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第4回 社会調査の目的と分類

10/20(火)Ⅴ講 16:40〜18:20・A301教室

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この回の問い

調査の「正しい方法」はあるのか。それとも、目的によって変わるのか。

到達目標

  1. 社会調査を「目的」によって4種類に分類できる
  2. 社会調査を「時間軸」によって横断的・縦断的に分類できる
  3. 各分類の長所・短所・適用場面を説明できる
  4. 実際の調査事例に接し、適切な調査設計を判断できる
  5. 年齢効果・時代効果・コホート効果がなぜ分離しにくいのかを説明できる
  6. トレンド調査が成り立つ条件(調査方法を変えないこと)を説明できる

要点

なぜ「分類」が要るのか

調査法に唯一の正解はない。「どれが正しいか」ではなく「目的に合っているか」が問われる。だから、まず自分の調査がどの型に当たるのかを言えるようになる必要がある。分類の軸は2つ ―― 目的と時間軸である。

軸① 目的による4類型

類型 何をする調査か 典型的な問い
記述的調査
Descriptive
実態を正確に描き出す 「どれくらいの人が◯◯しているか」
説明的調査
Explanatory
原因と結果の関係を検証する 「なぜ◯◯が起きるのか」
探索的調査
Exploratory
よく分かっていない領域の見当をつける 「そもそも何が起きているのか」
評価的調査
Evaluative
施策・事業の効果を判定する 「その取り組みは効果があったか」

探索的調査は仮説を作るために行い、説明的調査は仮説を検証するために行う。この違いは第9回(質的研究と量的研究)で再び出てくる。

軸② 時間軸による分類

横断的調査(Cross-Sectional Study) ある一時点で調べる。コストが低く実施しやすいが、変化を捉えられない。「AとBに関連がある」ことは言えても、どちらが先かは言えない。

縦断的調査(Longitudinal Study) 時間をかけて追跡する。3つの型がある。

型 追いかける対象 分かること 難点
パネル調査 同じ人を繰り返し調べる 個人の中で起きた変化 脱落(パネル摩耗)、費用
コホート調査 同じ経験を共有する集団(同年生まれ等) 世代に固有の効果 長期間かかる
トレンド調査 同じ母集団からその都度標本を取る 社会全体の趨勢 個人の変化は追えない

パネルとトレンドの違いは重要である。「若者の◯◯離れ」を論じるとき、同じ人が変わったのか、若者という層の中身が入れ替わったのかは、この設計の違いでしか区別できない。

年齢・時代・コホート ―― 3つが混ざる問題

「20代の投票率が30代より低い」というデータがあったとき、考えられる理由は3つある。

効果 中身 この説明が正しいなら
年齢効果 歳をとると変わる いまの20代も、30代になれば投票するようになる
時代効果 その時期の社会状況が全員に効く 選挙が盛り上がらない年だったので、全世代で低い
コホート効果 その世代に固有 いまの20代は、30代になっても投票しない

横断的調査では、この3つをまったく区別できない。 一時点しか見ていないからである。

縦断にしても、3つを完全には切り分けられない

よく「トレンド調査なら時代による変化と世代による違いを切り分けられる」と言われるが、 これは正確ではない。

理由は単純な算数である。生まれ年(コホート)= 調査年(時代)− 年齢。 つまり3つのうち2つが決まれば、残り1つも決まってしまう。 独立に動かせる軸が2つしかないのに、3つの効果を別々に推定することはできない。 これは年齢・時代・コホート問題(APC問題)と呼ばれ、方法論上の未解決問題として知られている。

では縦断調査に意味がないのか。そうではない。できるのは次のことである。

  • 仮定を置いたうえで推定する(たとえば「年齢効果はこの年代では一定」と仮定する)
  • ある効果を無視できる根拠がある場合に、残りを比較する
  • 複数の解釈を並べ、どれなら整合するかを論じる

大事なのは、「切り分けられた」と書かずに「この仮定のもとでこう読める」と書くことである。 第3回の「改善後も残る限界」と同じ作法になる。

事例で考える ―― NHK「日本人の意識」調査

NHK放送文化研究所が 1973年(第1回)から5年ごとに実施してきた調査で、ほぼ同じ質問を繰り返し聞くことで、日本人の価値観の長期的な変化を追ってきた。毎回新しい無作為標本を取るので、設計はトレンド調査である。

