【第9回 余談】「Excelできないと就職できない」って本当? — 本屋のExcel本の山から¶
※これは第9回「データ処理」の本題に入る前(または後)の 5分程度の余談 です。 操作の話ではなく、アンケートで多かった「Excelは就職に必須だと聞くから学びたい」——その“聞いた話”を、いちど立ち止まって確かめる話です。
1. 先に結論¶
- 基礎のExcel(入力・簡単な計算・表・グラフ)は、多くの仕事で役に立ちます。やっておいて損はない。
- でも 「できないと就職できない」は言い過ぎ。新卒で「Excelができないから不採用」はまれで、たいていは入社してから覚えます。
- 必要な度合いは 仕事によって全然ちがう(経理やデータ系は濃い/接客・営業・専門職は薄い)。
2. なぜ「必須」とよく聞くの?¶
「Excelできないと困るよ」という話で 得をする人 がいます。資格の試験、パソコン講座、就活対策——不安が強いほど、講座や資格が売れる。だから「必須」「ないと終わる」という強い言葉は、少し盛られて広がりやすいのです。
これは情報リテラシーの基本:強い不安をあおる情報ほど、「誰が言っていて、誰が得をするのか」を考える。
(※スクールや資格が悪いわけではありません。基礎を学ぶ手段としては有用。問題は“煽り”の部分だけ。)
3. 数字でも確かめてみた¶
- 6,139社の調査(2025年)で、企業が新卒に求める力の1位は「コミュニケーション力(82%)」。協調性・主体性が続き、Excelは項目にすら入っていません。
- 求人でいう「基本操作」は、データ入力・コピー&ペースト・SUM/AVERAGEくらいまで。VLOOKUPやピボットテーブルは「基本」には含まれません(あれは中〜上級)。
- Excelの資格(MOS)は累計 540万人超 が受けている有名な資格ですが、企業からは「基礎力の証明の一つ」とみなされる位置づけで、それだけで採用が決まるものではありません。
→ つまり「Excelできないと就職できない」は、思っているよりかなり誇張。基礎は、入社後でも、AIと一緒でも、覚えられます。
4.〔今日の本題〕本屋のExcel本の山は、何を映しているの?¶
本屋に行くと、Excelの本が棚いっぱいに並んでいます。「こんなに本が出てるんだから、やっぱり必須なんだ」——そう感じますよね。
でも、ここで第9回の話とつながります。「本の数」を、そのまま「需要(=本当に必要とされている量)」だと思っていいでしょうか?
実は、本の数が映しているのは「需要」ではなく、「話題」と「不安」 なのです。
数えてみると、おもしろいことが分かる¶
タイトルに名前が入った本を数えた調査では——
| 本のテーマ | 2023年 | 2025年 |
|---|---|---|
| ChatGPTの本 | 93冊 | 69冊 |
| 大規模言語モデル(LLM)の本 | 3冊 | 16冊(5倍以上!) |
AIの本は、ここ数年で一気に増えました。では「AIの本が増えた=AIができないと就職できない」のでしょうか? そう単純には言えません。 増えた本の多くは「AIで稼ぐ」系の自己啓発本で、AIスキルそのものの本ばかりではないからです。
「本が少ない=もう要らない」も間違い¶
逆に、Excelの 新刊 は増えにくい。でもそれは「Excelが要らなくなった」からではありません。
- Excelは仕様が安定しているので、昔の定番本がずっと使える(新刊を出さなくていい)。
- だから「新刊が少ない=需要が消えた」とは 言えない。
- 実際、いまもデータ分析の求人の 約4割 は「Excel」に触れています。
5. だから、本当に大事な力は?¶
「本の数」も「資格の人数」も、そのまま需要を表してはいません。表面の数字を鵜呑みにせず、「この数字は、本当は何を測っているの?」 と問えること——これがいちばん大事な力です。
これからの時代、操作の暗記そのものは、AI(Copilotなど)がどんどん肩代わり します。代わりに効くのは——
- 何を集計・分析したいかを自分で決める力
- AIに正しく頼み、出てきた答えが正しいか自分で確かめる力
第9回でやった「手で1回だけ集計して、AIの結果と一致するか確かめる」——あれと同じことです。数字(本の数、AIの答え)を、いちど自分の手と頭で検証する。操作の暗記より、ずっと長く効く力 を今つけています。
6. 自分で確かめてみよう(5分)¶
人の“聞いた話”ではなく、一次情報で確認 してみましょう。
- 興味のある仕事(職種)の求人を、2〜3件ひらく
- 「Excel」がどう書かれているか見る:「必須」?「歓迎」?「基本操作」? それとも書いていない?
- 気づいたことをメモ
たぶん、「必須」と断言しているものは思ったより少なく、「基本操作ができれば十分」が多いはずです。自分の目で確かめると、不安は小さくなります。
今日のまとめ 本屋のExcel本の山も、AI本の洪水も、映しているのは「不安」と「話題」。 数えるべきは“冊数”ではなく、「その数字が本当に何を測っているのか」。 ——道具に振り回されず、目的に向かってデータを扱う力。そっちのほうが、10年後も効きます。
本資料は、担当教員(小野原)が生成AI「Claude」(Anthropic社)と協働して作成しました(2026年)。内容は教員が確認しています。誤りや違和感があればご指摘ください。