーケティング論の副読本として適している。

大野正和・戸田裕美子(2014)『マーケティング・リサーチ入門』日経文庫。

コンパクトにまとめられた実務向け入門書。一次調査・二次調査の具体例が多く、短時間で概要をつかむのに最適。

竹村和久(2009)『消費者行動論:マーケティングとブランド構築への応用』有斐閣。

消費者の意思決定プロセスを認知科学・行動経済学の観点から解説。マーケティングリサーチが明らかにしようとしている「消費者心理」の理論的背景を理解するための一冊。


当該回テーマに関連する文献

杉本徹雄 編著(1997)『消費者理解のための心理学』福村出版。

消費者行動の観察・調査手法について、心理学の方法論をベースに解説。観察調査やFGIの理論的根拠を学ぶのに役立つ。

日本マーケティング・リサーチ協会(JMRA)編(随時更新)『マーケティング・リサーチ綱領』JMRA。

業界団体による倫理規程。ミステリーショッパー・オンライン調査・個人情報の取り扱いに関するガイドラインが明示されており、調査倫理の観点から必読。ウェブサイトで無料公開。

藤本隆宏・武石彰・青島矢一 編著(2001)『ビジネス・アーキテクチャ:製品・組織・プロセスの戦略的設計』有斐閣。

商品開発プロセスの研究書として定評がある。マーケティングリサーチが新製品開発のどの段階でどのように機能するかを、組織論的視点から理解するのに有用。


ウェブリソース

日本マーケティング・リサーチ協会(JMRA) https://www.jmra-net.or.jp/

業界団体のウェブサイト。調査手法の解説、倫理綱領、業界統計(年間調査費用規模等)を無料で閲覧可能。

J-MARKETING.NET(日本マーケティング研究所) https://www.jmrlsi.co.jp/

マーケティングリサーチの実務事例・コラムが豊富。企業による具体的な調査活用例を読むことができる。

経済産業省「特定サービス産業動態統計調査」 https://www.meti.go.jp/statistics/tyo/tokusabido/

調査業(マーケティングリサーチ業を含む)の市場規模・売上高統計。マーケティングリサーチ産業の全体像を把握するための公的統計。

NielsenIQ Japan(ニールセン) https://nielseniq.com/global/ja/

世界最大規模の市場調査会社の日本法人サイト。消費財市場のトレンドレポートの一部が無料公開されている。


次回事前読書案(任意)

第07回「先行研究の調査」に向けて

谷岡一郎(2000)『「社会調査」のウソ:リサーチ・リテラシーのすすめ』文春新書。

社会調査・世論調査にひそむ誤謬と誇張を批判的に検討した名著。「調査の結果をどう読むか」を養う前に、批判的視点を持つためのウォームアップとして推奨。第07回の文献信頼性評価の議論にも接続する。

林知己夫・鈴木達三(1987)『社会調査と数量化:国際比較における理論と応用(第3版)』岩波書店。

やや専門的だが、調査設計の数理的基礎に関心がある学生に。


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