「続いている」と書く前に確認する ―― 公表されている最新回は2018年

放送文化研究所のサイトで「日本人の意識調査」の記事をたどると、 最新は第10回(2018年実施)で、その後の回の結果は公表されていない(2026年10月時点)。 5年ごとなら2023年に第11回があるはずだが、見当たらない。

いっぽう同研究所は2024年に、別の設計の 「現代日本の社会・生活に関する意識調査」を実施している。

ここから言えることは2つある。

  1. 長期の時系列調査は、続くことが前提ではない。 設計が変わることも、止まることもある
  2. だから調査を引用するときは、「最新はいつの回か」を自分で確かめる。 「1973年から続く」と書いてある解説は、書かれた時点の話である(→ 第5回・第8回)

授業では「2018年までの10回分」として扱う。

トレンド調査が壊れるとき ―― 内閣府「社会意識に関する世論調査」

1971年から続く調査で、トレンド調査の代表例である。ところが途中で調査方法が変わった。

令和元年度(2019年度)まで 令和3年12月(2021年)以降
調査方法 調査員による個別面接聴取法 郵送法
標本数 10,000人 3,000人
有効回収数 5,392人(令和2年1月調査) 1,790人(令和3年12月調査)

内閣府自身が、報告書の注記でこう書いている。

令和元年度以前は、調査員による個別面接聴取法で実施しているため、令和3年12月調査以降との単純比較は行わない。

トレンド調査は「同じ質問を同じやり方で」聞いて初めて成り立つ

質問文が同じでも、聞き方が変われば答えは変わる。 面接では調査員が目の前にいるので社会的に望ましい方向へ寄り、郵送では自分のペースで答えられる (→ 第11回)。だから方法を変えた前後の数字をつなげて折れ線にすると、 社会が変わったのか、測り方が変わったのかが分からなくなる。

長期の時系列を守るために、調査機関は方法をなるべく変えない。 それでも回収率の低下や費用で、変えざるを得ないことがある。 そのとき系列は途切れる。 これはトレンド調査に固有の難点である。

グラフを見るときは、途中で方法が変わっていないかを調査概要で確かめること。


今日の課題(Moodle提出)

配点:100点(この授業の評価は毎回の課題100%) / 提出期限:次回授業の開始前まで

分量:300〜500字程度

新聞記事・ウェブサイト・授業中の紹介文献等を参考に、実際に実施されている社会調査を1つ選び、以下の点を述べること。

  1. 調査名・実施機関・調査年(または調査開始年)
  2. 目的による分類:記述的・説明的・探索的・評価的のうちどれにあたるか。その理由も記述すること
  3. 時間軸による分類:横断的・縦断的(パネル/コホート/トレンド)のうちどれにあたるか。その理由も記述すること
  4. この設計を選んだことの長所と短所を1点ずつ挙げること

選んではいけない調査

国勢調査・NHK「日本人の意識」調査・内閣府「社会意識に関する世論調査」は授業中に扱ったため、 それ以外の調査を選ぶこと。

1で「調査年」を調べるときに確かめてほしいこと

  • 最新の回はいつか。 「〇〇年から継続」と書いてあっても、最後の回が何年前かは別の話です
  • 途中で調査方法が変わっていないか。 変わっていれば、それ自体が4の「短所」に書けます

どちらも、調査の公式サイトの「調査の概要」に書いてあります。 URLとアクセス日(「2026年10月20日閲覧」など)も添えてください。


この回のまとめ

  • 社会調査は目的(記述・説明・探索・評価)と時間軸(横断・縦断)の組み合わせで設計される
  • 横断的調査:コストが低いが変化を捉えられない
  • 縦断的調査(パネル・コホート・トレンド):変化を追跡できるが費用・困難が増す
  • 年齢効果・時代効果・コホート効果は、生まれ年=調査年−年齢という関係があるため、完全には切り分けられない(APC問題)。「切り分けた」ではなく「この仮定のもとでこう読める」と書く
  • トレンド調査は同じ質問を同じやり方で聞いて初めて成り立つ。方法が変わると系列は途切れる(内閣府「社会意識に関する世論調査」の面接→郵送)
  • 長期の時系列調査も続くことが前提ではない。引用する前に最新の回を自分で確かめる
  • 「どれが正しいか」ではなく「目的に合っているか」が問われる

次回予告

第5回「公的統計の利用」。e-Stat を実際に操作して、統計データを自分で探す。


参考文献

社会調査の目的と分類(横断的調査と縦断的調査)


入門書・教科書

  1. 大谷信介・木下栄二・後藤範章・小松洋(編)(2013)『新・社会調査へのアプローチ:論理と方法』ミネルヴァ書房 → 社会調査の基礎概念から調査設計まで体系的に学べる定番テキスト。目的別・時間軸別の設計論が丁寧に解説されている。

  2. 轟亮・杉野勇・平沢和司(編著)(2021)『入門・社会調査法〔第4版〕:2ステップで基礎から学ぶ』法律文化社 → 「ステップ1:理論」と「ステップ2:実践」の構成で初学者が無理なく進められる。横断・縦断設計の比較が明快。

  3. 佐藤郁哉(2015)『社会調査の考え方(上)』東京大学出版会 → 調査設計の論理を哲学的・方法論的レベルから問い直す。「なぜその設計を選ぶのか」を深く考えたい学生向け。

  4. 盛山和夫(2004)『社会調査法入門』有斐閣ブックス → コンパクトで読みやすい。量的・質的両方の設計論に触れており、授業の補助教材として適している。

  5. 北川由紀彦・山口恵子(2019)『社会調査の基礎』放送大学教育振興会 → 放送大学の教材。具体的な調査事例が豊富で読み進めやすい。図書館所蔵も多い。 旧版は北川由紀彦・山北輝裕(2015 新訂)、さらに前は岩永雅也・大塚雄作・高橋一男 編著(1996/2001)。


当該回テーマ関連文献

  1. 筒井淳也・水落正明・保田時男(編)(2016)『パネルデータの調査と分析・入門』ナカニシヤ出版 → この回のテーマに最も直接対応する一冊。パネル調査をどう設計し、脱落にどう対処し、 得られたデータで何が言えるのかを、調査の側と分析の側の両方から扱っている。

6b. 三輪哲・林雄亮(編著)(2014)『SPSSによる応用多変量解析』オーム社 → SPSSを使った多変量解析の実践書。縦断データの分析に進むときの手前の段階として。

  1. NHK放送文化研究所(編)(2020)『現代日本人の意識構造〔第九版〕』NHK出版(NHKブックス1260) → 「日本人の意識」調査の集大成。第1回(1973年)から第10回(2018年)までの45年間の変化を詳述。 授業事例の原典。第10回が現在公表されている最新回なので、この第九版が最新の総括にあたる。

  2. 筒井淳也(2015)『仕事と家族:日本はなぜ働きづらく、産みにくいのか』中公新書 → パネルデータ(JLPS等)を用いた縦断的分析の成果。学術的知見を一般向けに平易に書いた好著。設計の「使い道」のイメージが湧く。


ウェブリソース

  1. NHK放送文化研究所「日本人の意識」調査(トレンド調査の代表例) URL: https://www.nhk.or.jp/bunken/research/yoron/ → 調査の概要・過去の調査票・主要結果が公開されている。授業事例として必須。

  2. 東京大学社会科学研究所 パネル調査(JLPS) URL: https://csrda.iss.u-tokyo.ac.jp/socialresearch/ → 日本のパネル調査の代表例。「働き方とライフスタイルの変化に関する全国調査」(若年・壮年パネル、 2007年1月開始・毎年)のほか、高卒パネル、中学生親子パネルを実施している。 各調査の設計資料や回収状況が公開されており、パネル調査の実物を見るならここ。 なおデータの利用申請は SSJDA(https://csrda.iss.u-tokyo.ac.jp/infrastructure/ssjda/)から行う。

  3. 内閣府「社会意識に関する世論調査」(1971年から継続するトレンド調査) URL: https://survey.gov-online.go.jp/living/202512/r07/r07-shakai/ (令和7年10月調査) → トレンド調査の事例。「本報告書を読む際の注意」と「調査の概要」を必ず開くこと。 過去の全調査の標本数・有効回収数の一覧と、面接法から郵送法に変わったことの注記がそこにある。 世論調査全体の入口は https://survey.gov-online.go.jp/

  4. e-Stat 政府統計の総合窓口(次回授業の予習も兼ねて) URL: https://www.e-stat.go.jp/ → 各種公的統計の横断的・縦断的データが集積されている。次回(第05回)での本格活用に備えて概要を確認しておくこと。


次回(第05回)に向けた事前読書案

  • 上記テキスト(1〜5)の「公的統計」「政府統計」に関する章を読んでおくと第05回の理解が深まる。
  • 総務省統計局ウェブサイト(https://www.stat.go.jp/)で「統計の種類」ページを一読しておくこと。
  • e-Stat(https://www.e-stat.go.jp/)にアクセスし、検索画面を一度触ってみること(PC推奨)。

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